第2回首脳会談が決裂に終わった米朝それぞれの読み違い

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月1日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。電話ゲストにデイリーNKジャパンの高英起を交え、第2回米朝首脳会談の結果について解説した。

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ロイター」「プラス」 米朝首脳会談 ドナルド・トランプ米大統領、金正恩朝鮮労働党委員長、米朝首脳会談、拡大会合、第2回米朝首脳会談、アメリカ、北朝鮮=2019(平成31)年2月28日、ベトナム・ハノイ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

米朝首脳会談を受け、安倍総理がトランプ大統領と電話会談

アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、28日、ベトナムの首都ハノイで2日間の日程で行った首脳会談を終えた。両首脳は非核化で合意に達せず、文書の署名は見送られている。これを受け安倍総理は昨夜、トランプ大統領と電話会談し報告を受けた。総理は会談後、トランプ氏が非核化で妥協しない自制を示したことについて「安易な譲歩を行わず北朝鮮の具体的な行動を促していくトランプ氏の決断を全面的に支持する」と語っている。

飯田)この件について、北朝鮮情報専門サイト、デイリーNKジャパン編集長・高英起さんに伺って参ります。今回の交渉の決裂は北の見誤りみたいなことも言われていますが、高さんどうご覧になりましたか?

高)双方見誤っていると思います。北朝鮮だけでなく、アメリカ、もっと言うとトランプ氏と金正恩氏お互いが読み違えたのではないかなと思います。

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23日、ハノイでの第2回米朝首脳会談のため平壌駅を出発する際、朝鮮人民軍名誉儀仗(ぎじょう)隊を閲兵する金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=2019年2月24日 写真提供:時事通信

北朝鮮のサラミ作戦の失敗

飯田)北の読み違えはどういうところにあると思いますか?

高)制裁解除の要求がどこまで通るかというところと、それに対する見返りです。核施設の廃棄など含めて、アメリカが求める要求に応えられなかったのではないかと思います。

飯田)寧辺(ニョンビョン)は出してきた、それ以外はアメリカが求めたという報道がされていますが。

高)それもありますが、いずれにせよ核施設の査察というのは時間がかかるものです。仮に出したとしても1年や2年ではできるものではありませんから、出すことは可能だったと思います。そこでいわゆる北朝鮮のサラミ戦術が失敗したというよりは、アメリカもまたそれを見透かしたのかもしれませんね。

飯田)金正恩氏は3月2日までベトナムに残るという話があって、今後北京に寄るみたいな噂も出ていますよね。

高)北京に寄ることはあると思います。習近平氏とは良好な関係を築いていますから。そこでこういったことがあったぐらいは話すかもしれませんね。

飯田)あと日本に対して何かアプローチすることはありますか?

高)私はないと思います。拉致問題もいま話題になっていますけれど、アプローチがあるとするならば日本が出て行かないと北朝鮮は動かないと思います。

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2019年1月18日、北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(右から4人目)と面会するトランプ米大統領(左端)[ホワイトハウスのスカビノ・ソーシャルメディア部長のツイッターより]=写真提供:時事通信

なぜ北朝鮮は非核化への工程を出さなかったのか

宮家)北朝鮮の誤算のところですが、実際にアメリカは非核化のためのロードマップ、工程表を作れとか、核開発の中身を申告しなさいとか言いましたよね。なぜ北朝鮮はどれも受け入れなかったのですか。それを受け入れていたら話は全然違ったかもしれませんよ。

高)おそらく北朝鮮はもっと小出しにしたかったのだと思います。よくサラミ戦術と言われますが、小出しにしてそれでトランプ氏を北の外交交渉に引きずり込もうとした。そこをアメリカが乗らなかったのがこれはやばいなと思ったと思います。

飯田)北朝鮮情報専門サイトデイリーNKジャパン編集長、高英起さんにお話を伺いました。宮家さん、北朝鮮とアメリカ双方見誤っていたという話でしたが。

宮家)サラミを細かく切り過ぎたのでしょうね。もうちょい厚く切れば良かったのですけどね。ボルトンさんやポンペイオさんからすれば、「トランプさんがこんな形で北に対し譲歩したらたまらない」と思っていたと思います。トランプ大統領の顧問弁護士だったマイケル・コーエンさんの議会での爆弾発言があったから、「ここで譲歩したら大変ですよ、ワシントン帰ったら大炎上が2乗3乗になりますよ」と説得するのがいちばんトランプさんには分かりやすい。トランプさんにとっては交渉がどうなるかよりも、自分にどのくらい批判が集まるか、自分がいかに輝くかということにしか関心がない人ですから。

今回のことは、トランプさんに対し「こういう形で説得をすれば、思いとどまるのではないか」という1つの前例になったのかもしれませんね。

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ニューヨークの連邦地裁を出る、トランプ米大統領の長年の個人弁護士だったマイケル・コーエン氏(中央)(アメリカ・ニューヨーク)=2018年11月29日 写真提供:時事通信

この結果で北朝鮮の側近はどうなる?

