終戦の日 いま私たちが考える戦争と平和
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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第463回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
8月15日は終戦の日。今年で73回目を迎えるこの日に、改めて平和について考える人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、第二次世界大戦をテーマにした映画をセレクト。いまだからこそ観たい、いや、いまだからこそ観るべき3作品をご紹介します。
戦中戦後の庶民の日常を綴った名作映画3選
まずは『この世界の片隅に』(2016年)。こうの史代原作の同名漫画を原作に、アニメ『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督が6年の歳月をかけて映像化したアニメーション映画です。本作は2016年に国内63館で封切られた後、口コミが口コミを呼び大ヒット。興行は現在も続いており、全国各地の公共ホールなどで上映会も開催されています。本作がそこまで人を惹きつけてやまない理由は、戦争を背景に、主人公の日常を丹念に描いていることにあるでしょう。
第二次世界大戦中の広島・呉を舞台に、戦況が悪化していくなかで大切なものを失いながらも、前向きに生きる主人公・すず。彼女の姿を通じて、いま私たちにとって“本当に大切なもの”は何かを静かに問いかけてくる名作です。今年12月からは本作の新バージョンとなる『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の公開が決定。約30分の新規シーンが追加されるこちらも楽しみですね。
『この世界の片隅に』の原作者こうの史代の代表作を実写映画化したのが『夕凪の街 桜の国』(2007年)。被爆体験によって心に深い傷を抱える女性・皆実と、父親の話を通じて自分のルーツを知る皆実の姪っ子・七波。名匠・佐々部清監督が、広島原爆投下から13年後と現代に生きる2人の女性を通して、ひとつの家族に起きた“原爆の悲劇”を切々と綴っています。
ほのぼのとした戦後の日常生活の中で、ふと頭をよぎる原爆投下の光景や、生き残ったことへの負い目、そしていつまでも消えない後遺症や周囲の偏見などを盛り込みながら、それでも命はつながっていくことへの希望を描いた感動作です。
直木賞を受賞した野坂昭如の同名小説を高畑勲監督が映画化した『火垂るの墓』(1988年)。戦時中の日本を舞台に、両親を亡くした幼いふたりの兄妹が懸命に生きる姿を描いた戦争アニメの最高傑作とも呼べる一作です。
ジブリ作品と言えば、子どもに夢を与えるようなファンタジックな作風をイメージされる方が多いかもしれませんが、その対極とも呼べる位置にある本作も、れっきとしたスタジオジブリ作品。劇場公開から30年経ったいまでは、国内はもとより海外でも「戦争映画としてもっとも偉大な作品のひとつ」と高い評価を得ています。
原作者である野坂昭如氏の実体験や情念が反映された自伝的なストーリーに高畑監督の戦争体験が加わり、細やかな描写と力強い画力で、戦争が人々に与える影響をリアルによみがえらせています。本作以降も様々な作品を世に送り出し、日本のアニメーション映画に多大な影響を与えた高畑勲監督ですが、今年4月に逝去。まだまだいろいろな作品に出会いたかったなぁ〜と残念でなりませんが、同時に高畑監督の遺したメッセージが重く響く作品です。
<作品情報>
この世界の片隅に
監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史世(「この世界の片隅に」双葉社刊)
声の出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓 ほか
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト http://konosekai.jp/夕凪の街 桜の国
監督・脚本:佐々部清
原作:こうの史世(「夕凪の街 桜の国」双葉社刊)
出演:田中麗奈、麻生久美子、藤村志保、堺正章、吉沢悠 ほか火垂るの墓
監督・脚本:高畑勲
原作:野坂昭如(新潮文庫版)
声の出演:辰巳努、白石綾乃、志乃原良子、山口朱美、酒井雅代 ほか
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/