ひとりっ子を難産で出産した愛犬の感動秘話<前編>
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【ペットと一緒に vol.51】
筆者の愛犬が8年前に難産の末に子犬を産みました。今でも当時を振り返ると、愛犬は出産を本当にがんばったな~と、胸が熱くなります。今回は、筆者自身が助産した愛犬の出産ストーリーをご紹介します。
交配の準備に奔走
筆者は「犬の幼稚園・しつけ教室」の経営を始めてしばらくしてから、子犬はどのように新生児期から心身ともに発達し、母犬やきょうだい犬との関わりをとおして社会化をしていくのかを、この目で実際に見てみたいと思うようになりました。その経験が、子犬の社会化をメインテーマにしている「犬の幼稚園」の仕事にも役立てられると思ったことと、そろそろ2頭目を考えていた時期だったこともあります。
そこでまず、4歳の愛犬リンリンが繁殖可能な健康体かどうかを動物病院でチェックしてもらうことに。
オーストラリアのドッグトレーニング留学中にリンリンをブリーダーさんのところに迎えに行った際、膝蓋骨脱臼(パテラ)をはじめ遺伝性疾患は心配がない血統であることや、心臓疾患などがなく健康なことは教えてもらっていました。
さらに、ブリーダーさんはリンリンの親犬をドッグショーに出して受賞歴もあります。ドッグショーは、単なる犬のビューティーコンテストではありません。その犬種の保存のために、出陳された犬が繁殖に適した健全な心身を持つかどうかを審査員が確認する場でもあります。審査員は歩様審査や触診で、足腰の様子、目や耳や皮膚など全身の状態、シャイであったり攻撃的でないかなどの気質をチェックします。もちろん、健康や性質に問題があるようであれば、受賞はできません。
さて、リンリンは動物病院でも「とても健康です! 繁殖にも問題ナシですね」というお墨付きをいただいたので、次は交配相手探し。
オーストラリアのブリーダーさんにも連絡し、リンリンを日本で血統書登録するための書類も手配しました。
生まれてくる子犬も健康上の問題を抱えないですくすくと元気に育ってもらいたいため、交配相手も、良心的で信頼できそうなブリーダーさんのもとにいる、ドッグショーの受賞歴のある犬を探しました。
いざ、ブリーダーさんのもとへ
目星をつけた種オスを所有するブリーダーさんに話すと、「リンリンを見せてもらって、もしかしてノーリッチ・テリアの種の保存のために子孫を残すべきではないと判断したら交配を断るかも」と言われましたが、そこはクリア。
どこでも誰でもすぐに馴染むリンリンなので安心して、ブリーダーさんのところへ10日間ほど合宿に出しました。
「すごく性質が良いね~。物怖じしないし、明るいし、テリアとして最高の性質だよ、リンリンは」と褒められ、電話口でほっと胸をなで下ろしました。
交配は、「感染症の予防やオス犬の負担の軽減を考えて、人工授精で行いました」とのこと。
帰宅したリンリンは、いつもどおりで変化もなし。
交配から30日頃、超音波検査で妊娠の有無を確認するときはドキドキでした。
「あ、これだ。赤ちゃんいるよ! 1頭かな?」と、獣医さん。生まれてきた子犬は、実家も欲しいと言っていたので、その意味でも、きょうだい犬同士でのかかわり合いがいずれ観察できない面でも少しがっかり。
それでもワクワクしながら、リンリンの健康管理に気遣いながら、交配から58日目~64日目とされる出産の日を待ちました。
筆者の仕事は在宅でも可能なので、出産予定日前から2カ月間はほとんど自宅にいられるようにも準備しておき、あとはその時を待つばかり。
おや? 破水しちゃったのに産まれない
ついにその日が来ました。前日にレントゲン検査でやはり子犬は1頭であることも確認済です。
頻尿になりお腹がゆるくなるという、ブリーダーさんに事前に聞いたとおりの変化が訪れ、ダンボール箱で作った産箱に入ってしきりにタオルを掘り続けるリンリン。
「あれ?」
交換しようと引っ張り出したタオルが濡れています。破水してしまったのでしょうか? ブリーダーさんと獣医さんに電話をすると、少し見守るようにとの指示。それでも、リンリンに陣痛が訪れる様子はなく、なんと眠ってしまったのです。
「1頭しかいないから、陣痛が微弱なのかも。そのままだとお腹の中の赤ちゃんが危ないから、すぐに病院へ」とブリーダーさんから聞いて、夜中でも緊急時にはサポートしていただけると約束済みの獣医さんのもとへ。
「破水してますね。すぐ、陣痛促進剤を投与しましょう」と、獣医さん。
促進剤を打たれたリンリンは急に陣痛が始まり、遠吠えのような大きな声をときどき出して苦しそうです。
獣医さんは何度か陰部を触診しましたが、子犬が下がってきている兆候が見られないとのこと。
「たいぶ時間も経過したので、帝王切開に切り替えます」と。
それを聞いたときには、「ごめんね、リンリン。飼い主のエゴのせいで、苦しい思いをさせることになっちゃったね」と、筆者は涙が出てきました。
「ほら、臼井さんっ、夜中で獣医看護師もいないから手術手伝って。助産してもらいますよ!」との先生の声で正気に返り、「無事に生まれてきてー!」と祈りながら、必死に獣医さんの手伝いをしました。
取り出された、小ぶりのハンバーグほどの大きさの赤ちゃんは、なぜかガクッと首を垂れて産声をあげません。
「帝王切開だから仮死状態なんですよ。羊水を吸い取ります」と、先生は赤ちゃんの小さなマズルを咥えてズズっと水分を吸い取り、すぐに吐き出しました。
それでもまだぐったりしています。
「じゃあ、ドライヤーで温めながら、タオルでゴシゴシ摩擦を与えながら子犬をこすり続けて!」と、先生。
「はい」と、とにかく必死で「息をしてーっ」と何度も言いながら子犬をこすり続けること20分、「ミミミミミッ」と子犬が声を出したのです。紫色だった舌の色も、心なしかピンク色になってきたような……。
すると「ミィーッ」と、ボリュームアップした産声をあげたではありませんか!
「せ、せ、先生」と、気づけば筆者の頬から大粒の涙がボロボロとこぼれていました。
あのときの産声は今でも忘れません。
子犬の名前は、いくつかあった候補とはまったく違う「ミィミィ」にしました。
そんなミィミィは、筆者にさらなる学びと気づきを与えてくれる存在になったのです。
そして帝王切開で出産したため、急に目の前に出現した子犬に戸惑いを見せて育児放棄をするかと思ったリンリンにも、筆者は様々なことを教えてもらいました。
連載情報
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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。