クルマはどこへ向かうのか その1

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【報道部畑中デスクの独り言 第60回】

「自動車」という機械、「クルマ」という乗り物は将来どこへ向かうのでしょうか? えらく大仰なテーマを掲げてしまいましたが、5月は各メーカーの決算会見、展示イベントで、改めて次世代への胎動を感じることができました。

ベンチャー 企業 GLM 京セラ コラボ トミーカイラZZ

ベンチャー企業・GLMと京セラとのコラボ車両「トミーカイラZZ」

GLMという会社が京都にあります。もともとは「グリーンロードモータース」の略。2006年に発足した京都大学の電気自動車プロジェクトを母体とし、2010年に設立されたまだまだ若い、自動車のベンチャー企業です。従業員はわずか27人(2018年4月現在)。EV=電気自動車の開発・販売を行う企業として、これまでに「トミーカイラZZ」というスポーツカータイプの完成車として販売しています。開発したのはかつてトヨタや日産など大手メーカーに籍を置いていた技術者だそうです。

横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展」(自動車技術会主催)という展示会では、その「トミーカイラZZ」をベースに京セラ製の精密なカメラや液晶ディスプレイなどが搭載されたコンセプトカーが展示されていました。これらは将来の自動運転にもつながる技術ですが、この会社の注目される点は、完成車事業とともに、プラットフォーム事業も事業の柱としていることです。

トミーカイラZZ 液晶ディスプレイ 京セラ 技術

トミーカイラZZ 液晶ディスプレイには京セラの技術

プラットフォームというのは「車台」と訳され、車の「走る・曲がる・止まる」の機能部分を集めたもの。いわば車を動かす「骨格」で、内外装、つまりボディやインテリアがない状態です。これを各企業に供給しようというのです。供給対象は自動車メーカーに限りません。実際に前出の「トミーカイラZZ」は京セラとの協業によるものですし、昨年には素材メーカーの旭化成と共同でコンセプトカーを開発しています。

また、GLMはデザインなどの企画開発、安全面などの技術開発は担うものの、自前の部品工場は持ちません。他メーカーから調達するか、共同開発という形をとっています。「モノづくりの時間を分かち合う」…GLM幹部の声です。さあ、ここまできて「何かに似ている」と思われた方もいると思います。そうです、この手法は水平分業と言って、「iPhone」で知られるアップルと同じやり方です。“本家”アップルも自動運転プロジェクトを進めていますが、日本国内にあるこの会社も含め、自動車でこのような手法が果たして通用するのか、大きな挑戦と言えそうです。

GLM 京セラ 報道 説明会

GLMと京セラの報道説明会

アップルはiPhoneを台湾や中国などの工場で生産していますが、それと同様、この会社には中国やインドの新興国からEVの量産を支援してほしいと、多くの依頼が来ているそうです。部品点数がエンジンより少ないとされるEVですが、もしこのような支援で量産が進めば、新興国を中心とした企業が大きく力をつけるかもしれません。さらにこの会社は、完成車・プラットフォームの先に「自動車開発ソリューションの提供、及びそれを用いた新しい自動車産業の創造」を目指すとしています。これは車両だけにこだわらない新たなサービスなども視野に入れているとみられます。自動車メーカーはもはやクルマを売るだけではない…こうした動きにより、自動車業界の勢力地図が一変する可能性が指摘されています。大きなビジネスチャンスである一方、主導権を手放してはならないと、既存の自動車メーカーが大きな危機感を抱いているわけです。

トヨタ 決算 会見 豊田 章男 社長

トヨタ決算会見は映像も交えて展開 右は豊田章男社長

その既存の自動車メーカーに目を向けると、おもしろいことに気が付きます。

「私はトヨタを“自動車をつくる会社”から、“モビリティ・カンパニー”にモデルチェンジすることを決断いたしました。“モビリティ・カンパニー”とは、世界中の人々の“移動”に関わるあらゆるサービスを提供する会社です」

トヨタ自動車の豊田章男社長が決算会見で発した言葉です。「ケイレツ」と呼ばれる日本の製造業のシステム、垂直分業の象徴的存在であったトヨタは、ここへきて人工知能に関する新会社を設立したり、通信、IT、配車サービスといった異業種との協業・提携に踏み出すなど、慌ただしい動きを見せています。豊田社長はそれを「サーキットレースからラリーに走り方を変える」と表現しました。「ドライバーズシートに一人で乗り込み、自分のセンサーを頼りに走らせようとするやり方」から、「(助手席にいる)コ・ドライバーと連携しながら走るやり方」に変えるということです。

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つまり、売上高29兆円を超える国内最大手と、創業してわずか8年のベンチャー企業は、自動車本体以外のビジネスの可能性を模索していることにおいて、奇しくも同じ方向を目指していることがわかります。ただ、目指す山の頂上は同じでも、“登山口”は違います。競争か? 協調か?…「100年に一度の大変革の時代」という言葉が異口同音に各メーカーから聞かれますが、それは山の頂上にある“旗”を誰が一番先につかむことができるのかの戦いでもあるわけです。

(「クルマはどこに向かうのか その2」に続きます)

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