番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは、3度のがん闘病を乗り越えて、41年間、婦人服のお店を経営し続けている女性のグッとストーリーです。

たくさんの商店が建ち並ぶ、東大阪市・鴻池町（こうのいけちょう）。
この街で婦人服店「サイショー」を経営しているのが、平井勝子（ひらい・かつこ）さん・73歳。

今の場所にお店を開いて、今年で41年になります。毎日、近所に住む常連のお客さんたちがお店を訪れ、平井さんは楽しそうに、世間話に花を咲かせます。
「地域の皆さんに支えられて、ここまで続けてこられたお店ですからね。大事に続けなあかんと思ってます」という平井さん。

もともと生まれは岡山県ですが、結婚して、ちょうど50年前、ご主人の衛（まもる）さんと一緒に大阪にやってきました。
商売の経験がないまま、まずは子供服の販売を始めましたが、なかなか売れず、衛さんは商売の手を広げ、スナックを２軒も経営、産業廃棄物の処理などにも手を広げていましたが…同業者に騙されたり、お金を持ち逃げされたり…借金はどんどん膨れ上がっていきました。

そんな中、二人の幼い娘も育てなければいけません。
平井さんは、改めて商売を見直し、子供服の店を、現在の婦人服店に模様替え。
仕入れも、それまでは人任せにしていましたが、自分の目で見て「いい」と思った物だけをお店に並べることにしました。
そして「商売の基本はお客さんとの対話」だと、服を買いに来てくれた地元の人たちと語らい、お客さんたちにとって、お店が居心地のいい場所であるよう心掛けました。

そういう地道な努力が実を結び、商売も軌道に乗ってきた1992年、ご主人の衛さんが亡くなります。
「これからは一人で頑張っていかないと」…と決心した4年後、平井さんは体に異変を感じました。
腰痛がなかなか治らないので、不審に思い病院で検査を受けたところ、子宮頸（しきゅうけい）がんが見つかったのです。
しかも、ステージ2まで進行していました。

健康が取り柄だった平井さんはショックを受けましたが、これまで商売で、様々な困難を乗り越えてきたことを思い出し「がんなんかに、負けてられへん！」と決意。
化学療法で腫瘍（しゅよう）を小さくした後、子宮を全摘出する手術が成功し、4年経って、もう再発の心配はないと告げられました。

ところが、ホッと一息ついた平井さんに、再び試練が訪れます。胸にしこりを感じ、検査を受けたところ、新たながんを発見…
今度は、初期の乳がんでした。この時、平井さんはこう思ったそうです。
「これも自分の宿命と思い、病気を不幸の始まりでなく、新たな幸せへの出発点としよう」
早期発見が幸いし、手術と28回に及ぶ放射線治療を経て、5年かけてこれも完治。
「せっかく生かしてもらった命、これからは地域のため、人のために生きていこう」
そう決心した平井さん。

そのためには「まず健康が第一」ということで、70歳を過ぎた2013年、改めて全身の精密検査を受けました。
体は元気そのもの、何の問題も指摘されませんでしたが、
「先生、念のため、お腹のエコーも撮ってください」と頼んだところ、まさかの異常を発見。
がんの中でも、最も早期発見が難しいといわれる、すい臓がんでした・・・
しかもステージ3の初期で、もう少し発見が遅かったら手術ができなくなる状態。
普段は気丈な平井さんも、死の恐怖に直面し、さすがにこの時は落ち込んだそうです。

「お母さん、また、がんになってしまったんよ…心配かけてゴメンな…」
弱々しい声で、悲しそうに話す平井さんを、長女の郁子（いくこ）さんはこう励ましました。
「これまでのことを思えば、乗り越えられないことはないよ。一緒に頑張ろう！」
お店の常連さんたちもお見舞いに訪れ、こんな嬉しいことを言ってくれたそうです。
「勝子さん、あなたの顔が見たいんよ。早よう、お店に出てきて！」

そんなお客さんたちの気持ちに応えたい…平井さんに、三たび戦う勇気が湧いてきました。
「がんなんかに負けたらあかん！もう一度お店に立って、お客さんたちと笑って話すんや！」

放射線治療、化学療法、そして13時間に及ぶ大手術を乗り越え、3年が経過。
きょうもお店に立ち、お客さんと元気に語らう平井さんには、こんな夢があります。

「お店を一部改装して、カフェを作りたいんです。お客さんたちと、もっとゆっくり、お茶をしながら語りあえる場所があればいいな、と思って」

街のため、人のため…この地域で41年続く店舗は、平井さんのお店だけになりましたが、お客さんとの出逢いが、平井さんの生きる活力になり、またお店が地元に活気を与えているのです。