日野・VW提携から見えてくるもの
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【報道部畑中デスクの独り言】
今月12日、トヨタ自動車グループの一員、日野自動車とドイツ自動車大手のVW=フォルクスワーゲンが、商用車の分野で戦略的協力関係を構築することで合意したと発表しました。日野自動車はトヨタの連結対象にある子会社、一方でVWは乗用車分野でトヨタと激しい競争を繰り広げている…そんな立場の会社同士が手を組むことは驚きをもって報じられました。
日野自動車は戦前の東京瓦斯工業を母体とします。戦後は改称したヂーゼル自動車工業の日野製造所が分離・独立して発足。1950~1960年代にはフランス・ルノーとの提携を経て、「コンテッサ」など自社開発の乗用車も生産していましたが、1966年にトヨタと業務提携、現在はトヨタが過半数の株式を保有する連結子会社、自社ブランドとしてはトラック・バスをメインとしながら、トヨタブランドの車両も受託生産しており、トヨタとは「一心同体」といっても過言ではない存在です。
日野自動車の下義生社長は共同記者会見で「トヨタとの関係は全く変わらない」と話す一方で「商用車分野の課題はトヨタグループの中では解決は難しい」とも述べました。また運送業界の深刻なドライバー不足などに言及し、「力を合わせて社会の課題を解決する」と協力の狙いを説明しました。今回の提携からは現在の自動車産業の抱える様々な事情が見えてきます。
自動車の電動化や自動運転技術には膨大な開発費が必要とされますが、商用車の分野も例外ではありません。とりわけトラックやバスは乗用車と違って大型で力もいる…電動化の場合、動力となる電池、モーターもより大型、強力なものが必要になるというわけです。そして、自動運転は物流の世界の方が実現は近いとも言われています。その分、開発期間は短く、乗用車以上に競争が激しいのが商用車の世界とも言えるかもしれません。
日本の商用車=トラック・バスメーカーの資本関係は21世紀に入って様変わりしました。日本国内は4社体制となっていますが、いすゞ自動車はGM=ゼネラル・モーターズの傘下から外れて、トヨタが大株主です。その中のバス部門は日野と経営統合し「ジェイ・バス」となりました。三菱ふそうトラック・バスは「三菱」という名がついているものの、三菱自動車から分社し、ダイムラーの傘下に。日産ディーゼルは日産グループからボルボグループの子会社になり、社名も「UDトラックス」に変更しました。そして、今回の日野…トヨタグループで盤石体制と思われましたが、変革の嵐には今回のような「別の一手」が必要となったようです。
一方、今回の提携で一つ気になるのが、環境技術です。
「これから燃料電池バスの話をしに、日野に行ってきますよ」
トヨタの幹部が記者を前に上気した表情でこのように話していたことがあります。その後、2017年に「トヨタブランド」で燃料電池バスが販売されました。今年3月にはトヨタやJXTGエネルギーなどが集結して、水素ステーションの合同会社を設立しました。ただ、FCV=燃料電池自動車そのものは普及のスピードが遅いのが現状です。今回のVWとの提携は、FCVの雲行きに変化が出てきたのか…気になるところです。
翌日、私は朝のニュースでこの「日野・VWの提携」のほか、「ヤマト運輸とDeNAが自動運転車を使った宅配便の配送実験を実施することになった」「“ユニクロ”を展開するファーストリテイリングの決算会見」のニュースを合わせて報じました。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は会見で「グローバル化とデジタル化はすでに水や空気のように生活に密着、不可分なものになっている」とした上で、「誰かの後追いではなく、自分が戦う土俵を自分の手でつくり上げる。ほかの企業にまねができないプラットフォームをつくったところが勝ちだと思う」と述べました。
この3つのニュースは一見別々のニュースに聞こえますが、すべてつながっているニュースだと思います。日野・VWの共同会見では、運送業界の深刻なドライバー不足に触れていましたが、その大きな理由の一つにネット通販の宅配便が飛躍的に増えていることが挙げられます。ハード面での解決策の一つとして「自動運転」がある…一方でファーストリテイリングのような店舗型の流通業もネット通販の台頭に脅威を感じていて、今後、デジタル技術を活用したプラットフォーム=ビジネスモデルを開発し、主導権を握ることを真剣に模索している…それはアパレル流通業者の領域を超えていると思います。
こうした動きから見えてくるのは、自動車業界だけではない…まさに産業構造全体が変革の時期にあるということです。変革期の真っ只中にあることを自覚しながら、私どもメディアも報道に臨まなくてはなりません。