北里大学医学部上部消化管外科学主任教授 医学部長の比企直樹先生が、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務めるラジオ番組『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)に出演。胃の大切な役割や栄養管理の重要性、患者にとって「唯一の楽しみ」ともいえる病院食を変えた工夫について語った。

「胃」は食べ物をためるだけではない
上柳:先生の著書『100年食べられる胃』を読ませていただいて、「食べることは生きること」、そして「胃こそ食欲の司令塔」と書かれていました。改めて、胃の大切さについて教えていただけますか。
比企先生:胃というのは、いわゆる「胃袋」という言葉で表されていますよね。胃袋というと、食べたものをためておく袋のようなイメージがありますが、決してそれだけではありません。もちろん、ためる機能もありますが、それ以上に重要なのが、食べ物を次の消化のステップである十二指腸や小腸へ送り出す役割です。
さらに、ホルモンを分泌するなど、体の中でさまざまな働きをしています。そう考えると、単なる「袋」という意味の「胃袋」という言葉だけでは、胃の役割を十分に表せないのかなと思います。
上柳:先生は、消化管外科学がご専門ですが、「栄養管理部」の立ち上げにも携わり、現在も栄養部に関わっていらっしゃいますよね。
比企先生:私は外科の中でも、消化の第一ステップと言われる食道、胃、十二指腸を扱っています。食道というのは、口から飲み込んだものを胃まで運ぶ、いわゆるルートです。ちょっと太めのホースのようなところと、「胃袋」と言われている袋状の胃。そして、また細くなって十二指腸という臓器があります。この3つの消化の第一ステップを扱うものですから、完全に「食を司る三臓器」なんですよ。
ですから、病院の食事をより良いものにしていく栄養部と、私は常に連携しているんです。
もう一つは、手術も、いわゆる化学療法と言われる薬物療法も、栄養状態がしっかりしていないと、治療成績が著しく悪くなることがわかっています。食べられないと、治療ができないんですね。その治療を支える意味で、栄養部というのはとても重要なポジションなので、私が責任者をやらせていただいたわけです。
十分な栄養状態でないと治療できない
比企先生:具体的に、栄養部の役割は大きく2つあります。患者さんにおいしく、栄養バランスの取れた食事を出すこと。そして、それ以上に重要なのが、栄養管理です。栄養状態が悪いと、治療もうまくいきません。特にがん治療では、十分な栄養がないと治療ができないこともあります。
ですから、食事だけでなく栄養剤や経腸栄養剤、点滴など。こういったものをすべてマネージメントするのが、栄養部の役割となっています。
上柳:手術を受けるためには、栄養状態が良いことが大切なのですね。そして、筋肉の量も重要だそうですね。
筋肉は「栄養の貯蔵庫」
比企先生:筋肉って、皆さん「力の源」というふうに考えておられると思いますが、それだけではありません。ここが一番重要なポイントで、筋肉は栄養の貯蔵庫なんですね。
例えば肝臓も栄養の貯蔵庫ですが、栄養が入ってこなくなると、わずか2日ほどでその貯蔵分を使い切ってしまいます。その次に使われるのが、実は筋肉なんです。
したがって、2日目以降は筋肉をどんどん使っていくことになります。そういった意味でも、筋肉は栄養の貯蔵庫として、ものすごく重要です。
上柳:筋肉って、体を動かすためだけじゃなくて、いざというときの栄養を蓄えておく場所でもあるんですね。

「下から2番目」だった病院の出汁
上柳:『100年食べられる胃』には病院食についても書かれていますよね。私も何度か入院した経験がありますが、病院食は「明日も食べるのが楽しみだな」という感じではありませんでした。ですが、比企先生はそこを随分改革されたそうですね。
比企先生:はい、以前勤めていたがん研有明病院でも、北里大学病院でも、入院食はかなり改善しました。
私も以前、入院したことがあるんです。そんなに長い期間ではないですが、患者さんにとって、食事は唯一の楽しみなんです。メニューを見て、「今日は何かな」と楽しみにしていて、出てきたものががっかりだと、すごく落ち込むものです。ですから、目で楽しめて、さらに口、舌でも楽しめるような食事を提供しなければいけないと思い、改善を試みました。
上柳:具体的にどんな改善をしたのでしょう?
比企先生:まず、「出汁は命」とよく言いますが、本当にそうなんです。出汁がしっかり効いていれば、塩分を減らしても、おいしく感じるんですよね。
そこで、「出汁コンテスト」をしました。ありとあらゆる出汁を20種類くらい用意して、小さなコップに入れ、スタッフみんなに飲んでもらって、順位をつけてもらったんです。その結果を見ると、驚くべきことが起きました。病院で使っていた出汁が、実は全員から下から2番目の評価だったんです。「あまりおいしくない」と感じる出汁を、病院で使っていたことがわかりました。
こうした結果を受け、評価の高かった出汁に変えたところ、患者さんの満足度がグッと上がったんです。メニューは何も変えていないんですよ。それが第一段階でした。
上柳:ちなみに、値段的にはどうなんですか? 高くて良い出汁を使ったから、おいしい出汁が取れたということですか?
比企先生:いえ、それは全然違いました。一番安いとは言いませんが、下から2番目くらいの値段の出汁がトップになったんです。「そういうものなんだな」と感じました。
上柳:病院で「塩分を取りすぎないように」と言われている方は、料理を出汁で工夫するというのは、日々の食事にも参考になりますよね。
比企先生:実際に私も今まで食べた中で、一番おいしいと思った料理屋さんは、塩分がほとんどなくて、ただ出汁が最高においしかったんです。もう癖になるほどおいしいお店でした。
食欲を引き出す「お酢」
上柳:そして、出汁のほかにも「お酢」が大事なのですよね。
比企先生:お酢は、スパイス的な意味でも、すごく重要なポジションを占めます。甘みと塩辛さだけではなく、酸味というのは、抗がん剤治療をしている患者さんなど、味覚をある程度失いつつある人にとって、食欲を増すためのいい手段なんです。
何も食べられない人でも、お寿司や、少し酸味のきいたソースを使ったものだと、どんどん食べてくれたりするんです。
上柳:術後で大変な方だけではなく、夏場などに食欲が落ちて食が進まないという方も、料理にちょっとお酢を利かせてみるといいかもしれませんね。
――「食べる」という行為は、想像以上に体全体とつながっている。食べたものは栄養になり、その栄養が筋肉を作り、治療を受ける体も支える。一方で、栄養をとることだけを考えていても、食欲がなければ食べ続けることはできない。「栄養」と「おいしさ」。その両方を大切にすることが、食べる力を保ち、健やかな体を支えてくれるはずだ。
比企直樹先生と上柳昌彦アナウンサーの詳しいトーク内容は、「食は生きる力 今朝も元気にいただきます」特設コーナーHP(https://www.1242.com/genki/index.html)から、いつでも聞くことが可能だ。
番組情報
「上柳昌彦 あさぼらけ」内で放送中。“食”の重要性を再認識し、「食でつくる健康」を追求し、食が持つ意味を考え、人生を楽しむためのより良い「食べもの」や「食事」の在り方を毎月それらに関わるエキスパートの方をお招きしお話をお伺い致します。
食の研究会HP:https://food.fordays.jp/





