■ペンダントの中の愛犬
千葉県に住む岩室清美さん。ご主人と小学校3年生の娘さん、そして4歳の息子さん、そしてフレンチブルドッグの寿(4ヵ月、メス)と一緒に暮らしています。仕事をもちながら家事に子育てに…と忙しい日々を送る清美さんには、宝物にしているペンダントがあります。
皮紐に小さなガラスのオブジェを通しただけのシンプルなペンダントですが、清美さんにとっては特別なもの。
なぜなら、ガラスケースの中に2016年3月に9歳で亡くなった愛犬・雅(みやび、フレンチブルドッグ、メス)の遺骨が納められているからです。
「雅が亡くなってから6ヵ月後に新たに寿を迎え、新しい生活を送っていますが、雅のことを思い出さない日はありません。ペンダントは私にとってお守りのようなものですね」と清美さん。
清美さんが雅に出会ったのは9年前。まだお子さんも生まれておらず夫婦2人暮らしだったころのこと。念願だったフレンチブルドッグを買うことを決めた夫妻は専門のブリーダーのもとへ。
「ブリーダーの方は生後2ヶ月くらいの子犬たちの中から選ぶよう勧めてくれたのですが、ふと見ると、すぐそばにその子たちよりも少し大きくなってしまった子犬が。パッと目と目が合って意気投合!それが雅でした」。
■お団子はいったいどこへ!?
雅は陽気な性格で、すぐに岩室家での生活にも慣れ、元気いっぱいにすくすく成長しました。家に来て約1年後に生まれた岩室さん夫妻の長女とも仲良し。よく遊び相手になってくれたそうです。
ただそんな雅ですが、1つだけとーっても悪い癖が!そう、盗み食いです。
食欲旺盛で隙あらば人間の食べ物を食べようとする雅にほとほと手を焼いた清美さん。雅の手の届くところには極力食べ物を置かないように気を付けていたそうですが、それでも雅の「早業」にはかなわず、盗み食いされることがしばしば…。
「盗み食いのせいで、雅は何度か死ぬ目に遭っているのですが、本人はケロッとしたもので、何度やっても凝りませんでしたね(苦笑)」。
たとえば、清美さんたちが食べようとしていたお団子を盗み食いしたときのこと。清美さんに見つかる前に急いで食べてしまおうと思ったのか、雅はなんと団子を串ごと丸のみに!!
慌てた清美さんがなんとか吐き出させようとしますが、団子は完全に飲み込まれていました。すぐに動物病院に駆け込み、レントゲンを撮ってもらいましたが、団子は影も形もありません。
獣医師からは「本当に食べたの?」と言われる始末。本人(雅)もケロっとしています。どこにあるかわからない以上、開腹手術をするわけにもいかず、そのまま帰宅したそうです。
帰宅後も雅は相変わらず食欲旺盛で、元気いっぱいでした。「ウンチの中に出てくるかも?」と思い、毎回ウンチを調べていましたが、ついに串が出てくることはありませんでした。そして団子事件のことを皆が忘れかけた約1ヶ月半後、急に雅がおう吐!あの団子の串が1ヶ月半の時を経て、出てきたのです!
「お団子はもちろん消化されていましたが、串はほぼそのままの形でした。一体、1ヶ月半もの間、雅の胃の中はどうなっていたのか…、本当に不思議です。焼き鳥の串と違って団子の串は先端が丸いのが幸いして、内臓にキズが付かなかったのが不幸中の幸い。もし、胃の中で折れたり、胃壁に突き刺さったりしていたら…と思うとぞっとしましたね」と清美さん。
■九死に一生を得た「ネギ事件」
その後、以前にもまして雅の盗み食いに気を付けていた清美さんですが、収まることを知らない雅の食欲は益々旺盛に。
ある日のお留守番中、絶対に食べてはならないものを食べてしまいました。清美さんが厳重に新聞紙で包み、保存しておいた太ネギを食べてしまったのです!!
ご存知の通り、ネギには犬の赤血球を破壊する成分が含まれていて、食べると重篤な症状を引き起こしてしまうため、ネギは犬には絶対に食べさせてはいけない食べ物です。さすがの雅もネギの成分にやられてしまい、清美さんが帰宅したときには意識を失い、白目をむいて床に倒れていたそうです。
すぐに病院で治療を受け、九死に一生を得ましたが、もしもう少し帰宅が遅ければ手遅れになるところだったとのこと。それにしても、普段はネギには見向きもしなかったという雅は、なぜその日に限ってネギを食べてしまったのでしょうか?
「そのころは忙しくて家を空けることが多く、普段よりもお留守番時間が長くなってしまう日が続いたのです。だからストレスが溜ってムシャクシャするあまり、新聞紙を破って遊び、ネギもかじってしまったのかもしれないですね」と清美さん。「ただの盗み食い」と笑って済ませられない事態を経験して、ますます用心するようになったそうです。
■まさかの肺がん発覚、そして1か月半後…
こういった「盗み食い事件」を始め、雅のイタズラに手を焼きながらも楽しく暮らしていた岩室さん一家。4年前には長男も生まれ、ますます賑やかになりました。
「子どもたちも雅が大好きで、よく一緒に遊びました。動物を大切にする気持ちが自然に芽生えたのは雅のおかげ。それとお片付けが上手になったのも雅のおかげですね(笑)。『おもちゃを放置すると雅に食べられちゃう』という教訓のおかげです」。
ところが今年の1月。あの食いしん坊だった雅があまりご飯を食べなくなり、荒い息をするようになりました。直前の定期検診では問題がなかったので大丈夫だろうとはおもいつつも、病院で精密検査をしてみると…、雅の肺は癌におかされ、もう手の施しようがない状態になっていたのです。余命は長くても2ヶ月。
信じられない気持ちで帰宅した清美さんは、考えた末に「残された日々を雅が楽しく過ごせるように、できるかぎりのことをしよう」と決意。病院ではなく家で最期を看取ることに決めました。
肺の癌のおかげで息が苦しい雅のために「酸素室」をレンタル。普段はその中で過ごさせ、少しでも楽に呼吸ができるようにしてあげました。食べ物も、今まで健康のために控えていたものも含め、なんでも食べさせてあげることに。
「もう一つの気がかりは、物心ついたころから雅と一緒に姉妹のように過ごしてきた長女のこと。雅の余命を告げると、予想通り大泣きして、悲しみにくれてしまいましたが、彼女なりに気持ちの整理ができたのでしょう。最期までよく雅の面倒をみてくれました」。
そして病気発覚から約1か月半が経った、2016年3月30日、雅は天国へ旅立っていったのです。
「我が家にとって雅がいかに大きな存在だったのかを改めて実感する日々です。雅の四十九日が過ぎてから、新たに寿を家族に迎え、少しずつ新しい生活が始まっていますが、今も毎日のように雅の気配を感じます」という清美さん。
4ヵ月になった寿は、雅以上に元気いっぱい&いたずら好き。でも、雅ですでに「学習済み」の岩室家には、寿のいたずらに振り回されず、やんちゃな寿との日々を楽しむ余裕があります。
「雅を失った悲しみや喪失感は決して完全には亡くならないと思いますが、同時にいつも天国の雅が私たちを見守ってくれているんだっていう安心感もあるんですよ。雅が安心してくれるように、これからも家族みんな元気で楽しく暮らしていきたいなって思っています」。