シマリスと仲良くなりたい!幼稚園生が抱いた夢は……
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【ペットと一緒に vol.57】
今回は筆者の幼少時代のシマリスとのストーリーをご紹介します。本気咬みをされたり、脱走劇があったり……。なつかしく思い出すと同時に、犬を飼う前に、シマリスと暮らしておいて本当に良かったと今は思います。野生動物と暮らすという経験が、のちの筆者の思考の幅を広げてくれたからです。
犬を飼う前の練習は、シマリスで!?
筆者は小さいころから動物が大好きでした。祖父母宅には犬や猫がいて、叔父が獣医(馬や牛など大型動物専門ですが)をしていた影響もあるかもしれません。幼少期の夢は、動物園で働くこと。小学校になると、ムツゴロウ動物王国で働きたいと思い始め、ムツゴロウさんのファンクラブにも入っていました。
ということで、幼稚園に入ってからは誕生日プレゼントに「犬が欲しい」と言い続けていました。が、「ちゃんと自分で面倒を見られるようになるまでは、犬はだめ」というのが両親からの返答。そのかわり、幼い子どもでも面倒が見られそうな小動物ならば飼ってよいというOKが出ました。筆者がペットショップで選んだのは、シマリス。オスのボボとメスのチャチャを迎え、繁殖も目指しました。
「若いリスのほうが、人に慣れやすいから手乗りリスになるよ」という店員さんからのアドバイスに従って一緒に暮らし始めましたが、ケージの中に手を入れても、なかなかリスたちは上に乗ってくれません。ヒマワリの種をいくつか手の上に乗せると、その瞬間を見逃すくらいの一瞬芸で種だけを取り、巣箱や止まり木へ。「どうやったらリスたちと仲良くなれるんだろう」と、筆者は小さな頭を抱えました。
シマリスと仲良くなりたい!
今ならば、シマリスの目線に立って当時のことを考えられるような気がします。
筆者はその後、3頭の犬や、猫などと暮らしましたが、シマリスはそもそも人間と一緒に暮らすために進化した動物や家畜ではありません。日本では北海道の大自然の中でピョンピョンと自由に飛び跳ねながら生活している、野生動物の一種。筆者が度々訪れるニューヨークやヨーロッパの公園でもリスを多く見ますが、それらをペットにしている人はほとんどいないでしょう。リスたちも、人懐っこくはなく、人とほど良い距離を保ちながら生活しています。シマリスもきっと同様なのです。もともと野生の動物と仲良くなるのは、むずかしいものです。
それでも、初めてのペットを迎えてうれしくて仕方がなかった筆者は、はやく仲良くなろうと、手のひらにヒマワリの種を置いてじっと待ったりしていました。その努力が実り、チャチャもボボもだんだんと警戒心を解いてきて、手のひらの上にちょこんと乗るようにもなってきたのです。
すっかりうれしくなった筆者は、手の上のシマリスの頭をなでてみたいと思うようになりました。そこで、ヒマワリの種の殻を夢中でかじっているチャチャの頭に指を添えました。その途端、ガブリと指を咬まれてしまいました。一瞬、電流が流れたかのような衝撃だったのを思い出します。骨のあたりまで、シマリスの長くて鋭い前歯が刺さったのでしょう。ポタポタと落ちる血は、あっという間に足元のカーペットを赤く染めてしまうほどでした。
「チャチャは、きっとびっくりしたんだなぁ。かわいそうなことをしたかも」と、反省しました。
さて、そんな失敗もしながらのシマリスとの生活でしたが、ある日、ケージの掃除をしている最中にチャチャがスルッとケージから脱出! マンション3階の我が家から、壁伝いに猛スピードで上へと這って行ってしまいました。
筆者と母は、虫取り網とカゴを片手に、7階の部屋へ。
「ピンポーン」
「はい~」
「あの、うちのリスがお宅のベランダ横の壁にいるんですが、よろしいですか?」
「え? リス?」
と、ドアが開くと同時にドタバタとベランダに突入しました。網を持った手を必死に母が伸ばしますが、今度はあっという間にチャチャは階下へ。
「お邪魔いたしましたっ」と言うと、今度は6階へ。捕獲に失敗して次は4階、再び7階へ……。
そして最後はついに、チャチャは電線を伝って隣接するゴルフ場へと姿を消してしまいました。
チャチャを逃がしてしまったショックと、あと一歩のところで捕まえられなかった悔しさで一晩じゅう涙があふれました。マンションの入り口に「迷いリス」の張り紙をしたり、ゴルフ場にも連絡したりしましたが、ついに再び会えることはありませんでした。
シマリス用の首輪とリードでお散歩
脱走劇のあと、小学生の筆者は感じました。「きっとチャチャは、こんな狭いケージの中の暮らしは窮屈だったんだ。木から木へと自由に跳ね回りたいんだろうなぁ」と。なので、まずは縦長の大型ケージを、そしてチャチャ2世を両親にせがんで買ってもらいました。引っ越しをしたボボとチャチャ2世は、活動的になって少しイキイキとした表情に見えました。
さらに、どうやったらシマリスたちの運動量を増やしてあげられるかを、6歳の頭脳なりに考えた結果、シマリス用の首輪とリードで散歩をすることを思いつきました。ペットショップには、シマリス用だったかどうかは忘れましたが、小動物用の散歩セットがあり、さっそく購入。ベランダ散歩をさせてみたりもしました。
同級生に、シマリスを飼育している友人がひとりいました。その友人宅のシマリスはかなり人懐っこいらしく、しょっちゅう手や肩に乗ってきたり、リビングに置いたブランケットの中で子リスまで生んだらしいのです。羨望の思いを抱いた筆者は、チャチャ2世ともっとはやく仲良くなりたいと焦りました。その結果……、チャチャ2世は筆者の指をガブリと咬み、またゴルフ場へと姿を消してしまったのです。さらには、なんと次に迎えたチャチャ3世も脱走してゴルフ場へ。
ボボのお嫁さんとして最後に迎えたチャチャ4世は、かなり人懐っこい性格だったような気がします。早期から手に乗り、名前を呼ぶと巣穴からもすぐに出てきて、ようやく筆者も心の交流が持てたような気になれた子でした。
けれども、チャチャ4世がやってきた頃は、ボボももう5歳。生殖能力は衰えていたのかもしれません。我が家で子リスが誕生するという夢が叶うことはありませんでした。
その後、犬と暮らし始めた小学生の私は、犬がとてもよく人を見て、人の気持ちをよく理解することに本当に驚いたものです。「犬ってやっぱり特別だ!」と心底感じました。犬のすばらしさを、飼い始めてすぐに気づかせてくれたのは、シマリスたちのおかげとも言えます。
それと同時に、我が家のシマリスたちは果たして幸せだったのかな……、と振り返ることもありました。ゴルフ場に逃げていったチャチャたちは(メスばかりなので帰化動物として増えていないのが幸いです)、餌を探すのに苦労したりしたかもしれませんが、のびのびと日々を自由に過ごせたのではないかと。以来、筆者は、木登りやジャンプをもともとしないハムスターは飼いましたが、シマリスを飼うことはありませんでした。
今でも指輪をする際、チャチャに咬まれた傷のあとを目にするたびに、シマリスたちと過ごした日々を懐かしく愛おしく思い出しています。
ありがとう、ボボ、チャチャ、チャチャ2世、チャチャ3世、チャチャ4世!
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。