チワワでもアジリティーができる! 挑戦と発見と感動の12年間
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【ペットと一緒に vol.65】
大好きな犬種であるチワワと暮らし始めた、中島なおみさん。2004年、愛犬と一緒に楽しい時間を共有したいと始めたのが、アジリティーでした。アジリティーといえば、小型犬ではトイ・プードルやジャック・ラッセル・テリアなど、運動神経が良くジャンプ力のある犬種向きと言われているドッグ・スポーツですが……。アジリティーに参加するチワワの草分け的な存在となった、愛犬のしえろちゃんとなおみさんの12年間の秘話をご紹介します!
チワワなのに、アジリティー!?
この連載で以前ドッグマッサージなどを教えてくださった、ぱれっとの中島なおみさんは、実は、アジリティーをするチワワの先駆的な存在でもあります。
「犬のためのマッサージやTタッチを始めたきっかけも、アジリティー後の愛犬の体をケアしてあげたいと思ったからなんです」と、なおみさん。もともと、学生時代はバスケットボール部に所属するなど、スポーツが大好きだそうですが、マンション暮らしのこともあり、小さくて愛らしい犬種であるチワワをパートナーに選んだそうです。
チワワのしえろちゃんとアジリティーを始めようと思ったきっかけは、偶然つけたテレビ番組でした。
「エクストリームという種目のドッグ・スポーツが画面に映し出されていて、『すごーい! 愛犬と一緒にスポーツをしてみたい!』と、目が釘付けになりました」と、当時を振り返ります。
その後、近所の江戸川河川敷で開催されていたアジリティー競技を見学したなおみさんは、さっそくチワワでも受け入れてもらえるクラブがあるかどうかをリサーチ。「見つかったときは、すごくうれしくて、ワクワクしました」(なおみさん)。
試行錯誤でともに歩んだアジリティーの道
アジリティーに初挑戦したのは、しえろちゃんが1歳の時。初めてアジリティーをなおみさんがナマで見てから、わずか1週間後のことでした。
「当時、草野球のような気軽に参加できる団体があったんです。その名も“草アジ”(笑)。一緒に練習に励んだ仲間には、アジリティーの申し子のような犬種であるボーダー・コリーやラブラドール・レトリーバーもいましたね。小型犬では、トイ・プードルやジャック・ラッセル・テリアやパピヨン、めずらしいところではマルチーズも。みんなで和気あいあいと、とても楽しく練習ができました」(なおみさん)。
もちろん、バーやドッグウォークは可能な限り低い位置に設定したそうですが、しえろちゃんは、どんな障害物にもまったく臆することなく挑んでいったそうです。
「トンネルを怖がる犬は多いと聞いたのに、しえろは、スピード倍増でトンネルから飛び出してくるほど(笑)。体重1.7kgの小さなチワワですが、飛んだり跳ねたり走ったりするのが大好きなんですよ」と、なおみさん。
“好きこそ物の上手なれ”というとおり、しえろちゃんはどんどんアジリティーをマスターして、入部から2カ月後には“草アジ”主催の競技会に初参加も果たしたそうです。
「障害物は確かハードルとトンネルだけの、簡単なコースです。成績が残っていないので、制限時間内にゴールできていないか、失格になってしまったのかも。それでも、一緒に初出場した大会で味わった、愛犬との一体感は忘れられません」と、なおみさんは思い出を噛み締めます。
なおみさんは、しえろちゃんと励んだ練習では壁にもぶち当たったと言います。
「アジリティーはハンドラーと並走するのですが、急に私についてこなくなったり……。競技会でもしえろは突然コースアウトして、パパのもとへ走っていってしまったりもするんです。『え? なんで?』と、驚きと戸惑いとで頭を抱えました」。
そこでなおみさんが頭をひねったのが、いかに短い時間で愛犬を集中させるかという工夫。
「ママと一緒にやると楽しい~って、しえろに思わせるのが大切だと実感しました。そのためには、私が必死の形相ではいけません。愛犬が失敗してもイライラせず、ハンドラーである私自身がまず、楽しむことが一番! そのうえで、しえろの意欲を引き出すように工夫を重ねたら、状況が好転しました」とも、なおみさんは語ります。
観客の心もつかむ、しえろちゃんの活躍
なおみさんがしえろちゃんと参加した競技会で印象に残っているのは、雪の日の大会だったそうです。
「チワワは寒がりだし、今日は一歩も歩かないかも……、との心配をよそに、それはそれは元気に走ってくれて(笑)。ゴールした瞬間のしえろのうれしそうな顔を見て、私も最高にうれしかったですね」。
しえろちゃんが主に参戦していたのは、アジリティーの中でも、シーソーやAフレームなどのいわゆる“上りもの”の障害を含まず、ハードルとスラロームとトンネルだけの“ジャンピング”という種目。
巷で少しずつ「アジリティーをするチワワがいる!」と話題になり始めた頃、OPDES(オプデス)という団体が主催する“上りもの”も含むアジリティー大会の“ちびっこクラス”では、1席も獲得したそうです。
「実はそれ、7歳以上のクラスだったんです。しえろは本当にアジリティーが好きだったみたいで、歳を重ねるごとにタイムも早くなってきて。なんと、ピークは10歳の時!」と、なおみさん。
ある大会では、観客から大喝采を受けたこともあるのだとか。
「アジリティーの大会では制限タイム以内にゴールできないと退場となるのですが、その日は制限タイムをコース内で迎えてしまって……。でも、小さい体で一生懸命がんばるチワワをみなさんが応援してくださっていたからか、しえろがゴールするまで競技が継続したんです」(なおみさん)。
気づけばいつしか、しえろちゃんに憧れて、アジリティーに挑戦をするチワワも増えてきたと言います。
「しえろと一緒に、私も同居チワワのるしあを練習に連れていったりしました。でも、るしあはどうも、アジリティーが好きじゃないみたいで(笑)。だから、るしあに対しては深追いもせず、しえろとしかアジリティーはしていません。るしあの好きなことや得意なことを見出してあげたいと思っています」と、なおみさんは語ります。
12歳までアジリティーを喜んで続けた、しえろちゃん。「最後のほうは、バーは地面に置いてまたぐ感じでした。それでも、バーを見ると目が輝いていました。本当に、アジリティーが好きだったんですね」。
なおみさんと一体感を味わえるアジリティーの練習や大会でのひとときは、しえろちゃんにとっても大きな喜びだったことでしょう。
なおみさんとたくさんの笑顔あふれるひとときを共有し、なおみさんを犬の仕事へと導いたしえろちゃんは2017年、14歳で虹の橋を渡りました。今もきっと天国から、しえろちゃんの後に続いた“アジリティー・チワワ”たちを応援しているに違いありません。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。