初優勝の東海大学 箱根よりきつい傾斜があるヤビツ峠で得た自信
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、2日・3日に行われた箱根駅伝で、初の優勝を果たした東海大学のエピソードを取り上げる。
「箱根よりきつい傾斜がある(秦野市の)ヤビツ峠で何回も練習した。自信があった」
(5区で区間2位、東海大2年・西田壮志)
今年で第95回を迎えた、東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)。王者・青山学院大学の5連覇を阻止したのは、これが初優勝の東海大学でした。
3日の復路、東海大は、往路優勝の東洋大に1分14秒遅れの2位でスタート。東洋大は7区までトップを維持しましたが、東海大は2位で追走すると、じわじわと差を詰めていきました。8区の14キロ過ぎ、上り坂の手前で、東海大3年・小松洋平が仕掛け、東洋大1年・鈴木宗孝を抜き去ると、そのまま一気に引き離します。小松は1時間3分49秒で、8区の区間記録を22年ぶりに更新、今大会の最優秀選手(金栗杯)に選ばれました。
往路は東洋大、復路は驚異的な追い上げを見せた青学大が優勝。しかし総合優勝を飾ったのは、10時間52分09秒の大会新記録で大手町のゴールを駆け抜けた東海大でした。
東海大のランナー10人が、各区間でマークした記録の順位を見てみると:
1区・鬼塚(区間6位)→2区・湯沢(区間8位)→3区・西川(区間7位)→4区・館沢(区間2位)→5区・西田(区間2位)→6区・中島(区間2位)→7区・阪口(区間2位)→8区・小松(区間新・1位)→9区・湊谷(区間2位)→10区・郡司(区間3位)
全員が大崩れせず、しかも4区から9区までは、すべて2位以上のタイム。区間トップになったのは先述の小松だけですが、10人が大きなミスなく、本来の走りを披露したことが、勝因となりました。
対照的に青学大は、4区で区間15位、5区で区間13位と、往路の終盤にタイムを落としたことが大きく響き、追い上げも及ばず、5連覇を逃すことになったのです。
「今季は、箱根駅伝優勝を目指す!」
選手たちにそう宣言し、早い段階から箱根駅伝に照準を合わせたトレーニングを積ませたのは、東海大を率いる両角速(もろずみ・はやし)監督です。3年前、高校駅伝で活躍した各高校のエース級が相次いで入学。その「黄金世代」が3年生になった今大会は、大きなチャンスでした。
東海大といえば、スピードが自慢。しかし箱根駅伝では、いつも上位に食い込みながら、なぜか優勝には手が届かずにいました。「スピード勝負だけでは勝てない」と痛感した両角監督。毎年11月下旬に参加していた1万メートルの記録会出場を見送って、起伏のあるロードを備えた、千葉県富津市での合宿に切り替えたのです。
伝統的にトラック重視の東海大にとっては、この方針転換は大きな賭けでした。しかし、記録会で全力を出し切ってしまうことが、箱根で「あと一歩の粘り」を欠いた理由ではないか……。記録会を捨てて、ロードでの合宿を組んだ両角監督。
「今年こそ、箱根で勝つ!」という決意が本気だと知った選手たちは、監督の思いを正面から受け止め、アップダウンのあるコースでのトレーニングに打ちこみました。冒頭で紹介したヤビツ峠など、厳しいコースで走り、スタミナをつけるために20キロ・30キロの長距離練習も。「地獄でした……」と語る選手たち。
その成果が、山道の5区(上り)・6区(下り)での好走です。東海大はどちらも区間2位。特に復路スタートとなる6区では、大逆転を狙う青学大4年・小野田勇次が57分57秒という区間新を記録しましたが、東海大3年・中島怜利も58分06秒と、ほぼ遜色ないタイムをマーク。結果的に、ここで大きく差を詰めさせなかったことが、粘る青学大を振り切る決め手になりました。
「箱根駅伝を勝つ」という両角監督の決意の表れは、もう一つありました。昨年9月から毎日最低12キロ走り、ダイエットを始めたのです。食事も制限し、86キロの体重は69キロに大幅ダウン。「選手が胴上げしやすいように(笑)」と語った両角監督でしたが、「お前たちと共に戦っているぞ」という覚悟を示す意味もあったのでしょう。スリムになった体は、大手町で5回、宙に舞いました。
今回の初優勝に大きく貢献した黄金世代の現3年生は、春から最終学年を迎えます。今後、どんな進化を見せてくれるのか? リベンジに燃える青学大、東洋大とのハイレベルな争いに注目です。