中国が南シナ海で弾道ミサイルの発射実験~東アジアで核兵器に関する軍備管理が始まる

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月5日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。南シナ海で中国が行った弾道ミサイルの発射実験について解説した。

中国が南シナ海で弾道ミサイルの発射実験~東アジアで核兵器に関する軍備管理が始まる

20カ国・地域(G20)首脳会議(大阪サミット)に出席するため来日した、中国の習近平国家主席(中央)=2019年6月27日午後、関西国際空港 写真提供:産経新聞社

中国が南シナ海で弾道ミサイルの発射実験

アメリカ国防総省当局者は4日、中国が南シナ海で弾道ミサイルの発射実験を実施、南シナ海の洋上に着弾したと明らかにした。この海域で中国のミサイル実験が確認されるのは初めてと見られる。アメリカ国防総省の当局者声明で、遠距離の標的を精密に核や通常攻撃できる中距離弾道ミサイルを中国は拡充していると指摘し、中国による軍事拠点化の動きに懸念を表明した。

飯田)これは日本でも大きく報じられました。

中国のミサイル発射実験の3つの問題~1つは中国が再び破った約束

宮家)南シナ海の南沙でしょう。中国の言う第一列島線のなかですから。これには問題が3つあります。第1は習近平さんがまた嘘をついたとアメリカが思っていることです。5~6年前に「サイバー戦争をやめます」と言ったけれど、それを破った。続いて「南シナ海は軍事化しません」と言ったのですが、この約束も破った。それが現在の米中関係悪化の引き金だったと思います。しかも、それでもやめる気がないのだから当然こうなりますよ。

2つ目~米空母が海域に入ることができない

宮家)2つ目は第一列島線のなかにアメリカの艦船を入れないということ。中距離弾道ミサイルによって精密に遠距離攻撃ができるということは、「空母を沈めますよ」と言っているのです。もちろん空母の周りはイージス艦が守っているのですが、では中国側が100発同時にミサイルを撃ったらどうなりますか? 飽和攻撃と言うのだけれど、これは効きますよ。だからアメリカにとって、これは大きな問題なのです。

3つ目~東アジアで中距離ミサイルの脅威が出て来た

宮家)3つ目は、中距離弾道ミサイルがこうやってどんどん増えて行く軍備管理に行きつきます。昔、米ソ間ではINF条約によって中距離弾道ミサイルは全廃したはずでした。しかし最近アメリカが同条約から撤退したでしょう。それはまさに、こういう脅威が出て来たからです。つまりこれから東アジアでは一昔前のヨーロッパのように、ついにミサイル、核兵器に関する軍備管理が始まるということです。いままでそういう状況は東アジアになかったけれども、今やあらゆる意味で、北朝鮮も含め、中距離弾道ミサイルの脅威が出て来た。その始まりです。発射実験をするということは、それが実際に実戦配備されるということだから。脅威がしっかりと出て来るということです。これではこちらも政策を変えなくてはいけないと思いますよ。

飯田)脅威がしっかりと出て来る段になると、アメリカは力で封じ込めるのではなくて、話し合いも含めて管理をして行く方向にならざるを得ない。

宮家)1つはそうですね。ただもう1つは、航行の自由です。南沙諸島を含めた南シナ海どこでも、ほとんど公海ですから。米海軍は今後も航行の自由作戦を続けるとは思うのですけれども、中国のミサイルはもう人工島にあるのだから、ミサイルの脅威がなくなるわけではありません。中長期的に大きな脅威がまた1つ増えたということだと思います。

中国が南シナ海で弾道ミサイルの発射実験~東アジアで核兵器に関する軍備管理が始まる

会談に臨む(左から)韓国の鄭景斗国防相、シャナハン米国防長官代行、岩屋防衛相=2019年6月2日、シンガポール(共同) 写真提供:共同通信社

核を均衡するためには

飯田)東南アジアも含めたアジアの安全保障の大きな会議として、シンガポールでシャングリラ会合というものがありましたが。

宮家)あれは公の会議ですから。軍備管理、ミサイルの数や弾頭数の交渉などは、昔は米ソでやったではないですか。ああいうことをまだ中国とは一切やっていないのですよ。もちろん中国にはもともと小さな核戦力しかなかったから、そんなことをやる必要がなかったのだけれど、いま中国はICBMの数も増やしているし、昔は何十発だったものが今は何百発になっているはずです。これが1000発を超えたら大変なことになるわけで、そうならないうちにきちんと核兵器の管理をしなくてはいけないという動きがこれから出て来ると思いますよ。

