番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今日は、がんを乗り越え、100キロマラソンに出場。自己記録を更新し、がん経験者と患者をつなぐNPOも立ち上げた、50代男性のグッとストーリーです。
「50代男性・食道がん」「40代女性・子宮頸(けい)がん」「30代男性・悪性リンパ腫」…
がん患者とがん経験者、家族たちを結ぶNPO「5years(ファイブ・イヤーズ)」の公式サイトには、色分けされたメンバーのプロフィールが、ずらりと並んでいます。
名前の下には「治療中」「治療終了」「家族」のマークが付いており、サイトに登録した人は、自分の状況に近い人の体験談を読むことができるほか、「みんなの広場」というコーナーでは、がんを発症した人が、今後の生活についてどうしたらいいか質問をすると、過去に同じような体験をした人たちが、親身になって役に立つ回答を寄せてくれます。
がん患者とその家族にとって、貴重な情報が掲載されたこのサイトは、現在、登録者が1,800人を超えました。2年前、この「5years」を立ち上げ、代表を務めているのが、大久保淳一(おおくぼ・じゅんいち)さん・52歳。大久保さん自身もがん経験者です。
「がんが見付かったのはちょうど10年前。まさに働き盛りの時でした」という大久保さん。
当時、外資系の投資銀行で朝から晩まで働いていましたが、健康には自信があり、北海道で毎年6月に開催されている「サロマ湖100キロウルトラマラソン」に2003年から参加、4年連続で完走しました。
さあ今年も、と意気込んでいた2007年、トレーニング中に骨折。大久保さんは都内の病院へ入院しましたが、退院間際、体に違和感を覚えCT検査を受けたところ、思わぬ宣告を受けました。精巣がんが全身に転移し、5年生存率はおよそ50%というのです。
「まるで、深海の底に沈んでいくような恐ろしさを感じました」
がんと闘いながら、これからどうやって生きていったらいいのか、途方に暮れた大久保さんは、ネットで必死に情報を探しました。しかし、治療についての情報は載っていても、抗がん剤による副作用がどんなものか、治療の選び方、今後かかる治療費の額、周囲への伝え方…といった、自分が本当に欲しい情報が、どこにも載っていないことに気付きます。
「いちばん欲しかったのは、がんにかかった後、元気に社会復帰した人の情報です。それが全然見付からなくて、とても不安な気持ちになりました」
幼い二人の子を残したまま、死んでいくわけにはいかない…大久保さんは2度にわたる長時間の手術、3ヵ月間の抗がん剤治療にも耐え抜きました。さらに抗がん剤による合併症で間質性肺炎にかかり、生存率2割と言われましたが、これも乗り越えて、退院を果たします。
しかし長い入院生活で、筋力はすっかり衰え、青信号の間に横断歩道を渡れないほど体は衰弱。治療を続けながら会社にも復帰しましたが、元の生活を取り戻すまでに3年もかかりました。
その間、大久保さん心の支えになったのは、がんを克服したあるオリンピック選手が、がんを発症する前の自己ベストを更新した話です。「ようし、自分もやってやる!」と2013年、大久保さんはサロマ湖100キロウルトラマラソンに、7年ぶりにエントリー。
がんになる前のベスト記録は12時間6分でしたが、復帰3年目のおととし、12時間3分とついに自己ベストを更新。そして去年は11時間54分と、初めて12時間の壁を破ったのです。
この快挙は地元紙にも大きく取り上げられ、大久保さんはかつての担当医師から「がんと闘う患者さんたちに、あなたの体験談を聞かせてあげて下さい」と頼まれるようになりました。
「がん患者はみんな、マイヒーロー・マイヒロインが欲しいんですよ」という大久保さん。
励みになる生き方を、身をもって示してくれる存在、その人と直接話せてアドバイスをもらえたら、こんなに勇気付けられることはありません。
「だったらそのシステムを、自分が作ろうと。自分はそのために生かされたんじゃないか、と思ったんですね」
2014年、大久保さんは50歳になったのを機に、長年勤めてきた投資銀行を退職。
NPO法人「5years」を設立し、がん患者のために役立つ情報を、日々更新し続けています。
もちろん、マラソンのトレーニングも続けながら。
医師には「肺の3分の1が機能していない状態で、100キロマラソン復帰なんて無理だよ」と言われましたが、大久保さんは「そう言われると、何くそ、という気になるんです。それと同じで、がんで余命1年と言われても、10年生きる人だっている。自分の限界は、自分で決めるものです。がん患者が勇気をもらえるシステムを、これからも提供していきたいです」
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