恋人に会うため3キロ泳ぐ犬、映画『マリリンに逢いたい』のモデル犬の孫に逢いたい!

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【ペットと一緒に vol.70】

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実在する犬のストーリーを映画化して、1988年に公開された『マリリンに逢いたい』。映画のモデルになったマリリンの孫であるクララのもとを訪ね、犬の専門誌に筆者が「マリリンの孫に逢いたい」というコラムを書いてから、10年。一昨年の夏に20歳の天寿をまっとうしたクララが、どんなに人々に愛されながら沖縄で暮らしていたかを、今回は昔の沖縄の犬事情とともに振り返りながらご紹介します。


恋人に会うために海を3キロ泳ぐ犬がいる!

前回、フィリピンの犬が離島の恋人とデートをする話を執筆していた筆者は、映画『マリリンに逢いたい』を思い出していました。座間味島に暮らす恋人(恋犬)のマリリンに会うために、阿嘉島までの3キロを泳いで渡るシロの実話を描いた映画です。映画に出演してすばらしい泳ぎを披露したのが、シロ本犬であったことも話題を呼びました。

シロの飼い主である中村利一さんは、スキューバ・ダイビングのインストラクターや無人島へのツアーガイドとして、ほとんど海で過ごす生活。船上に伴われたシロは、いつの間にか海上に降りて泳いでいたこともしょっちゅうだったとか。しかも、何時間でも海にいられる泳ぎの名手だったそうです。

そんなシロが、阿嘉島に暮らすマリリンと仲良くなって、マリリンに会うために3キロの海を座間味島から泳いでいたと知っても、中村さんは「シロならば泳げるだろうな」と不思議ではなかったとのこと。

けれども、毎秒3メートル以上の速い潮流もある座間味島へ渡るために、潮の流れが止まる“潮止まり”の時間をシロが狙っていたと気づいたときは、さすがにシロの驚異的な能力に感心したと言います。

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映画『マリリンに逢いたい』のパンフレットとDVD。実際のシロの姿


座間味では犬の飼育が禁止だった!?

筆者が会いに行ったのは、そんなシロに風貌がそっくりだという、クララ。祖父犬がシロ、祖母犬はマリリンです。

座間味島は、那覇市から西へ約40キロ、慶良間諸島のほぼ中央に位置しています。

クララの飼い主さんは、マリリンの名づけ親でもある宮平聖秀さん。根っからの島人で、現在はダイブセンターNO-Yとペンション高月、両方のオーナー。宮平さんは「クララはとにかく人懐っこくて、お客さんが来ると誰にでも『撫でて~』とお腹を見せてね(笑)」と語ります。

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「わたしはクララ。シロおじいちゃんみたいにフワフワの毛と垂れ耳がチャームポイントよ」

実は阿嘉島を含む座間味村では昔、犬を飼うことが禁じられていたそうです。ネズミの天敵であるイタチを島々に放したのがその理由で、イタチは犬の匂いを感じると洞穴から出てこないと伝えられていたからだとか。ところが、阿嘉島のシロの存在によって、それが事実ではなかったと証明されました。

人々にかわいがられたシロやマリリン、そして2頭のエピソードを描いた映画の効果もあって、今では座間味村では犬の飼育が禁止されないのはもちろん、犬と暮らす家庭がぐっと増えたことも想像に難くないでしょう。

「クララは、宿泊客やダイバーにかわいがれて、お客さんと一緒に散歩に出ることもしょっちゅう。きっと、いい観光ガイドなんじゃないかな?」と、宮平さんは笑います。

筆者も、クララと一緒に島散歩に出かけました。すると、途中“マリリンの像”が。花の首飾りをつけておしゃれをしながら、まるでシロのいた阿嘉島を望んでいるかのよう。

クララはマリリンのことをわかっているのかいないのか、その像の下で一休みをしていました。

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マリリンの像の下で休む、クララ

筆者はビーチでクララと遊びましたが、海に入りたそうにはしていませんでした。

「あぁ、シロはすぐ海に飛び込む犬だったみたいだけど、マリリンもクララも、泳ぎは得意じゃないからね~」と、宮平さん。見た目にはシロの遺伝子が濃いようですが、性質的にはマリリン寄りのようです。クララののほほんとした性格に魅了されて、クララを目当てにリピーターになった方も少なくないとのこと。「クララの誕生日には、特製ケーキやら、贈り物も届きますよ」とも。

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お客さんからクララに届いたバースディケーキを前に、クララもご満悦顔

お客さんからはほかにも、クララの大伸ばしの写真や、被毛の1本1本を綿密に描いた絵画などもプレゼントされているそうで、「クララは、本当にみんなの心をつかんで離さない犬なんだ」と宮平さんは語ります。


20歳で星になったクララ

クララが老犬になってから、宮平さんは沖縄本島から黒くて小さな犬を迎えました。名前は、あぐ。

「子犬の頃にうちに来たからね~、クララをお母さんのように慕っていたよ。本当にクララと仲良く過ごしたね」。

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あぐとクララはまるで親子のような関係

人だけでなく犬にも慕われたクララは、2016年の七夕の日、星になりました。

ダイビングショップのブログで、スタッフのめぐみさんは次のように綴っています。

「クララに出逢ってなかったら、今ここにはいなかったと思います。一度離れた座間味に戻って来た一番の理由もクララでした。島に来たばかりのときは、クララのお散歩に行って島の方々に知ってもらえて、仲良くなれました。クララなしでは私の島生活は語れない……。本当にありがとうの気持ちばかりです」。

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クララが12歳の頃。泳ぎは苦手だけれど、ビーチ散歩が大好き

「とにかく、クララは人に愛されてたな~って、しみじみ思います」と、宮平さんは語ります。

今ではあぐちゃんが、一緒に散歩に行ったりしてお客さんをもてなしているとか。

クララは子犬を残していませんが、シロとマリリン、そしてクララへと引き継がれた座間味の“愛され犬”としての存在は、あぐちゃんが確実に守っていってくれることでしょう。

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海の見える場所で眠るクララ

連載情報

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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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