先週15日、今年の「野球殿堂」入りを決めた表彰者が発表されました。プレーヤー表彰部門では、松井秀喜さん(43)と、阪神の金本知憲監督(49)。エキスパート表彰部門では、原辰徳さん(59)が選出されましたが…野球ファンを驚かせたましたのが、プロアマを問わず、野球の発展に顕著な貢献をした者、あるいはしつつある者に贈られる「特別表彰」部門。
これまでは“大正力”正力松太郎さんや、“縣河(けんが)のドロップ”澤村栄治さんらが、この「特別表彰部門」の殿堂に入っているのですが…今回はなんと、野球マンガ『ドカベン』でお馴染み! マンガ家の水島新司さん(78)に、3票が投じられまして、もう少しで、「漫画家史上初の野球殿堂入り」が決まるところだった…というんです。
「ん?たった3票で騒ぐんじゃないよ!」と思うかもしれませんが、さにあらず! 野球殿堂の特別表彰部門は、日本プロ野球機構の役員さんなど、有識者、計14名の投票により決定されます。いわば「14票ぽっち」のうちの3票ですから、大変なもの。結果的には、中京商(現在の中京大中京高)の名監督として知られた瀧正男さんが選出されましたが…水島新司さんも、近い将来、3票獲得の余勢を駆って、殿堂入りを決めるのではないか? と言われているんです。
そこで今日は、マンガ家・水島新司さんが野球界に残してきた、「有形無形の財産」を、あれこれと紹介していきましょう!
■昔の野球少年たちは皆、『ドカベン』を読んで甲子園に憧れた!
まずは、水島野球マンガの代名詞であり代表作、『ドカベン』からいきましょう。『週刊少年チャンピオン』で『ドカベン』の連載が始まったのは、実に46年前の昭和47年、1972年のこと! プロ野球に目を移すと、まだジャイアンツが9連覇のさなか。高校野球では、作新学院の2年生投手江川卓が「怪物」の名を欲しいままにしていた頃です。『ドカベン』の中では、打率8割強、打てばホームランの主人公、「ドカベン」こと山田太郎を擁する神奈川県の名訓高校が、甲子園を舞台といたしまして、全国の強豪チームとしのぎを削っていきます。
で、ここからが肝心の話なのですが… この『ドカベン』を読んで甲子園に憧れた野球少年たちが長じて本当に甲子園のスター選手となりまして、70年代後半から80年代にかけての「高校野球ブーム」を型作った… というところ!
「早実のプリンス」、荒木大輔。「阿波の金太郎」、池田高校の水野勝仁(かつひと)。「KKコンビ」、PL学園の桑田真澄、清原和博。そして忘れちゃいけません、「浪花のドカベン」、浪商の香川伸行さん(2014年に逝去)。このあたりの面々が、みな、『ドカベン』を読んで育ち、実際に甲子園にやってきました。そして、マンガの世界そのままに、日本一を目指し凌ぎを削り、おのが青春を賭けた…。もう、この点だけをとってみても、野球殿堂入りの資格あり! というヒトもいるそうです。そして… 驚いちゃいけません。この『ドカベン』シリーズは、いまなお、連載が続いているんです!
連載中の『ドカベン ドリームトーナメント編』。去年2月、「ドカベン最後の試合」、決勝戦が始まりましたが、試合は延長に継ぐ延長! プレイボールから間もなく1年が経過しようとしていますが…まだ試合は続いてます!
■水島野球マンガは、「パリーグの味方」、「女性の味方」だった!
さて、プロ野球を舞台とした水島新司さんの野球マンガには、ひとつの共通点があります。それは… 「舞台がパリーグ」の作品が多い… というところ!
今でこそパリーグは人気ですが、ひと頃までは「人気のセ 実力のパ」と言われたもので、パリーグは、からっきし人気がありませんでした。そんな状況にクサビを打ち込んだのが、パリーグを愛してやまない、水島新司さんでした。1973年にスタートした『あぶさん』の主人公、酒豪で代打一筋の景浦安武は、南海ホークスの選手です。1995年に鳴物入りでスタートした、『ドカベン プロ野球編』も、舞台はパリーグ。山田太郎は、西武ライオンズの主砲として活躍します。この時は、世の巨人ファンたちが、歯噛みして悔しがった… という逸話も残されています。
水島マンガは、「パリーグ」を応援するばかりではなく、女性も応援しました。1975年に定期連載が始まった『野球狂の詩』。水島新司さんは、この作品で、さらに、あるチャレンジに打って出ます。それは…ズバリ、「野球協約への挑戦」だったんです!
「野球協約第83条」・・・球団は左にかかげる者を支配下選手にすることはできない。
第一項/ 医学上男子でない者。
水島さんは、この「プロ野球選手は男性に限るべし」という鉄の掟を、テーマとしたんです!
史上初の「女性プロ野球選手」水原勇気が活躍する、『野球狂の詩』。せっかく入団した水原選手ですが、野球協約の壁に阻まれまして、なかなか契約できません。地味ですが、ここが読みどころ…。はるかのち、2008年。関西独立リーグのドラフトで、ナックルボールを得意とする、吉田えり投手が、史上初の「男性と同一チームでプレーする女性プロ野球選手」となりました。いかに水島先生に先見の明があったか… という証左でしょう。
■水島マンガに出てくる実在の選手たちの肖像権は?
さて、プロ野球を舞台としたマンガには、つきものの話ですが…水島野球マンガには、昔から、「実在するプロ野球選手たち」が、実名で登場してきます。
たとえば、『あぶさん』や『野球狂の詩』では、南海ホークスの監督だった野村克也さんが、重要なキャラクターとして登場します。
ところが… これも、時代の要請でしょうか。次第に、プロ野球選手の「肖像権」が問題とされるようになりました。そして1995年、プロ野球電波肖像権委員会が、マンガからも肖像権料を徴収すると決定! 以来、マンガに実在の選手を出すと、年間数十万円を払わなければならなくなったんです。
この時、水島新司さん「だけ」は、プロ野球の人気アップに長年貢献してきたという功績から、肖像権料を免除されていました。しかし、それも、「2年間の猶予」という条件付き。猶予期間が切れた97年からは、水島さんも、お金をとられる対象となったのだそうですよ。ちなみに、当時のスポーツ紙の記事では、生前の「ドカベン」香川伸行さんが、こうコメントしています。
「水島先生に承認料を? そりゃないでしょう。逆に機構側が宣伝料をお支払いしてもいいくらいですよ」
(日刊スポーツ1997年5月16日付)
実は、人気のドカベンも、本当は「メジャーリーグ編」ができるはずだったとか…。ところが、肖像権の問題で、実際のメジャーの選手を登場させたとしたら、目が飛び出るような多額の肖像権料を求められる可能性があります。水島新司さん自身、あるインタビューで、しょんぼりとした様子でもって、こう答えています。
「山田をメジャーに行かせたくても、現状ではできない」
(2007年11月21日付 朝日新聞のニュースサイト)
多くの子供たちに夢を与えてきた水島新司さんですが…夢にも、難しい付帯条件が付けられる世の中となりましたね。「野球マンガの神様」水島新司さん。野球殿堂入り間近? というお話でした!
1月26日(木)高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より
高嶋ひでたけのあさラジ!
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