番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今日は、70代でカメラを始め、最近ユーモラスな「自撮り」で話題になった88歳のアマチュア女性カメラマンにまつわるグッとストーリーです。
「おばあちゃんが、ゴミ袋に入って捨てられている写真」「車にひかれそうになっている写真」「バカボンのパパのような腹巻き・鉢巻き姿で、ペンを鼻の穴に差した写真」…そんな写真が、最近ネットで話題になりました。
「おばあちゃんに何てことをさせるの!」と怒り出す人もいそうなこれらの写真、実はすべて、おばあちゃんが自分で撮った「自撮り写真」なのです。
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西本さんの作品
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西本さんの作品
写真の主は、熊本市に住む、西本喜美子(にしもと・きみこ)さん・88歳。
両親が農業指導で渡ったブラジルで生まれ、8歳のときに帰国。美容学校を卒業し、美容院を開業しますが、競輪選手になった2人の弟を見ていて「私もやってみたい」と、美容院をたたみ、22歳で女子競輪選手に。
27歳のとき、税務署員だったご主人と結婚し引退。3人の子を授かりました。
長男の和民(かずたみ)さんは、アートディレクターとなり、B’zやアルフィーなど、有名アーティストのジャケットを多数手掛ける一方で、故郷・熊本に「遊美塾(ゆうびじゅく)」という写真塾を開きました。
その塾生たちと仲良くなった西本さんは、「お母さんもやってみたらどう?」と誘われ、生まれて初めてカメラを手にします。
72歳のときでした。
当時を振り返って、西本さんはこう言います。
「主人も写真が趣味だったんですが、私が『写真を始める』と言ったらムスッとした顔をしてましたね。でもそのうち『これ使え』と、自分のカメラを貸してくれたり、新しいカメラや道具も買ってくれました」
好奇心旺盛な西本さんは悪戦苦闘しながら、写真の技術や、PCで写真を加工する方法も学び、デジタルアートを作ったり、自分でホームページを立ち上げるまでになりました。
そんなある日、遊美塾でこんな課題が出ます。
「自分で自分を撮る」
そこで撮ってみたのが、さきほど紹介した一連の「自撮り写真」です。これが反響を呼び、写真を撮り始めて10年目の2011年、初の個展を開くまでになりました。
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西本さんの作品
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西本さんの作品
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西本さんの作品
ユーモラスな自撮り写真から、芸術的なデジタルアートまで、同じ人が撮ったとは思えない振り幅の大きさは、西本さんならでは。
中には、作品を買いたいという人もいるそうですが、「売るほどのものじゃないです」と、希望者には無料で渡しています。
遊美塾ではもちろん最年長。孫のような20代の生徒さんなど、年の離れた仲間との交流が刺激になり、写真を撮る原動力にもなっています。
ご主人が亡くなったあとは独り暮らしで、4月に熊本を襲った地震では不安な思いをしましたが、遊美塾の仲間たちが心配して「大丈夫?」と様子を見にきてくれました。
「最近は腰を痛めてしまって、遠出をするのが難しくなっているんですが、塾のみんなが、車で迎えに来てくれるんです」という西本さん。
そんな仲間への感謝の思いも込めた写真集が、今年7月に出版されました。
タイトルは、熊本弁で『ひとりじゃなかよ』。
写真の横には、自分で書いた熊本弁の詩も添えられています。
「私はひとりじゃなかもんね あんたがおるもんね みんなひとりじゃおられんけん みんな周りから支えられとるけん」
支えてくれる人たちへの感謝の思いを込めた写真で、熊本の人たちを勇気付けられたら…
西本さんは今日も、写真を撮り続けます。