番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは、ふるさと・秋田にもっと人を呼ぼうと、「あきた舞妓」を復活させ、地元を活性化しようとしている、若き女性社長のグッとストーリーです。

小野小町を生んだと言われる「美人の里」・秋田県。
その秋田で、いま新たな観光の目玉として注目されているのが、3年前に復活した「あきた舞妓」です。
小代美(こよみ)・紫乃(しの)・緒叶羽(おとは)…あでやかな色の振り袖に身を包んだ3人の舞妓さんが現れ、民謡「秋田おばこ」を踊ると、お座敷の雰囲気はパッと華やぎます。
この「あきた舞妓」を復活させたのが、20代の女性社長・水野千夏（みずの・ちなつ）さん。

「秋田にはいいものがいっぱいあるのに、人口は減るし、観光客も来ない。それなら自分が、秋田に人が来る仕組みを作ろうと思ったんです」

秋田生まれ・秋田育ちの水野さん。横浜の大学に進学し、東京の化粧品会社に就職しましたが、故郷を離れてみて、秋田には都会にない良さがたくさんあることに気付きます。
ある日ふと、「どうして自分は秋田へ帰らずに、東京で仕事をしているんだろう？私にはもっとやることがあるはず」と思い立った水野さんは1年で退職。秋田にUターンし、ふるさとで事業を興そうと決意します。

水野千夏さん （© TEDxTohoku ）

その前にまずは秋田のことを知ろうと、地元の企画PR会社に営業職として入社。秋田じゅうの会社をくまなく廻り、人脈を広げていきました。
そんな中、地元の人からよく聞かされたのが「秋田には、人を呼べる観光資源がない」ということ。
このままではいけない。秋田の魅力を発信して、人を呼ぶにはどうしたらいいだろう…？そんな思いから、水野さんは仕事の合間をぬって図書館に通い、秋田の歴史や文化を調べました。

そこで知ったのが、秋田一の歓楽街・川反(かわばた)にかつて存在した「芸者文化」です。
資料を調べていくうちに、川反が東北でも指折りの花街だったこと、そして川反芸者が、「秋田美人」という言葉のルーツになっていることも分かりました。

「秋田にこんな素敵な文化があったんだって、衝撃を受けたんです」という水野さん。
“会える秋田美人”として、川反のお座敷文化を復活させよう！と決意し、2014年、地元企業などから出資者を募って「株式会社せん」を設立、社長に就任しました。

しかし、一度消滅してしまった芸者文化を復活させることは、並大抵のことではありません。
元・川反芸者だった女性を見付けましたが、すでにかなりの高齢で「とても指導は無理です」と断られた水野さん。周りにも「無謀だ」と言われましたが、秋田の伝統文化を復活させたい、という思いが勝りました。
元・川反芸者さんに、日本舞踊のお師匠さんを紹介してもらい、頼み込んで、お稽古をつけてもらえることになりました。
一方、募集広告を見て集まった女性の中からメンバーを選抜。短期間で猛特訓を積み、2014年8月、「あきた舞妓」の名前で、3人がお座敷デビューを果たしました。

まずは出資してくれた株主を集めて、お披露目を行いましたが、水野さんいわく、出来は散々…。
ところが、お客さんの一人が、こんな優しい言葉を掛けてくれました。

「最初からうまく行かないのは当たり前だよ。舞妓は、地元の人が育てていくもの。これからも応援していくから、頑張りなさい」

「お座敷で遊んだ経験がある殿方は、さすが分かっていらっしゃいますね。陰で応援してくれますし、アドバイスもくださいます」と感謝する水野さん。
そんな支援者たちの温かいバックアップを受け、芸のレベルもだんだん上がっていきました。
立ち上げから2年半、舞妓さんは代替わりして、現在は新しい3人がお座敷に出ています。

ただし、舞妓さんを呼ぶには、それなりの料金が掛かりますし、舞妓さんの踊る姿を一度お座敷で見てみたい、という女性客も多いことから、水野さんは去年、新たな事業を始めました。
大正時代に創業し、数年前に廃業した、築100年の由緒ある料亭を改装。2階にある70畳以上の大広間に、常設の「あきた舞妓劇場」をオープンしたのです。
ここに来れば、お手頃な料金で舞妓さんの踊りを見ることができるとあって、反響も上々。
最近は、秋田の観光PRイベントなどの仕事も増えてきました。水野さんは言います。

「秋田の女性は、芯が太くて強いんですが、それを表には出さないのが秋田美人の魅力なんです。これからも、みんなが憧れるあきた舞妓を育てて、本当の美しさを究めていきたいですね」