カーシェア、販売網再編~慌ただしいトヨタの動きのキーワードは「ビッグデータ」?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第96回)では、ニッポン放送畑中デスクが、トヨタの動きに関して解説する。

カーシェア、販売網再編~慌ただしいトヨタの動きのキーワードは「ビッグデータ」?

トヨタ自動車中間決算会見(11月6日撮影)

トヨタがまたぞろ慌ただしい動きを見せています。今月早々発表されたのが、個人向けサブスクリプションサービス「KINTO」の展開、そして国内販売網の再編でした。

前者は一見わかりにくいのですが、サブスクリプション(Subscription)とは、製品やサービスなどの代金を、一定期間の利用に対して支払うシステムのこと。今回の場合は月額制で車を貸し出すサービスということになります。カーシェアリングの一種ですが、税金や保険の支払いのほか、車両のメンテナンスなどの手続きをパックにしたサービスになるということです。「所有」から「共有」へと保有形態が変わりつつある中、クルマのすそ野を広げていこうというのが狙いですが、あわせて広報資料には「コネクティッド技術を活用した安全運転・エコ運転の度合いや販売店への定期入庫などをポイント化し、お客様に還元するプログラムも展開する予定」とあります。次世代自動車市場…コネクティッドや自動運転に欠かせない「ビッグデータ」を収集するという思惑があるのは間違いないところでしょう。

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カーシェアリングには次世代自動車に向けた「宝」が眠っている?(タイムズカープラス)

トヨタは今年4月、パーク24との提携を明らかにしています。パーク24は24時間運営の駐車場だけでなく、「タイムズカープラス」というカーシェアリングサービスも展開しています。提携はトヨタの車両に通信端末を搭載し、データを収集しようというもの。また、レンタカー業界では所有台数、店舗数で国内トップなのはトヨタ系の「トヨタレンタリース」です。さらに今回の「KINTO」により、様々な使用における「運転のクセ」「行動形式」などのデータも収集し、来るべき時代に備えようということなのでしょう。

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東京ではメーカー直営店が「一つのトヨタ」になるというが… トヨタ店(左上)、トヨペット店(右上)、カローラ店(左下)、ネッツ店(右下)

そして、後者の国内販売網の再編。トヨタは「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」と4系列の販売店を持ち(レクサス店は除く)、一部重複はあるものの、それぞれが取り扱い車種を分担してきました。まずは来年2019年に東京の直営店を統一し、2022年から2025年をめどに全国の販売店で原則すべての車種を取り扱うということです。今月6日に行われた中間決算会見でディディエ・ルロワ副社長は「東京は新たなトレンドをいち早く取り入れる都市。新たなモビリティサービスを試すことができる地域だ」と述べ、東京を皮切りにすることの意義を強調しました。これも販売の効率化とともに、多様なデータを収集し、新たなサービスを構築する体制を整えることが目的と思われます。具体的な取り組みとして、販売店へのシェアリング事業のためのシステムや機器提供などが盛り込まれています。

この複数系列の販売システム、アメリカのGMが嚆矢とされています。GMはゼネラル・モーターズという名の通り、数多の自動車会社が集合したメーカーであり、統合後もキャディラック、シボレー、ビュイック、オールズモビルなどのブランドが残りました。そうしたブランドを分けて販売するためにチャネル制と呼ばれる系列販売網が生まれたわけです。高級車向け、大衆車向け、スポーツ車主体という具合に販売店にも特徴がありました。

日本でもアメリカに倣い、トヨタをはじめ、日産、ホンダ、三菱、マツダが複数チャネル制を導入しました。しかし、日本特有の「横並び意識」もあったかもしれません。同じメーカーの車なのに、チャネルが違うことで「あっちにはあるのにウチにはない。タマが欲しい」という声も…そうした経緯で生まれたのが「兄弟車」「姉妹車」と呼ばれる共通の車台やエンジンを使う車です。かつては「バッジビジネス」と呼ばれ、差別化するためにエンブレムやヘッドライト、テールランプ周辺に違いを持たせるなど、苦心の跡がありました。市場が右肩上がりの時は、店舗ごとの競争も激しく、拡販につながりましたが、成熟期に入ると、その非効率さが露呈します。ユーザーにとっても同じメーカーなのに、近くの店では欲しい車を扱っていない、やむなく遠くの店に行く…というような不便さもありました。

日産もかつては「日産店」「モーター店」「サニー店」「チェリー店」「プリンス店」の5系列がありましたが、段階的に再編が進められ、ゴーン体制になってさらに加速。現在はすべての車種を扱う体制となっています(店名自体は以前のままの拠点も多い)。

パルサー&ラングレー&リベルタビラ
サニー&ローレルスピリット
セドリック&グロリア(プリンスと合併後に兄弟車化)
バイオレット&オースター&スタンザ
シルビア&ガゼール

これは日産にかつてあった兄弟車…国内市場ではすべて消滅しており、懐かしさを感じます。子供のころは、同じような車の違いをどうやって見分けるか…マニアックな楽しみだったことを思い出します。

トヨタは持ち前の販売力もあり、いまもこのような兄弟車は存在しますが、いよいよ腰を上げた形です。販売網の再編により、兄弟車の統合を中心に、国内販売車種を2025年をめどに現在の約40から約30に減らすということです。

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トヨタ自動車の中間決算には外国人幹部も顔をそろえた 左から白柳正義専務、小林耕士副社長、ディディエ・ルロワ副社長、ジェームス・レンツ専務

トヨタの中間決算では、2019年3月期連結業績予想が売上高・純利益とも上方修正されましたが、アメリカや中国市場の不透明感、国内販売の頭打ちなど、環境は必ずしも追い風とは言えません。「地域別で見ると五分五分、7勝8敗ぐらい。もっとお客様にお届けするものがあるのではないか」…独特な表現で話すのは小林耕士副社長。厳しい経営環境や次世代自動車競争に対する危機感が感じられます。

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トヨタ東京本社ロビーに展示されたスープラ試作車

 

会見が行われたトヨタ東京本社のロビーにはスポーツカー「スープラ」の試作車が展示されていました。スープラは、かつての小型乗用車「カリーナ」をベースにしたスペシャリティカー「セリカ」の派生車種「セリカXX」がその前身です。16年前に消滅したこの車名が復活するのか注目されます。ちなみに「カリーナ」「セリカ」はすでに車名が消滅しています。(了)

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