【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第593回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
3月21日、東京ドームで開催された「2019 MGM MLB日本開幕戦」第2戦の試合後、現役引退を発表したシアトル・マリナーズのイチロー外野手。「ついにこの日が来てしまった…」と、残念に思った方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、イチロー選手の功績、そして引退会見での言葉とともに、名作ベースボール映画をご紹介。野球をテーマにした映画は数多くありますが、そのなかでも実在のメジャーリーガーを主人公にした3作品をセレクトします。
イチロー選手の活躍 その精神は、名作映画にも通じていた!
まずはブラッド・ピット主演の『マネーボール』。現在、オークランド・アスレチックスの上級副社長でメジャーリーグ名GMのひとりに数えられるビリー・ビーンの半生を描いたヒューマンドラマです。
選手引退後、アスレチックスのGMに迎えられたビリーは、有名選手を高い年俸で雇う代わりに他球団で評価されていない、埋もれた戦力を発掘し有効活用するという、データ重視で常識破りの“マネーボール理論”と呼ばれる戦略を実践。その結果、貧乏球団を常勝球団に導いたことで知られています。
本作では本物の試合映像と映画のために撮影した映像を織り交ぜることで、ドキュメンタリー映画のようなリアリティと信憑性を生み出すことに成功。その試合映像のなかには、当時、シアトル・マリナーズで活躍するイチロー選手の姿も。ベネット・ミラー監督によると「メジャー1年目から活躍していて高い評価を得ているスター選手。主人公のビリーにとって手の届かない選手の象徴」としてイチロー選手を登場させたとのこと。
「アメリカのファンは最初は厳しかった」と話していたイチロー選手ですが、その存在は映画の世界においても一目置かれるものだということが分かるエピソードだと言えるでしょう。
続いては、『42〜世界を変えた男〜』。1947年にブルックリン・ドジャース(現ロザンゼルス・ドジャース)に入団したアフリカ系アメリカ人、ジャッキー・ロビンソン選手の奮闘を描いた伝記ドラマです。
映画のタイトルとなっている数字「42」は、ロビンソン選手の背番号。現在、アメリカ・カナダでは、メジャーはもちろん、マイナーリーグ、独立リーグ、アマチュア野球にいたるまで、すべての野球チームで永久欠番となっている番号です。MLBでは4月15日は「ジャッキー・ロビンソン・デー」と呼ばれ、彼の功績を称えて、毎年、すべての選手、監督、コーチが背番号「42」のユニフォームを着用して試合が行われます。
イチロー選手もまた、この日には伝説の「42」を背負い、プレー。2009年のロビンソン・デーに、イチローが日米通算3,085安打を満塁ホームランで達成したことは、野球ファンならばご存知のことでしょう。
白人ばかりが所属していたメジャーリーグにおいて、想像を絶する人種差別やバッシングに負けず、有色人種のメジャーリーグ参加の道を拓いたロビンソン選手。そして日本人大リーガーの先駆者のひとりとして、重責を背負って戦って来たイチロー選手。プレッシャーや周囲の雑音に対して言葉で反論するのではなく、孤独のなか、プレーで結果を出して世間を味方につけて行くそのスタイルには、共通するものを感じずにはいられません。本作を観ると、イチロー選手が引退会見で語っていた「孤独を感じて苦しんだことも多々ありました」という言葉を思い出す人も多いのではないでしょうか。
尚、本作は、「第31回東京国際映画祭」の” Cinema Athletic 31 映画はスポーツだ!スポーツは映画だ!”として、六本木ヒルズアリーナにて野外上映されました。
最後にご紹介するのは、『オールド・ルーキー』。35歳でメジャーリーグデビューした投手、ジム・モリスの実話をもとにした感動作です。
彼は1983年にミルウォーキー・ブルワーズにドラフト1巡目で入団したものの、肩の故障のため、メジャーのマウンドを踏むこともなく1987年に解雇。翌年、シカゴ・ホワイトソックスと契約するも1ヵ月で解雇され、現役を引退。その後は高校教師として身を立てていましたが、とあるきっかけでデビルレイズのトライアウトを受け、見事合格。
メジャー通算登板数21試合、0勝0敗、防御率4.80という具合に、数字だけ一見すると凡庸な成績となりましたが、35歳でデビューを果たした“The Oldest Rookie”としてその名をメジャーの歴史に刻みました。
「成功という言葉が嫌いなんですけど…」と、前置きしながらも、「成功できるから行く、できないから行かない、そういう判断基準では後悔を生むと思う。やりたいと思えば挑戦すればいい。どんな結果が出ても後悔はないと思う」と言う、イチロー選手の言葉。本作はまさに「できるかどうかではなく、やりたいかどうか」でメジャーリーグに挑戦した男の物語。イチロー選手のスピリットに通ずるものがある名作です。
<作品情報>
マネーボール(2011年日本公開)
DVD&Blu-rayリリース、デジタル配信中
監督:ベネット・ミラー
原作:マイケル・ルイス「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」
出演:ブラッド・ピット、ジョナ・ヒル、フィリップ・シーモア・ホフマン、ロビン・ライト
公式サイト https://www.sonypictures.jp/he/782613
© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.42〜世界を変えた男〜(2013年日本公開)
DVD&Blu-rayリリース、デジタル配信中
監督・脚本 :ブライアン・ヘルゲランド
出演:チャドウィック・ボーズマン、ハリソン・フォード 、二コール・ベハーリー 、クリストファー・メローニ、アンドレ・ホランド、ルーカス・ブラック、ハミッシュ・リンクレイター
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
公式サイト https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=3993/オールド・ルーキー(2003年日本公開)
DVD&Blu-rayリリース、デジタル配信中
監督:ジョン・リー・ハンコック
出演:デニス・クエイド、レイチェル・グリフィス、ブライアン・コックス
公式サイト https://www.disney.co.jp/studio/liveaction/0358.html
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/