飯田)シャングリラのときも国防大臣が来ていて、そういう質問が出たけれど、時間切れもあって結局お茶を濁した。

宮家)要するに核攻撃能力を均衡しようと思ったら、少なくとも相手の核攻撃に対して核攻撃で報復する、いわゆる「第二次攻撃能力」が必要です。向こうからやられてもこちらがやり返せる、やり返されたら相手は嫌だからやはり攻撃はやめよう、というのが核の抑止の基本です。その能力を持つためには相当の数の核兵器が必要です。けれど今の中国はまだそれには足りないから、足りないうちに核軍縮をさせられたらたまらない。私がもし中国だったら核開発はやめませんよ。

飯田)そうするとある意味、日本という国は日米安保条約もあって、アメリカの核の傘で守られていると言われます。しかし、その傘が弱くなったり、あるいは一部が破られるようなこともあるかもしれない。

宮家)核の抑止とは常にそういうもので、紙に書いたからといって守ってくれるわけではない。同盟関係がきちんとしていなくてはだめなのです。ヨーロッパも同じで、欧州にはNATO条約があるのですが、日本にも日米安保条約がある。しかし最終的にどうやって守るかと言ったら、自分たちで守らなくてはならないのですよ。東アジアもついにヨーロッパと同じような状況になるのです。

飯田)ヨーロッパは1980年代、中距離核戦力の話があって。

宮家)SS-20とパーシング2という中距離弾道ミサイルの争いがあり、そのあとINF全廃条約に繋がった。その後、NATOの一部の国はアメリカの核兵器を導入して、「核の共有」をやってソ連の核兵器に対抗した。そのような時代が形を変えて、東アジアに出て来る可能性もないわけではない。

飯田)あの当時も、中距離の核ミサイルをヨーロッパ向けではなくて日本向け、アジア方面にもという話があって、そうなるとまさにいまの話と同じ。

宮家)そうです、それをやめさせたのです。あれは当時、日本にきちんとした戦略家がいたということですよ。

飯田)当時の中曽根政権には国家安保室など、いくつか総理直属の部屋がありました。その辺を立案してやるということが、戦略的にできていたのですか?

宮家)あまりこんな言い方はしたくないけれど、当時あの問題をきちんと考えていたのは、外務省の北米局だったと思います。

飯田)その危機感も含めてやっていた。

宮家)核抑止のことを80年代に本気で考えていたのはごく一握りの人たちでした。官邸にそういう組織はなかったし、発想もなかったと思いますね。

飯田)いまより官邸の力がもっと弱かったという話で。

宮家)ええ。要するに官邸には政治家しかいなかった時代、あとはごく少数の側近しかいなかったから。いまのようにNSCがあるわけでもないですし。でも逆に、昔のほうが関係省庁の役割が大きかったかもしれません。

飯田)いまはそこをNSCが担っている感じ。

宮家)でしょうね。もっともいまのような議論は一昔前と違って常識ですから、いろいろな省庁とも議論した上で、NSCで政策が集約されて行く形だと思います。昔のようなドタバタはないと思います。

中国が南シナ海で弾道ミサイルの発射実験~東アジアで核兵器に関する軍備管理が始まる

核のシェアリングという選択~国民にどう説明するか

飯田)やはり日本として、いまの日米安保の枠組みも含めたなかで守って行こうとすると、シェアリングが1つ有力な選択肢になるわけですよね。

宮家)核シェアリングはもちろん、軍事的には1つの選択肢だと思います。ただ、国内政治的にどうやって国民に説明するかとなったら、それは簡単ではないと思います。しかしそうした議論をすべきことは当然なので、国民の皆さんにも理解してもらう努力をしないと、そういう方向に動くのは難しいと思います。

飯田)戦後からこのかた、外交は票にならないということがまことしやかに言われて来ましたけれど、せっかくの選挙の機会、こういうことも本当は議論しなくてはと思います。

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