コネクティッドカー発表にみるトヨタの“底力” その1
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【報道部畑中デスクの独り言 第66回】
「クラウンとカローラはトヨタにとって特別なクルマ」
トヨタ自動車が代表的車種である「クラウン」と「カローラ」をフルモデルチェンジし、発売しました。(カローラはハッチバックタイプのみ新型)先月26日には一般客を招いたイベントも東京・お台場で開かれました。その中で豊田章男社長はこの2車種をこう評したのです。
クラウンは初代モデルの発売がいまから63年前の1955年、同業他社が海外メーカーとの提携で技術を磨く中、初の「純国産乗用車」として誕生しました。また、カローラは52年前の1966年にデビュー、国内では33年間にわたってベストセラー(軽自動車を除く)として君臨し、現在も150を超える国で販売されています。高級車ブランド「レクサス」が生まれ、また国内では販売の主役が「プリウス」や「アクア」に移行して久しいですが、半世紀を超える歴史を持つこの2車種がトヨタの原点であることには疑いありません。私は以前トヨタの関係者に、この2車種にプレミオ(旧コロナ)を加えて「トヨタの背骨」と申し上げたことがあります。同業他社から伝統ある車名がどんどん消えつつある中、車名を維持しているのは立派なことだと思います。
さて、今回の新型の大きな特徴は「コネクティッド」=つながる車、情報端末としての機能を本格的に搭載したことです。自動車業界では「100年に一度の変革期」として、電動化や自動運転などの開発競争が激しくなっていますが、「コネクティッド」も重要なキーワードの一つと言えます。
「“走る”“曲がる”“止まる”というこれまでの性能に加えて“つながる”という新たな性能がこれからのクルマに求められている」
豊田社長の言です。コネクティッド機能で展開されるサービスは…。
・車に異常が発生した際、オペレーターから運転手にアドバイスをする
・人工知能が乗員の声を聞き取ってカーナビの目的地の設定や機器の使い方の説明を行う
・事故が起きた時、車両データから状況を分析し、消防に送信、救命サービスを行う
・走行データと連動させた自動車保険の展開 …など
展示スペースではコネクティッド機能を持つ車載通信機(DCM=Data Communication Module)によるデモも行われていました。
「クリアランスソナーはどう使うのか」
車載マイクにこう語りかけると、画面に音声認識化された文章が表示され、解決法(この場合は使い方)が示されます。何かに似ていると思いませんか? そう、スマートフォン=スマホです。スマホ、特にiPhoneには細かい取扱説明書などはなく、すべて画面上で解決することが多いですね。クルマが「走るコンピュータ」と呼ばれて久しいですが、ついに「動くスマホ」の時代に入ったか…このデモを見て、そんな印象を強く持ちました。(トヨタによると、カーナビの取扱説明書は600ページにならんとするものもあるといいます)走行データと連動させた自動車保険は、まさに“異業種”との連携…スマホで言えば「アプリ」に相当します。トヨタでは「オープンプラットフォーム」として、このシステムを使った様々な異業種との連携も視野に入れているとしています。
車の異常をオペレーターがアドバイスする機能は一部ですでに実用化されており、イベントではこんな例も紹介されました。ある時、携帯電話にオペレーターから「水没の項目が出ている」と連絡があり、自宅1階にあった車を見に行ったら台風の襲来で水に浸かっていた…遠隔から水没状態をキャッチすることでクルマが「水没センサー」の役割を果たしたわけです。「24時間365日クルマを見守る」…しかもそれは機械ではなくリアルな“人間”であるというのがポイントです。
今回の展開で注目すべきはこうした車載通信機をクラウン、カローラというロングセラー2車種に、さらにすべてのグレードに標準搭載したことです。この手の“先進装備”は往々にして、特別な車種、あるいは「カタログを飾る」ために最上級グレードといった一部にだけ搭載されることも少なくありません。今回の決断は単なる「売り文句」ではなく、このシステムを業界標準にするというトヨタの“本気”を感じます。通信機単体の価格は公表されていませんが、関係者によると現状では「20~30万円ぐらい」とのこと。トヨタでは今後、国内で販売される年間100万台規模の新型車に順次、「コネクティッド機能」を展開するということです。
ひとつ気になるのは、オペレーターの人員。見方を変えれば新たな雇用創出にもつながる可能性を秘めていますが、年間100万台ものクルマに通信機が装備されると、人手不足にならないか? いざという時になかなかつながらないという状況に陥ることはないのか? 完璧なオペレーションを実現するためのトレーニングを実施し、日々進化を続けているといいますが、今後どうなるでしょうか。
このようににわかに表面化してきた「コネクティッド」の動き、トヨタがここに至るまでには様々な“ドラマ”があったようです。これについては次回に譲りたいと思います。