行政と区民が共働で開催する猫の譲渡会を取り巻く、数々のドラマ
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【ペットと一緒に vol.68】
東京都中央区からの委嘱で、動物愛護に関する様々な問題の解決にボランティアで取り組んでいる「中央区動物との共生推進員」。行政と共働で、地域猫のTNR活動(去勢・避妊手術をしてもとの生活圏に戻す)をはじめ、主に中央区で保護された猫の新しい飼い主探しや、迷い猫の飼い主探しなどを行っています。
今回は、中央区から提供された場所で共生推進員が主催する譲渡会を発案した、共生推進員の細野悦子さんに、全国でもめずらしい形式の「猫の譲渡会」についてのエピソードや思いをうかがいました。
高い譲渡率を支えるのは…
筆者が2017年12月10日(日)に訪れたのは、中央区の月島区民センター。1階の「第18回 中央区飼い主のいない猫 譲渡会」の会場の扉を開くと、中央区保健所の職員と共生推進員の方が、お揃いの緑色のエプロン姿で出迎えてくださいました。「今日は21匹の猫が譲渡会に参加しているんですよ」とのこと。続いて、共生推進員である細野さんが「今回は、生後4~7カ月齢の“中猫(ちゅうねこ)”さんが多いかな」と、会場を案内してくださいました。
猫たちは、布カバーをかけられたケージ内で眠っていたり、来場者を観察したりして過ごしている様子。
「この布カバーは、共生推進員のボランティアさんによる手作りなんですよ。猫たちが落ち着いて過ごせるように、どのケージにもこうして三方を目隠ししているんです」(細野さん)。
猫たちは当日、区民の一時預かりボランティアや、共生推進員が代表を務める区内の愛護団体の施設などから、会場にやってきたそうです。生後3カ月の茶トラの猫から、推定5~6歳のヒマラヤンMIX、兄弟姉妹まで、参加している猫のタイプは多様。
細野さんによると、「毎回、7~8割は新しい家族が決まります。犬や猫の譲渡会としては、これはかなり高い確率ですね。やはり、行政が協力している譲渡会であるという点が、来場者の安心感につながっているからだと思います」とのこと。
幸せな猫を増やすために
中央区で「動物との共生推進員」制度がスタートしたのは、平成17年。その第一期の一員になる以前から、細野さんは“地域ネコ活動”を行っていました。
「飼い主のいない猫を放置して繁殖させたり、追い払ったりするのではなく、命あるものとしてとらえて、地域のみなさんと話し合いながらルールを作って猫と共生する。そのための活動が“地域ネコ活動”なんです」と述べる、細野さん。共生推進員になってからは、飼い主のいない猫たちが地域で引き起こす問題を解決するために、猫を捕獲して、同じく共生推進員である区内の獣医師のもとへ連れて行き、区の助成金で去勢・避妊手術を受けさせて、もとの場所へ戻す活動を続けてきたそうです。
「屋外で生きる環境は過酷で、室内飼いの猫よりも寿命が短いのが現実。猫エイズなどの感染症にかかるリスクも高く、いくら地域の人々からかわいがられて十分なエサを食べられたとしても、すべての猫が幸せになれるわけではありません。鳴き声や排泄物の問題などで地域の猫が疎まれないようにするためにも、屋外で産まれる子猫を増やさない対策が必要なんです」と、細野さんは語ります。
こうしてTNR活動を継続してきた細野さんは、中央区ならではの新たな問題にも直面したとか。「避妊・去勢手術をした猫をもとの場所に戻そうにも、そこが近いうちに“タワマン”の建設が始まる予定地だったりして、戻せないケースが増えたんですよ。そうなると、新しい飼い主を探す必要が出てきますよね」。そこで、共生推進員が主催する「猫の譲渡会」を思いついたというわけです。
譲渡会で生まれた感動ストーリー
共生推進員が関わった猫たちが集まり、年に3回ほど開催されるようになった、中央区の譲渡会。
筆者が訪れたこの日、新たなドラマが生まれました。
猫エイズ陽性というハンディがあるうえに9歳というシニア猫の、新しい家族が決まったのです。その猫は来ていませんでしたが、共生推進員が運営するWebサイト「中央区飼い主のいない猫たち」を見た方が、その猫をぜひ迎えたいと、来場されたのです。「今度わが家に迎えるならば、ハンディのあるコがいいと思っていたんです」と、譲渡希望の女性が言うと、9年前にこの猫をきょうだいまとめて保護した、共生推進員の竹内さんも涙を流していました。
「最初の検査では白血病陰性だったのに、譲渡先でしばらく経ってから行った検査では陽性に。複数飼育のご家庭だったので、飼育が困難になって出戻ってきたコだったんですよ。迎えてくださる方が現れるなんて夢にも思わなかったので、ついこみ上げてくるものが……」(竹内さん)。
譲渡会は、猫のことで情報交換をしたい区民が集う場所としても、大切な役割を果たしているようです。
「この譲渡会に来ている共生推進員は、猫に関しての経験がとても豊富。気軽に相談に来てくださいね」とも、細野さんは呼びかけます。
中央区と共生推進員の共働で開催される猫の譲渡会も、今年で5年目。
「中央区が運営する猫のシェルターができたら、すばらしいなぁ。共生推進員がいつでも世話をしに行けて、猫が欲しい区民の方がいつでも集えるようなシェルターを。そうしたら、猫たちがいちいち譲渡会場に移動することなく、ストレスも少なく生活できますからね」と、行政と共生推進員、そして共生推進員と区民との橋渡し役を続けてきた細野さんは、今後の夢とアイデアを膨らませます。
「中央区飼い主のいない猫 譲渡会」の猫譲渡の優先順位は中央区民からになりますが、もし猫が欲しいと考えている読者の方がいれば、次回の譲渡会にぜひ訪れてみてください。
■譲渡会の情報はこちらで:
中央区飼い主のいない猫たち http://chuo2828.blog.jp/
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。