飯田)メールをたくさんいただいています。“たかし”さん新宿区60歳の方です。「とりあえず今回合意決裂となりましたが、トランプさんの商売上の駆け引きじゃないかと思います。北朝鮮はそれに対しどう出るのか、行く前から国内の新聞やテレビやメディアでは、あたかも勝利したような報道、ベトナムに着いてからも金正恩氏は笑顔と手を振りまいておりました。それがこの結果。昔だったら北朝鮮の関係した側近は直ちに処刑されていたのではないですか?」。

宮家)まず前半について言うと、商売上の駆け引きという見方は面白いけれど、外交は商売ではありません。合意を文書の形で残さないといけないので、あまりいい加減なことはできないわけです。その意味ではトランプさんのやり方は稚拙だったと思います。もう1つ、確かに昔だったら関係した北朝鮮の側近はアウトだったと思います。金正恩氏のはらわたは今頃煮えくり返っているかもしれません。「お前ら何やっているんだ。俺があんなにまとめていているのに、アメリカの話は違うじゃないか」と。こうなると、確かにそういった恐ろしさはあると思います。

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戦略のないアメリカ

飯田)トランプさんが昨日の会見のなかでは、次の会談はセットしていないけど3回目もやると言ってはいました。

宮家)失敗だとは言えませんからね。さすがに成功だとは言えなくなったわけだから、チャラにしているわけですが、これで終わりですとなったら、「じゃあこれ大失敗じゃないか」「言っていることと話が違うじゃないか」と批判されるから口を濁しているのです。北朝鮮はちゃんと戦略を持ってやっていますよ。これに対しアメリカはまったく戦略がないですよ。これじゃあ取れるものも取れません。

飯田)いままでだったら積み上げのなかで、事務方で交渉してというやり方がありましたが、それがやりづらくなっていると。

宮家)ポンペイオ国務長官も言っていたけれど、トランプさんは新しいトップダウンのやり方でやっているのです。トップダウンの反対はボトムアップですよね、ボトムアップで全然文書が詰まっていないところで、突然トップダウンでやってみてと言われても困る。これを文書にしようとしたら、「悪魔は詳細に宿る」というわけで、やはりだめだったということです。これは去年の6月12日に起きても決しておかしくはなかった。

飯田)あの時ひっくり返していてもおかしくなかったと。

宮家)前回は、北朝鮮の方はサラミを切る気もなかったでしょ。今回少し切ろうとしたけれども、薄かった。北朝鮮が思い上がったのか、トランプさんがこのくらいでどうにかなるだろうと足下を見られたのか、あまりいい結果ではないですね。

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【拉致被害者家族会・救う会合同会議】会議後、会見する(右から)飯塚繁雄さん、横田早紀江さん、横田拓也さん、横田哲也さん=2019年2月17日 写真提供:産経新聞社

北朝鮮とアメリカの関係悪化のときが拉致問題進展のチャンス

飯田)それから日本に対しての話ですが、“アーメンホテプ”さんメールで頂きました。「この米朝会談明らかな成果だと思います。拉致被害者奪還が一瞬停止するにせよ、北が重要な反コンプラ国家である証左を突き付けることが重要だと。中国枢軸のいちばん触れたくない部分なんじゃないかと、席を立つということもあるぞ、と見せる意味もあるということで拉致についてはどうなるのか」と。

 

宮家)拉致についてはですね、いままでは北朝鮮はあまり関心がなかった。なぜかというとトランプさんと直接話せるからです。だから日本なんて関係ないという意識があったと思います。ところが今回みたいに米国がきちっと北朝鮮に言ってくれると、北朝鮮も「アメリカとの関係も甘くはないな」と。そうなると次は直接日本とやらないといけないなと思う可能性があります。逆にこのように米朝が上手く行かないときこそが、拉致問題について議論が進むひとつのチャンンスではあると思います。

飯田)歴史を見れば、アメリカと上手くいかないときに日本に顔を向ける。

宮家)常にそういう相関関係にありますから、我々は決して希望を捨てるべきではない。

飯田)何かのときのために準備していないといけないと。

宮家)チャンスはこれから来ると思います。

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