「新型カローラ」発表、日本の自動車市場が1つの節目に?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第151回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、全面改良が発表されたトヨタ自動車の新型「カローラ」について---
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9月17日、「MEGA WEB」で行われた発表会
トヨタ自動車が9月17日、ロングセラーカー「カローラ」を全面改良し、発表しました。
今回で12代目、おなじみになった東京・臨海副都心のショールーム「MEGA WEB」でのお披露目です。会場には新型だけではなく、初代から11代目までのカローラも勢ぞろいしました。
「あらためて原点に立ち戻り、お客様の期待を超える、日本中、世界中の多くのお客様を応援するクルマにしたい」
発表会でトヨタの吉田守孝副社長は、新型カローラの狙いをこのように示しました。
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豊田章男社長はビデオメッセージで登場
初代のカローラは「プラス100㏄の余裕」というフレーズで、ライバルの日産・サニーの1000ccに対し、1100㏄のエンジンを搭載。その他フロアシフトの採用などで、販売面で凌駕しました。
以降、1969年~2001年まで33年連続で日本のベストセラーカーの座をキープ。いまでこそプリウスやアクアなどのハイブリッド専用車の陰に隠れた存在ですが、世界150ヵ国以上で販売され、国内でも依然、安定した売れ行きを見せているクルマです。クラウンとともに、いわばトヨタの「背骨」とも言えます。
「ここ2代ぐらいは比較的、高齢のお客様が多かった。(新型は)日本の若いお客様にも乗っていただけると期待している」
今回、お披露目となったのはセダンタイプの「カローラ」と、ワゴンタイプの「カローラ・ツーリング」。確かに見た目は若返っており、デザインもシャープで随分頑張ったようです。室内もソフトな素材で、質感もいわゆる「大衆車」のそれではありません。安全装備やコネクテッド装備も最新のものです。
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1966年登場の初代カローラ 「プラス100㏄の余裕」がキャッチフレーズだった
数分程度の「チョイ乗り」ではありましたが、試乗も行いました。私が乗ったのはマニュアル車。マニュアル車とは言え、駐車ブレーキは電動式、おなじみの引いたときにギギッと音のする棒状のレバーではなく、シフトレバー手前の小さいスイッチを操作するものでした。
シフトはカチカチと入るのですが、私にとって少しストロークが短く、2速から間違えて5速に入れてしまいそうになりました。パワーステアリングも、スポーティ車種としては少し軽すぎる感じ。いろいろ慣れが必要かもしれません。
エンジンは直線で引っ張りましたが、ストレスなく回ってくれました。四輪独立懸架、四輪ディスクブレーキと、一昔前では高級車の憧れのメカニズムを全車に採用。いわゆる「TNGA」と呼ばれるプラットフォームです。プリウスを試乗したとき、クルマの挙動が「へその丹田」に集まって来るような感覚がありましたが、カローラにもそんな安心感はあります。
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豊田章男社長の「最初の愛車」だったという4代目「1600GT」
一方、今回感慨深かったのは、ついに全車種「5ナンバー」の枠を超え、「3ナンバー車」になったということです。
「(全車3ナンバー化に至った)悩みはまったくないわけではない。プリウスが3ナンバーのサイズになったときに少し心配したが、5ナンバーを使っていた方にも乗り換えていただいた。今回のカローラでも十分だと思っている」
プリウスの成功を受けて…吉田副社長はこのように3ナンバー化の理由を述べました。
3ナンバー=普通乗用車、5ナンバー=小型乗用車の枠組み…これは日本独自の規格です。その境目は全長4700mm、全幅1700mm、全高2000mm。1960年(昭和35年)に決められたこの規格は、外国車(特にアメリカ車)に日本の自動車市場が席巻されないよう、言わば「産業保護」の面から設けられた側面もありました。
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5代目のバリエーションの1つ いまも「名車」の誉れ高い「ハチロクレビン」
以前、自動車には「物品税」なる税金がかけられていました。物品税はそのものズバリ、「贅沢品」と認定された商品にかけられる税金です。マイカーが夢だった時代、当時は5ナンバーの18.5%対し、3ナンバーにはひときわ高い23%の税率でした。
例えば250万円の車であれば、物品税だけで10万円以上高かったのです。それに排気量で決まる自動車税、重量で決まる自動車重量税も加わります。当然のことながら排気量が大きく、重量の重い3ナンバー車は高価であり、物品税と相まって5ナンバー車とは格段の差がついていたのです。ゆえに、3ナンバー車は一種のステイタスでもありました。
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新型カローラセダン、今回「アクシオ」のサブネームは廃止された シャープで若々しいデザインに
1980年前半、当時の3ナンバー専用車はトヨタ・センチュリー、日産・プレジデントなど数えるほど。トヨタのクラウン、日産のセドリック・グロリアは5ナンバー枠いっぱいの寸法を基本とし、3ナンバー仕様についてはバンパーを長くしたり、サイドプロテクトモールを太くしたりして立派に見せていました。
これらの3ナンバー車は、ほとんどが法人向け…社長は3ナンバー、専務は5ナンバー…というように、企業の階層を形成するツールでもあったようです。
時は下って物品税は1989年(平成元年)、消費税導入によって廃止されます。まさに昭和から平成への時代の変わり目、そして「バブル」の時代でした。3ナンバーと5ナンバーの税法上の区別はなくなり、3ナンバー車が庶民の手に届く存在となって来ました。その流れに乗ったのが日産自動車の「初代シーマ」です。その好調な売れ行きは「シーマ現象」とも呼ばれました。
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新型カローラの室内 インパネにステッチが入り、高級感漂う
一方で、5ナンバー車の寸法は世界の基準からずれ、特に2000㏄クラスの「枠いっぱい」の国産乗用車は、サイズなどの面で国際競争の足かせになって行きました。産業保護のための規格が、後に国際舞台での成長を阻害する結果になるとは何とも皮肉です。これに衝突安全基準の厳格化も加わって、日本の5ナンバー車は軒並み幅広になり、その枠を超えて行きました。
しかし、クルマが大きくなっても、日本の国土が広くなったわけではありません。5ナンバー車はいまもって日本国内では使いやすいサイズだと思います。国内市場の売れ筋が軽自動車、コンパクトカー、5ナンバー枠いっぱいのミニバンであるのは、その証左であるように思いますが、いかがでしょうか。
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マニュアル車も設定 手前右にあるのが電動パーキングブレーキのスイッチ
初代登場から53年間、5ナンバーサイズを守って来たカローラ。今回、国内仕様は1745㎜で旧型より50㎜増(セダンとツーリング)。しかし、海外仕様に比べると35mm縮小しています。ホイールベースも短縮。さらにドアミラーの形状、ドアの開口角度などを工夫し、日本での取り回し、使いやすさに配慮したとしています。
同じ車種で国内外のサイズを、かくもつくり分けできるのがトヨタのすごいところですが、半世紀以上にわたって日本の自動車市場をけん引して来た「ビッグネーム」が5ナンバーの枠を超えたことは、私のような古い人間にとっては、日本の自動車市場が1つの節目を迎えた象徴と思えます。そして、その判断が日本のユーザーに受け入れられるのか、注目したいと思います。(了)
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ワゴンタイプの「ツーリング」、2018年に登場した「スポーツ」を合わせ、シリーズが完成した形だ