保護犬とともに歩んだ、タイの王様の犬人生〈後編〉【ペットと一緒に vol.2】

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プミポン国王

ホワヒンにある宮殿で愛犬のトーンデーンやその子犬たちと過ごさせるプミポン国王(『The Story of Tong Daeng』より)

保護された犬のため援助を惜しまないプミポン国王

前編では、2016年10月に御崩御されたタイのプミポン国王が、地域犬(野良犬)を保護してご自身の家族に迎えられたエピソードをご紹介しました。
プミポン国王は、宮殿のある海辺の町ホワヒンの自治体に、ドッグシェルター運営のための資金として1,000万バーツ(日本円で約4,000万円)を、2014年4月に寄付したこともあり、タイのメディアでその贈呈式典の様子が紹介されたりもしました。
そのドッグシェルターは、常時2,000頭が収容可能で、寄付金も、シェルターで暮らす犬たちの食事代はもちろん、ワクチン接種や病気治療費などに充てられています。
タイの国民は、熱心な仏教徒です。仏教では殺生を嫌うため、タイの野良犬たちも、施設に収容されても原則的には殺処分をされることはありません。

殺処分されないタイの犬たちのゆくえと暮らし

殺処分されないからといって、タイの犬たちが幸せかどうかは、正直微妙なところでしょう。
タイの寺院を訪れると、大理石の階段などで寝転がっている犬たちがたくさんいます。いわゆる、タイ語で「マー(犬)ワット(寺)」と呼ばれる犬たちです。
実は、日がなダラダラとして働かない夫のことをタイ人妻が「うちの夫は、まるで『マー、ワット』なの。困っちゃうわ~」なんて愚痴りながら例えたりもします。寺では、僧侶が托鉢で持ち帰った食べものをもらえるので飢えることはありません。
またときには、僧侶や檀家の人にかわいがってもらえる犬たち。涼しくなると、犬同士で遊んだり、境内を散歩したりもします。とりあえず、境内にいれば安全は確保されてはいますが、ケアも行き届いておらず、刺激や楽しみが多い犬生とはいえません。

マーワット

タイの寺院にはつきものといっていい、「マーワット(寺の犬)」。自由気ままにも見えますが……。

新しい飼い主を探したり、危険と隣り合わせの街中の犬よりも十分なケアを与えられるようにと運営されているのが、ドッグシェルターです。
プミポン国王の影響を受けて、アニマルシェルターをつくった著名人もいます。そのひとりが、タイの副首相を務めたこともある、チャムロン・スィームアン氏。彼は、バンコク知事であった1987年、バンコク市内にシェルターを創設。その後バンコク郊外のカンチャナブリーに移されました。
避暑地として知られるカンチャナブリーには、2006年にGemma Ashford氏によって設立されたBaan Unrak Thai Animal Sanctuaryもあり、年中無休で獣医療を地域に提供できる動物病院も併設されています。

アニマルシェルター

タイのアニマルシェルターはこのような雰囲気です。主には寄付金によってまかなわれ、ボランティアスタッフがケアをしています。(カンチャナブリーで2003年頃撮影)

タイのシェルターから海外に旅立つ犬たちも

日本では、通称「保健所」(正式名称は動物愛護センターなど)に収容されてから、早ければ1週間でガス室に入れられるなどして殺処分されてしまう犬と猫が、年間9万3,000頭ほど(2015年度/環境省発表データ)います。
タイではあまり殺処分が行われないとはいえ、シェルターに暮らす犬たちの環境は決して快適とはいえません。また、シェルターの犬たちは、人との触れ合いや散歩の頻度など、QOL(生活の質)を比べても、大切に育てられている家庭犬と比べれば劣ってしまいます。プミポン国王の影響があるとはいえ、犬を家族に迎え入れようとシェルターを訪れる人も、欧米や日本より少ないのが現状です。
そこで、タイのシェルタードッグのための家族を探そうと、今では海外の保護団体が活動を行うようにもなりました。例えばカナダには、数十頭のタイ出身の犬が新しい家庭に迎え入れられ、幸せな第2の犬生を送り始めているとか。

サメット島,犬

タイには、名前も付けられ、狂犬病の予防接種も受け、地域犬として近隣の人々に世話をされる犬たちも多くいます。こちらは、観光客にもかわいがられるサメット島の犬たち(写真集『うみいぬ』臼井京音著、アーリスト発行より)

地域犬(野良犬)として生まれたのち、プミポン国王に寄り添い続けたトーンデーンは、2015年12月、17歳9カ月の犬生をまっとうしました。プミポン国王の御崩御を知り、久しぶりにプミポン国王のご著書である『トーンデーン物語(The Story of Tong Daeng)』(アマリン社)を手に取りましたが、お互いに心をこんなにも通わせられる飼い主と愛犬がいたということのすばらしさが、あらためて心にしみます。

プミポン国王が願ったように、私もまた、世界の犬たちの幸せを願わずにはいられません。そのような人々の心のなかに、国を越え、プミポン国王とトーンデーンはこれからも生き続けていくことでしょう。

>>12/26(月)配信予定:シクラメンやポインセチアも! 犬と猫に危険な植物【ペットと一緒に vol.3】に続く>>

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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