クルマはどこへ向かうのか その2
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【報道部畑中デスクの独り言 第61回】
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パシフィコ横浜で開かれた「人とくるまのテクノロジー展」多くの関係者でにぎわう
前回の小欄でも触れましたが、5月、横浜で「人とくるまのテクノロジー展」(自動車技術会主催)なる展示会がありました。記者の間でも「テーマを決めていかないと何だかわからなくなるよ」という声が聞かれたほど、その分野は多岐にわたりました。
その中で、注目すべき1つはやはり“自動運転”の技術です。
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ドイツの部品大手、ボッシュのブース
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(左)日立オートモーティブのブース/(右)市光工業のブース
ドイツの部品大手、ボッシュのブースでも自動運転への取り組みが展開されていましたが、目を引いたのが駐車場を探すサービス。バンパー左右につけられたセンサーなどで車のサイズを検出、そのデータをクラウドに上げ、データを基にサイズに合う駐車スペースが見つかったら車に知らせる…もちろん自動運転であれば、情報が入り次第、車自らが駐車してしまうというわけです。自動運転そのもののシステム開発もさることながら、クラウドのシステム、そしてシステムを使ったサービスを新たな収益に結びつけていく…そんなことを視野に入れていると言います。ここまでくると既存の部品メーカーの枠を超えていると言ってもいいでしょう。
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(左)自動運転を新たなサービスへと目論む/(右)自動バレー駐車を説明する画面
続いて聞き慣れない「バレー駐車」という言葉、これはホテルの入口に車をつけたら、後はホテルマンが駐車場に車を移すことを指します。これを自動運転でやろうという研究が進められています。「バレー駐車」への取り組みはボッシュだけではなく、各社のブースでも目につきました。自動車だけでなく、駐車場側でもカメラなどのインフラ整備が必要になりますが、こんなことも真剣に考えられているのです。
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(左)ヘッドライトにも自動運転につながる技術が/(右)ヘッドライトから描画された情報が映し出される
一方、市光工業のブース、市光と言えばかつては日産自動車系の照明機器メーカー、また世界初の電動格納式ドアミラーを開発したことで知られますが、現在はフランスの部品メーカー、ヴァレオの傘下にあります。ここには「HDライティング」という世界初の技術が展示されていました。ヘッドライトの中に描画、つまり絵や図形を描く機能があり、照らした先に標識などの情報を表示することができるというものです。自動運転を見据えた技術、これまた照明やミラーだけの会社ではなくなっています。
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ドイツの部品大手、コンチネンタルのブース、タイヤで有名だが…
そうなのです。部品メーカーも「自動車をつくって売るだけではない時代が来る」という認識では自動車メーカーと一致しています。将来、「いくつかの自動車メーカーが消滅する」、そんな可能性が指摘されていますが、自動車が変化すれば、当然、部品も変わります。部品メーカーの“地殻変動”も着実に進んでいるのです。
とは言え、「ただ時代の先端を追いかけていればいい」というわけではないようです。
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日立オートモ―ディブの自動運転システム
「自動運転のカギはやっぱり“脳みそ”の部分。現状ではお湯が沸いてしまう」
そう語るのは日立オートモーティブの関係者。このブースに展示されていたECUと呼ばれる自動運転の“頭脳”、いまは主に人間が様々な運転パターンを覚え込ませていますが、今後、これにAI=人工知能を加える意向です。そうなると頭脳領域は飛躍的に広がり、自動運転の精度も上がるということです。ただ、これにはいわゆる「ビッグデータ」が必須となります。するとどうなるか…情報量が多くなればなるほど、つまり負荷が大きくなればなるほど、装置は熱を持ちます。パソコンと同じく“熱暴走”しないためにどう冷やしていくべきか…新たな課題が出てくるのです。自動車という移動体の中で冷却性能をいかに上げていくか、あるいは発熱の小さい半導体をいかに開発していくのか? これも大事な要素と言えます。
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自動運転はECUをはじめ、様々なユニットで構成される
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自動運転を構成する部品
以前、小欄で自動運転は「総合芸術」のようなものと書いたことがあります。カメラ、センサー、地図、ケーブル、セキュリティ、そして「熱対策」…改めて様々な技術の集合体であることを感じます。自動運転は確かに最先端のデジタル技術が不可欠で、そこにはスマートでハイテク、無機質な印象があります。ただ、結局はエネルギー…熱力学の問題に帰結する、「アナログ臭い」世界と申しましょうか、システムも「生き物」なのだなと…何だかホッとする気分になりました。
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自動運転システムの開発にも力を入れる
次世代自動車に向けた競争は社会を大きく変える可能性があります。しかし、未来を見つめながら、それを下支えする技術も大切というわけです。