番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
去年「トリプルスリー」達成で話題を呼んだ、東京ヤクルトスワローズ・山田哲人(てつと)選手。
きょうは、そのグラブを作っているメーカーの社長と、山田選手とのグッとストーリーをご紹介します。
去年「打率3割・ホームラン30本・30盗塁」を同じ年にマークする偉業「トリプルスリー」を達成した、ヤクルト・山田選手。今年も期待にたがわぬ活躍を見せ、プロ野球史上初の「2年連続トリプルスリー」をほぼ確実にしています。
山田選手のようなスター選手は、大手の用具メーカーと契約を結び、特注品を無償で提供してもらうのが普通ですが、山田選手はグラブのみ、ある小さなメーカーのものを愛用。
そのグラブメーカーとは、東大阪市の「ドナイヤ」。
社員は、社長の 村田裕信(むらた・ひろのぶ)さん・43歳の一人だけ。
工場への発注から営業・販売・発送まで、すべて村田さんが行っている個人経営の会社です。
「うちは大手と違って、無償提供はしませんし、プロ用の特注品も作りません。ドナイヤを使っている選手は、皆さん、市販品を自費で買っていただいてます」
宣伝は一切していないのに、品質の良さと使いやすさが評判になり、プロ野球選手の間でも愛用者が広がっていったドナイヤのグラブ。
山田選手も、チームメイトから借りて使ってみたら、「手のひらに吸い付くような感覚でボールを捕れる」と、自分で買って愛用するようになりました。
山田選手をとりこにした、ドナイヤの創業者・村田さんはもともと、ある海外のスポーツ用具メーカーの社員でした。
しかし扱う商品が外国製だったため、日本人に合ったグラブを作ろうとプロ選手の意見も聞いて研究を重ね、独自に開発を進めるうちに、もっといいものを作ろうと独立。2009年にドナイヤを設立しました。
ユニークな社名の名付け親は、村田さんと同じ関西出身で、独立前から付き合いのある、元ヤクルトの主砲・池山隆寛(いけやま・たかひろ)さんです。
「他にも20個ぐらい案があったんですが、全部、商標登録を先に取られていまして…池山さんが半分冗談で思い付いたネーミングが、唯一セーフだったんです(笑)」
品質の良さには自信がありましたが、なにぶん名前が名前。最初の頃はどこのスポーツ用品店も「『ドナイヤ』って、なんやねん?」「ヨソを当たってや」と相手にしてくれませんでしたが、何軒かのお店は、村田さんの話に耳を傾け、ドナイヤのグラブを置いてくれました。
そのお店で買った人から「使いやすい」と、口コミでどんどん愛用者が増えていき、今では「うちにも置きたい」という要望があちこちから殺到。
しかし、村田さんは関西での取扱店を最初にドナイヤを置いてくれた数店に絞っています。
その理由は「大量生産をしない」ことをモットーにしているから。
検品も村田さんが自ら担当。工場に出向いて、出来上がった製品を一つ一つ手にはめ、革に傷が付いていないか、指が引っ掛からないか、紐にゆるみはないかを細かくチェックしているので、生産数はおのずと限られてきます。
「そこは、人任せにはできないんです。品質にはこだわりたいですから」
工場が閉まっても、自宅にグラブを持ち帰り、徹夜で検品を続ける日々。村田さんの自宅は段ボール箱で足の踏み場もないほどです。
一方、値段は大手の製品よりも安く設定していますが、それはプロが使っているのと同じグラブを、少年たちにも手にしてもらいたいから。
「全部一人でやっているから安くできるんです。儲けのことはあまり考えてません」
そんなふうに、グラブへの熱い思いを語る村田さん。
ドナイヤを自分で購入し使ってくれているプロ選手たちを訪問し、グラブを調整するのも大事な仕事の一つです。
特に山田選手については、普段のプレーも細かく観察。エラーが続いたときは、キャッチングのクセを伝えてあげることも…。さらにプライベートの相談にも乗っています。そこまでするのは
「これまでいろんな選手を見てきましたが、誰よりも練習しているのが山田選手です。グラブのことも一所懸命研究しているし、だから彼にだけ無償提供することにしたんです。トリプルスリーは関係ありません。もし彼が無名のままでも契約していましたよ」
子供たちの野球離れが叫ばれる今、山田選手に憧れる少年ファンが増え、ドナイヤのグラブで野球の楽しさを知ってもらえたら嬉しいという村田さん。
「山田選手はトリプルスリーを達成しましたが、守備の『ゴールデングラブ賞』はまだ獲っていません。でも彼なら獲れます。いいグラブを作って、彼の夢を後押ししてあげたいですね」
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
今、聴きたい曲を書いて送ってくださいね。