トヨタ決算会見で聞いたちょっといい言葉
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【報道部畑中デスクの独り言】
先月末から今月初めにかけて企業の決算発表がラッシュを迎えています。その中でトヨタ自動車の連結決算は2018年3月期の通期予想で最終益が2兆4,000億円。従来より4,500億円上方修正されました。これが実現すると過去最高益となります。折りしも決算発表の日は日経平均株価が一時1,600円以上も下落した日。いわゆる「適温経済」の潮目が変わったという分析の中、企業業績は好調…その象徴として報じられました。
しかし、トヨタの幹部は厳しい表情でした。
「決算の評価は通期見通しでは×だ」
小林耕士副社長は決算の評価を聞かれ、このように言い放ちました。あくまでもアメリカの法人税減税と為替のおかげ、為替の影響を除くと、営業利益は減益になるというのがその理由でした。いわば「他力本願」というわけです。確かに北米市場の営業利益は2017年4月~12月期で1,681億円、前期3,981億円の4割あまりに落ち込んでいます。値引き販売を補てんする販売奨励金の増加や生産台数の減少が響いたということです。
ただ、トヨタの決算会見が厳しい雰囲気であることは今に始まったことではありません。むしろ、好調な数字でも決して浮かれた雰囲気にならないのがトヨタの会見の特徴と言えます。常に危機意識を醸成している…それがトヨタの強さとも感じますが、一方でその裏には何があるのかとつい考えてしまいます。例えば来る春闘の賃上げ要求に対する“予防線”なのか、利益はすそ野にある企業の苦境のもとに成り立っているのではないか…われわれジャーナリストはひねくれ者、数字は一つでも、見る角度によって様々な姿が見えてきます。
一方、今回の会見では一風変わった試みもありました。生産現場担当の役員が出席したのです。役員は河合満副社長。「会社のことをしっかり見てもらおう」という意図から、普段の決算数字に加え、「トヨタの競争力を支えるモノづくり」と題する資料も配布され、プレゼンテーションも行われました。
決算会見ですので、会見を受けた報道は利益や経済状況に関するものがほとんどでしたが、河合副社長の発言はそれとは別の視点で示唆に富むものだったと思います。昨年、日本の製造業を揺るがした検査不正問題にからむ質問に対し、河合副社長は朴訥な表情で次のように回答しました。
「非常に危惧しているのは、いま安全装置にしたって、いろいろなものがどんどんITに代わって、センサーがついた、検知器具がついた…これは機械がやってくれる、これをつけたからもう大丈夫…こういう気持ちになっているんじゃないか?」
「我々のころはすべて自分の感性、自分で…人がすべて守り、品質を確保し、安全も確保し、すべてを確保してきたわけですけど。いまやいろんなセンサーが…技術がどんどん進化するとそういうものに委ねる。そして仕事の教え方ひとつも、やはりそういうものがついているから大丈夫だ…うわべだけの教え方になってないか」
「これはなぜつけたんだ? これがこわけとったらどうなるんだ? これを守らなかったらお客さんにどういう心配をかける? どういう問題が起きるんだ? そこをしっかり本人たちに腹落ちして人を育てる。決してそういうものにはね…すべてをそれに委ねて、安心して…そういうところが感性が鈍っておろそかにすると大きな問題が起きるんじゃないか? 私は常々自分がやってきた現場と今の…ま、ギャップといいますか、心配でならん…まあ、昔ながらの人間かもしれませんけれど」
「事実、検知装置があったはずなのに、そこで問題が起きた。なぜか? こわけてました。機能点検は半年に一回、でも次の日にこわけとった。技能っていうのは…そういうこわけたかどうかを見抜くのが技能であって、何も考えずに仕事をしとるわけではなくて、そういうものを見抜くぐらいの技能を身に着ける、そういうことで徹底的に原点の技能を教えて、それからそういう自動機、IT、いろいろなものを使わせる…その順番を間違えないような指導を徹底して行っております」
いかがでしょうか? この発言にはトヨタのものづくりや危機管理に対する「源流」を感じます。また、自動車やモノづくりに関わる産業のみならず、様々な企業、今のあまりに便利になった社会に対する警鐘とも解釈できるのではないでしょうか。
ちなみに、「こわける」という言葉は「壊れる」の意味です。東海地区の方言で、岐阜出身の私としては「ああ、そういえば言ってたな」と懐かしい気分になったことも付け加えておきます。