小泉今日子デビュー35周年【GO!GO!ドーナツ盤ハンター】
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昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。
今年もいろいろアーティストの周年イベントとCDリイシューが続きますが、個人的に嬉しいのが、「小泉今日子デビュー35周年」です。82年3月21日に『私の16才』でデビューしたKyon2ですが、今月17日にドーナツ盤、12inch、CDシングル、配信シングル含めた全シングル50曲を収録した、3枚組ベストアルバム『コイズミクロニクル』が発売になります。
初回盤にはその50曲に関わった関係者たちの証言が収録されたメイキング本や、全ジャケットのアートワーク集も付いてくるそうで、資料価値がメチャクチャ高いのですが、同期デビューの中森明菜とともに、トップアイドルでありながら、旧来のアイドル像をガンガンぶち壊していったKyon2の偉業がこうして時系列でまとめられるのは、たいへん意義深いことです。『あまちゃん』出演の影響もあって、若い層にもかつてのヒット曲が知られるようになりましたが、デビュー以来、リアルタイムで聴いてきた同世代としては、彼女の歌った楽曲がいかに「革命的」だったかも、もっと伝えていきたいところなので。
各々、思い入れのある曲は異なるのでしょうが、今回は個人的に「もっと聴いてほしい」と思うアナログ時代のシングルを3曲、ご紹介しましょう。
【その①】・・・『半分少女』(1983)
デビュー曲から4枚目『春風の誘惑』までは、王道アイドル路線を歩んでいたKyon2ですが、5枚目の『まっ赤な女の子』から企画性の強い独自の路線がスタート。一つ間違うと色物やお笑いになりかねないところを、Kyon2は堂々と歌い、逆にその路線を「新たな王道」にしていったのです。コイズミなくして、ももクロなし、です。
その『まっ赤な女の子』に続き、筒美京平が書き下ろした第6弾シングルが本曲。作詞は盟友・橋本淳が担当。私は『ブルー・ライト・ヨコハマ』はじめ、この橋本ー筒美コンビの曲にめっぽう弱いのですが、「♪悲しくしく感じるの〜」なんて中坊男子の琴線をくすぐるフレーズ、コレをKyon2が歌うともう最強です。一方メロディは、分かりやすく「ザ・歌謡曲」。二つのテイストがハーフ&ハーフで味わえるところが、本曲の最大の魅力です。個人的には、もっと評価されていい曲だと思うのですが。このジャケットも素晴らしい。
「半分少女」というタイトル自体、少女と大人の端境期にいたKyon2自身のことでもあり、そこもハーフ&ハーフ。ずっと純粋さを失っていないKyon2は
今なお「半分少女」なのかもしれません。ハードジャケット盤・通常盤とも、200円前後で入手可能です。
【その②】・・・『魔女』(1985)
アイドルがアイドルの本音を歌ったメタ歌謡曲、秋元康作詞『なんてったってアイドル』をリリースした85年、Kyon2はもう一曲、忘れてはならない名曲をリリースしています。それが松本隆作詞の本曲。
どちらも筒美京平作曲なのですが、『なんてったって…』のインパクトが強すぎたせいか、その一つ前に出たこの曲は少し影が薄くなった気がします。オリコン1位を獲ってるんですけどねェ。
女子高生が、制服をコインロッカーに放り込み、キツめのメイクとサングラスで大人の女性に変身。それは自分を振った男に復讐するため。わざと気を引いて、今度は逆に振ってやろうと計画を立てる。さらにジェラシーの炎は燃え上がり、魔法のリンゴを手に入れて、「あなたのことを不幸にしてみたいの」なんて過激なことも…。
恋心に揺れる乙女心を書かせたら、松本隆は天下一品ですが、特に「魔女になりたいの、絶対!」の「ぜっ、たい!」が何とも言えないキュートさ。だけど結局、なれない。悪女になるには不器用すぎたんでしょう。いじらしいじゃないですか〜。そういった心の揺らぎが、Kyon2の歌だとよりグッと伝わってくる。これは持って生まれた才能です。
Kyon2自身も大好きな一曲だそうですが、もしかすると当時、魔女になりきれなかった主人公同様、アイドルという別人格に徹しきれない悩みを抱えていて、気持ちがシンクロしたのかもしれません。そうだとすると、次作が『なんてったってアイドル』だったのは、すごく皮肉ですが。ハードジャケット盤・通常盤とも、300円前後で入手可能です。
【その③】・・・『キスを止めないで』(1987)
Kyon2がオールナイトニッポンの水曜一部を担当していたのは86年4月〜88年9月。始めた当時は10代で、史上最年少のパーソナリティでしたが、その少し前、83年10月〜84年3月まで半年間、同じ枠を担当していたのが“ヨッちゃん”こと野村義男でした。ちなみに、長年担当したタモリの後を受け継ぎ、THE ALFEEに繋いだのがヨッちゃんです。すごいワンポイントリリーフ!
ときどきヨッちゃんが番組に乱入していたような記憶もありますが、そんな縁もあって、Kyon2に曲提供の話が持ち上がります。それが実現したのが本曲。作詞は秋元康が担当。この頃のKyon2はショートからロングヘアに戻していましたが、歌番組でこの曲を歌っているのを見て、二十歳を過ぎて、なんだかずいぶん艶めかしくなったなぁ、と思ったものです。大人の階段を上るのに、ヨッちゃんも一役買ったわけ。
Kyon2とヨッちゃんの縁はその後も続き、フィンガー5『学園天国』をカヴァーした際は、ヨッちゃんと、元C-C-B・渡辺英樹のユニット「三喜屋・野村モーター’s BAND」がバックを担当。名付け親はKyon2でした。渡辺氏の急逝は残念ですが、35周年を機に、またKyon2とヨッちゃんとの共演を観てみたいものです。ハードジャケット盤・通常盤とも、500円ぐらいで入手可能です。
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。
※Kyon2は、5/12(金)『オールナイトニッポンGOLD』に生出演。聴き逃した方も、関東圏の方ならradikoのタイムシフト機能を使えば、1週間以内なら無料で聴けます。