いくら忍辱忍辱(にんにくにんにく)と心に叫んでみても、腹が立ち相手をこっぱみじんにやっつけてやりたい怒りにとりつかれることがあります。
人に対して怒りがわきおこるのは、自分なら決してそうはしない、相手の無知や破廉恥にがまんがならない、という思い上りがあるからです。
そんなとき、わたしは鏡をみることにしています。
そのときの自分はまさしく鬼のような顔をしています。怒ると人間の顔は、体内の毒素で黒くなるのか、顔色は黒く目は吊り上がり唇はゆがんでいる。
われながら、見るもおぞましい。
二度と見たくない形相です。瀬戸内寂聴
撮影:斉藤ユーリ
出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