物流の自動運転、実現は近いか?
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【報道部畑中デスクの独り言 第55回】
「日野・VWの提携」「自動運転車による宅配実験」「“ユニクロ”決算会見」…
前回の小欄では朝のニュースで上の3本を報じたことをお伝えしました。その中の一つ、「自動運転車による宅配実験」が今月24日に神奈川県藤沢市で始まり、報道陣に公開されました。
実証実験を行っているのは宅配便大手のヤマト運輸とIT企業のDeNA。実はこの両社、すでに昨年4月から「ロボネコヤマト」と称して、ドライバーが車の運転を担いながら、荷物の受け渡しには関与しない新たなサービス実験を始めていました。利用者はスマートフォン(以下スマホ)で自ら配達希望時間を設定。設定は10分単位で、GPSによって到着時刻が計算され、到着3分前にはスマホに音声案内がされます。そして利用者が車の停止場所に行き、車内のロッカーからロックを自ら解除して荷物を受け取る…という仕組みです。今回はこれを自動運転車で行うというものでした。
「実際にモノを受け取る時に、自動運転になったらどのようになるのか…新しいものにチャレンジしていきたいという二社でこのようなプロジェクトが始まった」…
自信にあふれた担当者の説明があった後、報道陣は移動。市内の公道、約150mを封鎖し、その中で時速5~10キロ程度でゆっくりと車両が近づいてきます。車両はトヨタ自動車の「エスティマ」をベースに開発されたもの。車内は助手席には人はいますが、運転席には誰もいません。ステアリングがひとりでに細かく動いている…まさに自動運転の世界です。
車両は指定の場所に停車、側面のスライドドアが開くと、車内から宅配ボックスが現れます。ボックスの上部にはタブレット端末、利用者は画面を操作した上で、自分のスマホに映されたQRコードを読取装置にかざして認証。宅配ボックスの扉がカチャリと開いて、無事に荷物を取り出しました。停止してから荷物受け取りまでの時間はおよそ40秒。ピロロン、ピロロン…軽やかな電子音とともに手続きが進んでいきます。
今回はいわゆる「デモンストレーション」、担当者は「成功」と話しますが、そこには宅配業界、自動車業界の様々な課題に対する解決策を模索する姿があります。
前回の小欄でもお伝えしましたが、近年はインターネット通販の拡大や不在配達、再配達の増加で配送ドライバーの負担が飛躍的に増し、それが人手不足にもつながっていました。今回の取り組みにより人手不足の解消だけでなく、「買い物代行」や「お取り寄せ」といった新サービスも期待できるということです。昔、人気漫画「ドラえもん」で、のび太が通販カタログを見ながら「欲しいなあ」とつぶやくと、背後からヒュッと商品が現れるというシーンがありましたが、そんなことが夢物語でない時代がやってくるかもしれません。
一方、今回の取り組みはさらなる課題も突き付けます。ヤマト運輸の担当者によりますと、有人運転から始まった実験では、利用者は「ほぼほぼ100%」指定場所に待っており、10分という時間を使わずに荷物の受け渡しができたといいます。時間をキッチリ守る…これ自体は大変に喜ばしいことですが、逆に10分間、車両が路上に待機することで「渋滞など、周辺の交通に影響を与えることはないのか」「逆に余った時間をどう活用すべきか」「停止時間を短くすべきか、だとすると利用者の利便性は?」「停止場所をより受け取りやすい所に設定すべきか?」…自動運転の安全性はもちろんのことですが、技術的に問題ないレベルに達したとしても、検討すべき点は山積です。ヤマト運輸の担当者は「ドライバーの負担は間違いなく下がる」としながら、「このオペレーションが一番だとは思っていない。足し算引き算をしていきながら新しいサービスを模索できれば」と話します。
こうしてみると、これは1日24時間という限られた時間を利用者、業者、そして社会の間でどう共有し、最適化していくかという取り組みでもあると言えます。次世代社会のキーワードの一つとして「シェアリング・エコノミー」という言葉があります。モノやサービスなどの資産を多くの人と共有し、利用する仕組みのことで、「民泊」や「カーシェアリング」などが知られていますが、時間も資産の一つとすれば、これもシェアリング・エコノミーの一種と言えるかもしれません。「運ぶ人も含めて、サステナブル(持続可能)に質の高いサービスを」と話すDeNAの担当者。業者だけでなく、利用者、ひいては社会全体でシステムをどうつくり上げていくのかも注目されるところです。
このほか、今回は自動運転車が走行する際に、信号の情報を携帯電話のネットワークを使って車両に伝えるという、日本初の実証実験も行われました。また、実験が報道陣に公開された公道は藤沢サステナブル・スマート・タウン(藤沢SST)と呼ばれる地域。グッドデザイン賞も受賞したというこの街は、住宅やマンションの屋根のほとんどにソーラーパネルを設置、“未来都市”の息吹を感じる中での取材となりました。