猫専門の建築士としての道に導いた、野良猫との2度の出会い
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【ペットと一緒に vol.62】
偶然に拾った2匹の子猫との出会いが、それまで商業施設の設計などをしていた建築士の人生を大きく変えました。今回は、猫と幸せに暮らす住まいの設計と企画をメインに、猫専門建築士として活躍している清水満さんのストーリーをお届けします!
愛猫がつないだ縁で猫専門建築士に
株式会社ネコアイの代表を務める清水満さんが猫専門建築士になったきっかけは、愛猫の一休くんが病気になったことでした。
一休くんは12年ほど前、路地を歩く清水さんの脚に急にしがみついてきたのだそうです。「最寄り駅に向かっていたら、生後2~3カ月位のやせっぽちの猫が現れたんです。もともと動物は大好きでしたから、保護猫として一時預かりをしながらケアをして譲渡先を探そうと連れ帰りました。あ、当時はペット飼育が不可の住宅だったので。でも、妻も私も情が移ってしまって手放せなくなり、一休は我が家の愛猫に。4年後にペット可住宅に引越しすると今度は妻が、会社の近くで子猫を拾ってきたんです。それが、2匹目の愛猫の海(カイ:キジトラ、オス)です」。弟ができて仲良く遊んでくれるかと思いきや、4歳の一休くんは、当時子猫だった海くんの「遊んで!」という攻撃が激しすぎたのと、引越し直後の住環境変化に戸惑い、体調を崩してしまったそうです。
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一休くん(当時4歳)と、生後2~3カ月齢当時の海くん。2匹が並んでいる奇跡の一枚だそう!
「一休と通うようになった動物病院の先生がある日、『獣医は病気については詳しいけれど、ケガ予防やストレス軽減のための住環境については知識がないのでアドバイスがむずかしいんです』と語ったのが、実は猫専門建築士になったきっかけなんですよ。そうか、一級建築士としての知識や経験を活かして、猫のためにできることがあるんだ! “一休建築士”になろう(笑)」と、清水さんは思いついたと言います。
そこで、猫や犬の体の負担を軽減できるような建材を探したり、建築士でトリマーでもある友人から情報を集めたり、猫の生態や行動の勉強を始めたり……。猫専門の建築士としての人生の幕が、開いたのでした。
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清水さんと一休くん(当時8歳)。体重は8kgを超えるサバトラです
印象に残る施工例は、猫がのびのび楽しめるマンション
清水さんが手がけた物件で特に印象深いのは、猫つながりの友人に招かれたパーティで知り合った、当時6匹の猫と暮らす、米国の弁護士資格を持つMさま邸だったと言います。
「猫たちが楽しめる部屋づくりを最優先で希望される、とても猫思いのMさんの夢を実現すべく、図面を書き、模型を制作して何度も打ち合わせを重ねました。こうして約2カ月かけて、Mさんも大喜びしてくださる猫仕様のマンションリフォームが完成したのです」
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猫たちの暮らしやすさ抜群。キッチン脇の棚の下段は猫トイレになっています
工夫したポイントは、猫が昇り降りできる場所を何カ所も作ったこと。
「キャットウォークは猫同士がすれ違える最小寸法で制作しています。けれども後ろから追われた猫がどんづまりで飛び降りてケガをする可能性も少なくないので、そういった事故を防ぐために複数の昇降場所を作りました。多頭飼育ならではの危険を回避できるようにデザインすることが大切なんです」と、清水さんは教えてくださいました。
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Mさま邸。猫たちが床に降りることなく一周でき、床に降りる場所は3カ所用意されています
さらには、猫が窓から外を楽しく眺められるようにもしました。それは、清水さんの愛猫たちのストレス軽減のためにも重視している住環境だそうです。
「窓を開ければ、風のにおいも感じられる。そのにおいを嗅ぐことも、猫にとってはきっと楽しみなはずですからね」(清水さん)。
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「そよ風にのって、知らないにおいも届いたよ」by Mさまの愛猫
楽しめるのは、猫だけではありません。愛猫を眺める幸せを日々噛み締めている清水さんならではのアイデアは、Mさま邸にも活かされました。
「キャットウォークを強化ガラス製にしたので、飼い主さんが見上げれば愛猫の肉球が楽しめるんです」とのこと。ガラスの上は夏場はひんやりして心地よいので、猫たちにも好評のようです。
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写真の猫ちゃんの進行方向にガラス製キャットウォークが。そして、見上げれば、肉球とふわふわのお腹!
「Mさんからは、『リビングに備え付けられた作業机に向かっていると、壁から作業机に続く猫階段を降りて愛猫が姿を現したりして、心がなごみます』と聞きました。その様子を想像して、うれしい気持ちでいっぱいになりましたね」と、清水さんは微笑みます。
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作業机から続く猫階段。最上段からは壁の穴を抜けてリビングへ
猫と飼い主さんの幸せを追い求めて
清水さんは、まだまだたくさんの猫と飼い主さんの幸せを追い求めていきたいと語ります。
「どうしても、オーダーメイドの住環境づくりは高価になってしまいます。そこで、簡単にDIY感覚で設置できるキャットステップやキャットウォークの開発に取り組んだりもしています。そうした、手軽にできるアイデアや製品を、今後はもっと世の中に送り出していきたいですね」とのことです。
清水さんを猫専門建築士への道へと導いた一休くんは3年前、悪性リンパ腫で天国へと旅立ったそうです。
清水さんご夫妻は現在、海くんと、新たに迎えた保護猫3匹、合計4匹の猫とにぎやかに暮らしています。
「生後半年ほどの3兄弟をいっぺんに引き取ったんですが、人懐っこいタイプではないので“家庭内ノラ”って呼んでいるんですよ」と笑う、清水さん。今後も、ご自身の愛猫はもちろん、全国の猫と飼い主さんの笑顔と喜びを、“一休建築士”として増やしていかれることでしょう。
連載情報
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ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。