他人に成りすました人生に希望はあるか…

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第547回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、1月12日公開の『未来を乗り換えた男』を掘り起こします。


亡命と難民。歴史的悪夢と現代における深刻な社会問題を交錯させた人間ドラマが誕生!

他人に成りすました人生に希望はあるか…
現代のフランス。ファシズムが吹き荒れる祖国ドイツを逃れて来た元レジスタンスの青年ゲオルクは、ドイツ軍に占領されようとしているパリを脱出し、港町マルセイユにたどり着く。彼はパリのホテルで自殺した亡命作家ヴァイデルに成りすまし、船でメキシコへ向かうことを決めていた。

そんななか、一心不乱に夫の行方を捜す、黒いコート姿の女性マリーと遭遇。ミステリアスな雰囲気を漂わせる彼女に心惹かれるゲオルクだったが、それは決して許されず、報われるはずがない恋だった。何故ならば、マリーが探している夫こそ、ゲオルクが成りすましているヴァイデルだったのだ…。

他人に成りすました人生に希望はあるか…
“名匠”と呼ばれる監督の手にかかることで、歴史を綴った小説がこれほどまでに斬新で驚きに満ちた映画になるとは。2018年、第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品された『未来を乗り換えた男』の原作は、1930年代から40年代にかけてナチス政権下のドイツから亡命した小説家、アンナ・ゼーガースによる「トランジット」。

ドイツの名匠クリスティアン・ペッツォルト監督はこの小説を映画化するにあたって、舞台を現代に置き換えました。そうすることで、ファシズムの風が吹き荒れたナチスによる史実と現代の難民問題を重ね合わせるという荒技を実現。祖国を追われた人々が希望のありかを見つけ出そうとする姿をサスペンスフルに描いた、野心作が誕生しました。

他人に成りすました人生に希望はあるか…
『東ベルリンから来た女』や『あの日のように抱きしめて』など、これまでにも歴史に翻弄された人々の数奇な運命を描き、高い評価を受けて来たクリスティアン・ペッツォルト監督ですが、本作では過去を再構築するような歴史映画ではなく、現代に通じる作品を作り上げたいと思ったのだとか。

そこで「現代のマルセイユで亡命者たちを行動させたらどうなるか?」と思いついたことから、この映画のストーリーが生み出されました。

他人に成りすました人生に希望はあるか…
悪夢のような史実と、現代における深刻な社会問題を背景にしながらも、この映画のもっとも素晴らしいところは、人間ドラマであり男女のラブロマンスであるということ。

歴史とは人間が生み出すもの。そして、同じ過ちを繰り返していくのも人間という、クリスティアン・ペッツォルト監督のメッセージに魂を揺さぶられる1作です。

他人に成りすました人生に希望はあるか…
未来を乗り換えた男
2019年1月12日からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト
原作:アンナ・ゼーガース「トランジット」
挿入歌:トーキング・ヘッズ「ROAD TO NOWHERE」
出演:フランツ・ロゴフスキ、パウラ・ベーア ほか
©2018 SCHRAMM FILM / NEON / ZDF / ARTE / ARTE France Cinéma
公式サイト http://transit-movie.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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