ゴーン会長解任決定 日産はどこへ行く?

By -  公開:  更新:

「報道部畑中デスクの独り言」(第99回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、日産自動車の臨時取締役会に関して解説する。

ゴーン会長解任決定 日産はどこへ行く?

横浜の日産本社  臨時取締役会が開かれた

 

日産自動車の臨時取締役会、11月22日は時折小雨も降るどんよりした天気で、まさに日産の先行きを暗示するかのようでした。

日産の取締役は9名。このうち、逮捕された代表取締役会長のカルロス・ゴーン容疑者と側近で代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者を除く7名で採決が行われました。この中には西川広人社長、かつてCOOを務め、日産のナンバー2であった志賀俊之氏、女性レーシングドライバーで、元レースクイーンの経歴で注目された社外取締役の井原慶子氏も含まれます。

これに対し、ルノー側の取締役はベルナール・レイ氏とジャンバブディステ・ドゥザン氏の2名。このうちドゥザン氏は社外取締役です。日産側優勢は揺るがないものの、議論が紛糾する可能性も指摘されていました。

ゴーン会長解任決定 日産はどこへ行く?

本社前には多くの報道陣が駆け付けた

取締役会は夕方に始まりましたが、プレスリリースまでに4時間近くを費やしました。結局、ゴーン容疑者の会長職と代表権を解くことを“全会一致”で決定、ケリー容疑者の代表取締役も解任となりました。あわせて企業統治の委員会設置を検討することや、新しい会長については来月の取締役会で決定し、現在の取締役の中から会長候補を選ぶことも決まりました。一方、両容疑者の取締役の肩書を外すためには、株主総会の決議を必要とするため、臨時の総会を早期に開催するよう調整が進むとみられます。

ゴーン会長解任決定 日産はどこへ行く?

海外メディアも注目

今回の逮捕劇はルノーと日産の「合併あるいは経営統合」の動きに日産側が反旗を翻した、クーデター、陰謀説…様々な見方がありますが、どれも断定するには材料が足りません。ただ、仮にそうであったとしても、それはトリガーであったに過ぎず、約20年の間に数多の不満がマグマのようにたまり、“爆発”した結果ではないかと感じます。

いささか狭量な見方かもしれませんが、日産はゴーン体制以降、社用語が英語になりました。グローバル化への動きとは言え、窮屈に感じた人もいるでしょう。メディアの立場でも、例えば横浜の本社の記者会見では司会者が外国人の時もありました。関係者から「ドライビングプレジャーを大事にしたい」という言葉が飛び出し、「“運転の楽しみ”って言えないのか!?」と感じたことがあります。

ゴーン会長解任決定 日産はどこへ行く?

試乗、ギャラリーの営業は通常通り行われていた

これまで何度となくお伝えしてきましたが、国内ではユーザーから「日産で乗りたい車がなくなった」、販社からは「売りたいタマがない」…もはやあきらめに近い声も聞かれます。日本で市販が期待されながら収益性を厳しく問われ(それはそれで大切なことですが)、断念せざるを得なかった企画、新型車はモデルチェンジごとに中国や新興国、北米市場向けの傾向が強まり、日本市場ではその「おこぼれ」としか感じられないようなクルマが多い現実、「虎の子」だった親密な関連会社の売却…、それは結婚した夫婦に不満が募り、我慢に我慢を重ねたものの、あることをきっかけに心が折れてしまった…そんな状況に似ているのかもしれません。その思いからか、日産から去ってライバル企業に転じた幹部や技術者も少なくありません。今回の逮捕劇、その違法性やゴーン容疑者の並外れた“金銭感覚”も重要なポイントですが、ルノーと日産のアライアンス=提携関係に変化が生じるかも大きな焦点になります。すでに出資比率の見直し、ルノーとの決別…そんな可能性に言及する報道もみられます。

ゴーン会長解任決定 日産はどこへ行く?

何度も言うがもちろんクルマに罪はない

しかし、私は1999年以来、20年近くにわたって続いてきた提携関係の解消…いわば「熟年離婚」はできないと思っています。会社としては統合に至っていないものの、現実としてルノーと日産の各部門の統合は進んでいます。CMF(コモン・モジュール・ファミリー)と呼ばれるプラットフォーム=骨格部分の共用化は相当ですし、2014年には両者の間で「研究開発」「生産技術・物流」「購買」「人事」の4つの機能について統括責任者を置くことになりました。これは1つの会社のような組織運営と言われています。今年に入ってからは統括責任者がコネクティッドなどの事業開発、品質・顧客管理などにも広がっています。もちろんサプライチェーン=部品調達網は両社の枠組みで構築されています。それをかなぐり捨てたら、損失は計り知れないでしょう。

自動車業界の離合集散はこれまでも行われてきましたが、“入口”で頓挫する例がほとんどでした。VWとスズキ、ダイムラーとクライスラーなど…自主性を尊重するあまり(それは決して悪いこととは思いませんが)、お互いの主張が折り合わず、破談となる例がほとんどでした。しかし、今回は約20年寄り添ってきたことが大きく違います。

ゴーン会長解任決定 日産はどこへ行く?

2013年東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「ⅰDⅹ」、名車「510型ブルーバード」の再来と言われ、ミニカーになるほど反響を呼んだが、市販化には至らなかった

知恵を出し合い、関係をどう維持していくか…それができない時は市場からの退場もあり得る…それぐらいの覚悟で臨んでほしいと思います。「自動車業界が100年の一度の変革」の中、権力闘争で停滞している時間は一秒たりともないはずです。そして何よりもユーザーが望んでいるのは「いいクルマをつくること」。「クラスで一番」というような気概を持ってほしい。コスト重視で「こんなもんでいいだろう」という木で鼻をくくったようなクルマは厳しいです。(了)

Page top