あなたはどこまでも人を信じられますか?『怒り』 【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第72回】

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さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回の「しゃベルシネマ」では、早くも日本アカデミー賞総ナメの呼び声も高い衝撃作『怒り』を掘り起こします。

原作:吉田修一 × 監督:李相日、世界を席巻した最強タッグ再び!

怒り

東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。
犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡していた。
それから1年後、千葉、東京、沖縄に、それぞれ前歴不詳の男が現れる。
千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前には、田代という青年が。
東京で大手企業に勤める優馬は、街で直人という青年と出会う。
そして沖縄に転校してきた女子高生・泉は、田中という男と遭遇する。
3人の男と出会った人々はその正体をめぐり、 疑念と信頼のはざまで揺れ動く…。

怒り

吉田修一の原作を映画化した『悪人』で国内外で高い評価を得た李相日監督が、再び吉田原作を映画化した群像ミステリー。
原作を読んだ方なら、この濃密な人間ドラマの映画化がいかに難しいか、よくお分かりでしょう。
しかしそこは、李相日監督。
決して交わらない三つの土地で展開する物語を丹念に描き、人を信じることの難しさと脆さを浮き彫りにしました。

怒り

キャストには渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡など、日本映画界を代表する豪華キャストが集結。
これだけの名前が連なると「とても華やかな顔ぶれで…」と言いたいトコロなんですが…。
これが随分と様子が違って、ですね。
これまで演じたことがないタイプのキャラクターにそれぞれチャレンジしているのが、本作の面白いトコロなんです。
例えば、渡辺謙さんは優柔不断な漁師のおじさん、宮崎あおいさんはぽっちゃり体型の風俗嬢、綾野剛さんと妻夫木聡さんはゲイのカップル。
揃いも揃って冒険しすぎ、しかもそのタガの外れっぷりが素晴らしいコトと言ったら…。
「役を演じる」のではなく「役として生きる」ことを求められる李組。
人間の本質を映像に焼き付けるために、ひょっとしたら自らの弱さや醜さまでもさらけ出しているのでは…と感じずにはいられない、演技を超えた“何か”に心を揺さぶられます。
日本アカデミー賞総ナメ!の呼び声にも納得の一作です。

怒り

上映時間、2時間22分。
悪とは、業とは、怒りとは何なのか…。
本作は徹底的に私たちに問いかけます。

人を信じるとは、一体どういうことなのか。
形がないものを信じることは困難なのか、それとも形があれば何でも信じることが出来るのか。
その執拗なほどの問いかけは、人間の根源に迫り、観客までも試しているように感じます。
そのひとつが、劇中に登場する犯人のモンタージュ写真。
このモンタージュ写真が登場するたびに、観る者の感情を惑わせ、疑念を抱かせます。
それは同時に「真実とは何か」という究極の問いかけでもあるのです。

怒り

本作は「ちょっと時間が空いたから映画でも観る?」という軽いノリで観るタイプの映画ではないかもしれません。
しかし、日本映画史に深く刻まれる傑作であることは確か。
最大のミステリーとは、実は人間の心の内なのかもしれません。

怒り
怒り
2016年9月17日から全国東宝系にて公開
監督・脚本:李相日
原作:吉田修一(「怒り」中央公論新社刊)
出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡 ほか
©2016映画「怒り」製作委員会
公式サイト http://www.ikari-movie.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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