【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第643回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、6月22日に公開された『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』を掘り起こします。
祖国防衛のために…ソ連軍と戦ったフィンランド兵士の壮絶な姿を描いた戦争アクション
2019年は、フィンランドと日本の外交関係樹立100周年記念の年。フィンランドと言えば、ムーミンの故郷、サンタクロースの村がある国、デザイン大国、2年連続で世界幸福度ランキング1位となった国…。メルヘンチックで平和な印象を思い浮かべる人が多いことでしょう。しかし実はフィンランドには、我々が持つイメージとまったく異なる壮絶な歴史があることをご存知でしょうか。
長い歴史を持つ大国スウェーデンとロシアに挟まれた、小国フィンランド。1917年に独立を宣言するも、常に隣国の脅威に晒されて来ました。
第二次世界大戦が勃発すると、ソ連はフィンランドに侵攻。1939年からソ連と戦ったフィンランドは、“冬戦争”を翌年に終結しましたが、その代償としてカレリア地方を含む広大な国土をソ連に占領されることとなりました。そこで国土回復を掲げ、1941年、フィンランドはドイツと手を組み、再びソ連との戦争を開始。
この3年2ヵ月におよぶ戦闘は“継続戦争”と呼ばれ、その壮絶な戦いを描いたフィンランド映画が、いま日本でも話題となっています。
『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』は、「フィンランドでは知らない者はいない」と言われているヴァイニョ・リンナによる傑作戦争文学を映画化したもの。ワンシーンに使用された爆薬の量がギネス世界記録に認定されるなど、極北の地での戦闘を限りなくリアルに再現しています。その迫力は、まるでドキュメンタリーフィルムを見ているような錯覚に陥るほど。
2017年にフィンランド国内で公開されると、『スター・ウォーズ』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』など名だたるハリウッド超大作をも大きく上回る観客を動員し、その年のフィンランド国内興行収入No.1を記録しました。
本作の特徴は、兵士たちの目線での描写に徹しているということ。家族と農業を営んでいた土地をソ連軍に奪われたため、領土を取り戻し、元の畑を耕したいと願っている熟練兵ロッカ。婚約者をヘルシンキに残して戦場へと赴くカリルオト。戦場でも純粋な心を失わないヒエタネン。中隊を最後まで指揮するコスケラ。
年齢や立場、それぞれ生きて来た背景もまったく違う4人の兵士たちが、非情な最前線でいかに勇敢に戦ったかが克明に描写されており、友情や絆、そして生きる意味が伝わる重厚感あるドラマが展開されています。
現代を生きる私たちが知るフィンランドの平和と豊かさは、こうした“名もなき兵士”たちによって築かれたものだということを、改めて窺い知ることができる作品です。
アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場
2019年6月22日から新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:アク・ロウヒミエス
撮影:ミカ・オラスマー
出演:エーロ・アホ、ヨハンネス・ホロパイネン、アク・ヒルヴィニエミ、ハンネス・スオミ ほか
©ELOKUVAOSAKEYHTIO SUOMI 2017
公式サイト http://unknown-soldier.ayapro.ne.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/