今年2月、三菱UFJフィナンシャルグループのシンクタンクが発表した「スポーツツーリズムに関する意識調査」によりますと・・・
『旅費をかけてでも、遠くに行ってでもしたいスポーツのナンバーワンはウォーキング』、という結果が出ました。
世代別では60代のみならず、若い世代の30代40代50代でもそれぞれ第1位。
では実際、ウォーキング人口がどのくらいいるのかと言いますと・・・
なんと4000万人。
どんどん伸び続けています。
ウォーキングとは距離や場所などテーマを持って歩く活動をする人のことを言いますから、ここに“散歩”は入っていない。
“散歩”を足せば、なんと「国民の半数は歩くことが趣味」ということになってしまうくらい、愛されているようなのです。
この経済効果が現れているのが、「ウォーキングシューズ市場」
野球、サッカー、テニス、ゴルフの靴が伸び悩む中、毎年ウォーキングシューズは前年比およそ10%の伸び。
「伸び10%」は、ランニングシューズよりの倍もあります。
またウォーキング大会も、日本各地で大小なんと3000もの数が開催されています。
よくあるのが、「ツーデーマーチ」「スリーデーマーチ」という大会。
2日間、もしくは3日間、皆でマーチング=行進する、というウォーキングスタイルですが、発祥はオランダ。
山がない低地の国・オランダで、予備役の兵隊が訓練目的で行進したのが最初で、100年以上の歴史があります。
距離は、5キロから30キロまであるのが主流で、2日間、3日間参加しても違うコースが歩けるように工夫してあります。
参加費は1000円から2000円程度。
参加費が3000円以上かかるマラソン大会に比べれば、3分の1以下で安い。
歩く側にしてみれば敷居が低く参加しやすいですが、実施側にすれば実入りが少ないのかもしれません。
こうしたビジネスの特徴に加えて・・・いま、ウォーキング大会は飽和状態。
ウォーキング人口はどんどん増加しているのに、大会への参加者は減っているようなのです。
参加者が減っている理由は・・・
「何度も参加しているうちにコースに飽きた」という歩く場所についての意見や、「大人数ではなくて、少人数で個人的に歩きたい」という歩くスタイルの変化、などが挙げられます。
また、大会の地域周辺の理解を得られなかったり、参加者のマナーの問題もあります。
たとえば、1997年から始まった「京王沿線ウォーキング」は、19年目の去年、突然中止になりました。
無料で、沿線の街並み・自然・歴史などをめぐることで根強いファンが多く、毎回2000〜2500人参加。
ところが近隣から「参加者が道一杯に広がり、通行できない」「うるさい」といった厳しい意見が寄せられ、その対策のための経費や人繰りのめどが立たなかったのが理由。
しかし、人気が衰えずに長く続くウォーキング大会には、それなりの理由がありました。
埼玉県東松山市で行われている「日本スリーデーマーチ」。
今年で39回目を迎える日本一の老舗のウォーキング大会です。
毎年11月行われ、参加者はなんと8万人以上。
オランダのフォーデーズマーチに次ぎ、世界で2番目の規模を誇る大会へと成長を遂げ、日本各地、世界各地から人が集まります。
コースは5キロから50キロまで、自分の好きなペースで丘を歩く。
武蔵野の貴重な自然が多く残るなか、東に望むと、広大でのどかな田園風景、西に望むと秩父の山々やすそ野に広がる小高い丘。
適当なアップダウンがあって、自然豊かな丘陵地帯を楽しく歩けるコース設定。これがシンプルながら人を惹きつけるのです。
先の京王線の例ではありませんが、“大人数での都会のタウンウォーキング”というのには、ちょっと限界が来ている。
その点、ほどよく自然があって起伏に富んでいて、ほどよく田舎、というのは、長く続くウォーキング大会には必須となっているのです。
そもそも東松山でなぜこうした大会を始めたのか、主催者に聞いたところ・・・「40年前に、オランダの60回目の大会をNHKニュースで見た」のがきっかけだそうです。
東松山は車でも電車でも都心から1時間、起伏のあるコースが取れる。
ならばできるだろうと、すぐにオランダに飛んで視察。
スリーデーマーチは、3日間別々のコースを取れないといけない。
三方向に50キロ40キロ30キロのコース取りがうまくいったのがまず、一番の勝因。
このコース取りと言うのが案外難しくて、山すぎてはダメ、観光地すぎても交通の問題があってダメ。
こうして、東松山が観光地化していないことがうまく働き、歩く人にとってはあぜみちが残っていて、川のせせらぎが聴こえ、歩いていて癒しの効果があると、当初からリピーターを産んだのです。
また、地元自治体は最初から地元を巻き込んでいこうと、小学1年生から中学生3年生まで、子供たちの参加が必須に。
これが地元の良さを知るきっかけになり、今や市の職員には、このウォーキング大会をきっかけに地元に愛着を持ったと応募してきた若手市役所職員がいっぱいいるそうです。
またウォーキングして帰ってきた後のビールと、東松山名物の焼き鳥がうまい。
こうして、来年の予約をして帰るというリピーターが続出。
以上から、長く続くウォーキング大会というのは、
「程よく田舎で、起伏に富んだコース設定」と「地元の参加者を増やし、地元を巻き込むこと」が必須だと言えるのではないでしょうか。
遅ればせながら、国もやっとこうした動きを始めました。
すでに、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、カナダなどでは、国がウォーキングの道を整備。
イギリスは、「フットパス」と呼ばれる小さな小道を整備して、ここを歩きたいと世界中から人がやってくる。
その市場は1兆円の経済効果があります。
ヨーロッパでよくあるのが、快適に歩けるように天然の石やウッドチップが敷いて歩行者専用道を整備。
歩行コースを案内する標識も分かりやすく立てられています。
日本では宿泊場所が駅前や人口の多いところに限られていますが、ウオーキングのために、新たなに施設を建てる必要はありません。
神社・仏閣や廃校、公民館など、空いている部屋や建物を利用したり、場合によってはキャンプをするための土地を開放するだけでいいのです。
いま始まったのが「新日本歩く道紀行100選」の選定。
文化、歴史などの観点から、歩きたくなる道を選んで整備していく事業です。
ウォーキングシューズだけの市場だと1800 億円ですが、
交通費や参加費、飲食代等を含むとおよそ7000 億円。
まずは、遅ればせながらコース・道の整備に着手した所ですが、これがどのくらいの経済効果を生み出すのか、まだ見守っていく必要がありそうです。
5月10日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より