1930年代のような世界秩序で日本の外交に求められる能力とは?

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月31日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。5月30日に行われた日露両政府の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)について解説した。

1930年代のような世界秩序で日本の外交に求められる能力とは?

日ロ外務・防衛閣僚協議を前に記念撮影する、左からロシアのショイグ国防相、ラブロフ外相、河野外相、岩屋防衛相=2019年5月30日、東京都港区の飯倉公館(代表撮影) 写真提供:共同通信社

日本とロシアが2プラス2を開催

日本とロシア両政府は5月30日午後、外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を都内の飯倉公館で開いた。日本が配備を進める陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を巡ってロシア側は安全保障上の懸念を表明。一方、日本側は自衛目的でありロシアに脅威を与えないと反論し、ロシアが進める北方領土の軍事拠点化に抗議している。二国間の安全保障分野の協議は平行線だったが、北朝鮮の非核化実現に向け連携する方針では一致した。

飯田)日本側は河野外務大臣と岩屋防衛大臣、ロシア側はラブロフ外相とショイグ国防相が出席したということです。ミサイル防衛システムで揉めたということですが。

宮家)当然でしょう。ただ、これは僕にも似たような経験があります。1998年に日米安保条約課長になったとき、日本はミサイル防衛の研究を始めるか否かで大騒ぎでしたが、結局は北朝鮮がミサイルを撃ったため研究を始めたのですよ。そうしたら、当時の中国大使館の人がやって来て「けしからん」と言う。僕は「何を言っているのだ、中国は日本の友好国ではなかったのか」と。「友好国だったら日本に対してミサイルなんか打たないでしょう。ミサイル防衛はミサイルを撃たれたときに撃ち落とすだけのものですよ。それとも、中国は日本に本当に撃つ気があるのですか」ということです。

飯田)たしかに。

宮家)だから中国は心配する必要は無いと言ったけれど、何度も文句を言われました。ロシアも同じで、そんなことを言うのだったら、「ロシアは日本に撃つ気があるのか」と。撃つ気があるのなら、こっちも撃ち落とすのは当たり前でしょう。ロシアに撃つ気が無ければ心配はいらない、無害だと言えばよいのですが、ロシアは更に「イージス・アショアは迎撃ミサイルだけではなく、攻撃ミサイルも撃てるではないか」と文句を言っているのですよ。だから危ないと。

1930年代のような世界秩序で日本の外交に求められる能力とは?

ロ、在日米軍で回答要求  モスクワで記者会見するロシアのプーチン大統領(タス=共同)=2018年12月20日 写真提供:共同通信社

一言一句記録をとるロシア

宮家)でもミサイルを発射する位置がわかるような、移動できないようなミサイル発射台は、軍事的にはそんなに効果はありません。そういう意味では、イージスアショアは撃たれたミサイルを撃ち落とすだけなのだから何を言っているのだと、堂々と言えばいいと思います。でも、昨日(30日)やった2プラス2は何と4回目ですよね。

飯田)もう4回目なのですね。

宮家)ロシアと4回もやるなんて、昔は思いもよらなかった。その意味では信頼醸成が進んでいると思います。ただ、昨日は4人とも険しい顔をしていましたね。ロシアと議論をやると結構不愉快なのですよね。

飯田)不愉快なのですか。

宮家)あまり楽しいことは無いですから。また同じことを言っている、ということだと思いますが、向こうだって仕事ですからね。愉快な対談ではないけれど、言うべきことは言う。それと、ロシアも中国も同じですけれど、お互いに相手の言ったことは一言一句記録をとるのですよ。外務省にロシア課がありますが、見事に一言一句ロシア側が言ったことを記録しています。今回もやっているのでしょう。

飯田)それで過去と付き合わせて矛盾点を探すと。

宮家)もちろんです。そこはロシア語の専門家の人たちが頑張ったのでしょうね。

1930年代のような世界秩序で日本の外交に求められる能力とは?

首脳会談を終え、共同記者発表で握手するロシアのプーチン大統領(右)と安倍晋三首相(ロシア・モスクワ)=2019年1月22日 写真提供:時事通信

2プラス2が外交のフォーマットになるか

飯田)一昔前の2プラス2は、外務大臣と防衛大臣が出て来る。だから友好国や同盟国以外では難しいと言っていましたが。

宮家)ええ。しかしロシアは同盟国ではないけれど、今や最大の敵という訳でもありませんから。ただ単に外相や防衛大臣同士だけではなくて、4人でやることによって相互理解が進み、象徴的な意味合いができる。信頼醸成が進むことにメリットがあると思うので。
昔は2プラス2と言えば、日米で始めましたよね。最初は大臣が揃わなくて大変だったのですよ。90年代初めだったか、アメリカも忙しいから、こちらが2プラス2をやろうと言うと、米側は必ず誰か1人がダメだと言うのですよね。代行で良いか、次官で良いか?などと言って来る。だからなかなか開催できなかった。でも時代は変わって、今ではアメリカと2プラス2をしょっちゅうやるようになったし、向こうから「やろう」とどんどん言って来るようにもなった。他の国、例えばイギリスなどともやっているのではないですか。この2プラス2は今後、外交安全保障政策のフォーマットになって行くと思いますよ。

1930年代のような世界秩序で日本の外交に求められる能力とは?
世界の秩序が1930年代のようになっている

飯田)宮家さんは常々、世界の秩序が1930年代のようになっていると指摘されていますよね。そのなかで2プラス2の枠組みは、外交だけでなくパワー、軍事も背景になっている。この外交が基本になるという流れは…。

宮家)普通の国は皆そうだったのです。しかし第二次大戦後の日本でハードパワーの部分が足りなかったのは事実だし、それに対し国内でいろいろな警戒感もあったのでしょう。けれど、もうそういう時代は終わった。普通の国と同じように、外交の部分、すなわち言葉の喧嘩、の専門家と、最後は実力の喧嘩ができる能力を持った人たち、すなわち軍事の専門家が、お互い真摯に話し合うのがいちばん良いことだと思いますよ。

飯田)ある意味で武力を扱っている軍人たちは、逆においそれと戦争には行かない。

宮家)その通りです。アメリカがいい例ですけれども、いちばん戦争をしたくないのは軍人ですよね。自分の部下が最初に死んでしまうのですから。そもそも、最近アメリカで戦争を始めるのは軍人ではなく、むしろシビリアン(民間人)ですから。軍人は必ずしも好戦的ではない、むしろ逆だと思って下さい。

飯田)軍人上がりのパウエル国務長官は、最後までイラク戦争を止めましたものね。

宮家)そうです。軍人の発想というものは必ずしも好戦的ではない。軍人については知られていない部分も多々ありますので、あまり誤解のないように。

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