交通死亡事故ゼロに向けた様々なアプローチ

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「報道部畑中デスクの独り言」(第135回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、インターネット関連企業のDeNAが発表した、交通事故削減を支援するサービス「DRIVE CHART(ドライブチャート)」について解説する。

交通死亡事故ゼロに向けた様々なアプローチ

東京都内のホテルで開かれた発表会(6月4日撮影)

自動車業界で自動運転に向けた技術競争が激しいことはこれまでもお伝えしていますが、自動運転による究極の目標はやはり「交通死亡事故ゼロ」だと思います。事故ゼロに向けたアプローチは自動車メーカーだけではありません。インターネット関連企業のDeNA(ディー・エヌ・エー)が、交通事故削減を支援するサービスの提供を始めました。

「経済先進国と言われる日本だが、交通に目を向けるとその実態はまだまだ課題だらけ。得意分野であるAI=人工知能とインターネットの力を活用して日本の交通システムのアップデートを図って、事故ゼロ社会の実現に貢献して行きたい」

DeNAの中島宏常務は、6月4日に開かれた発表会でサービスの意義を強調しました。

交通死亡事故ゼロに向けた様々なアプローチ

車内用と車外用の2つのカメラがついた装置

会場に持ち込まれたデモ車両には、ドライブレコーダーのような装置が取り付けられ、車内と車外双方を映すカメラが搭載されていました。「DRIVE CHART(ドライブチャート)」と名付けられた今回のサービスは、それぞれで撮影した画像などをAIやインターネット技術を使って分析するものです。

「より潜在的なリスク要因を多数検出できる」(中島常務)

車内のカメラではドライバーの目の動きや顔の向きを認識して、わき見運転などを判断するほか、車外のカメラや加速度センサーを使って車間距離不足や速度超過などを検出し、危険な運転状況かどうかを判断します。これらの情報はクラウドに上げられ、危険運転につながるケースのみを選別して運行管理者に提供されます。そして、安全な運行管理に役立てられるというわけです。

交通死亡事故ゼロに向けた様々なアプローチ

モニターには実際に運転席に乗った女性の姿 線や点で人間の目や鼻を認識する

発表会では実演も行われました。モニターにはモデルの女性の目の部分が白い線でひし形状に象られ、マスクをした場合でも人間の顔と認識できることが示されました。モデルの女性がモニターに大写しになりましたが、画面に目、鼻、あごを認識する白や緑の線が加わると、何か見るのが申し訳ないような…そんな気分になりました。閑話休題。

DeNAではこれまでに人間の目を目と認識するために、あるいは車両を車両と認識するために、膨大なビッグデータを蓄積したと言います。蓄積した画像は約10万枚。サービスが始まるとさらにデータが増え、精度が増して行きます。去年(2018年)4月から半年間、実証実験を行った結果、事故率が過去5年の平均に比べ、タクシーで25%、トラック運送で48%下がったということです。DeNAによると、この削減効果は衝突回避自動ブレーキを装着した場合に匹敵するそうです。

交通死亡事故ゼロに向けた様々なアプローチ

フロントガラス上部とインパネ上に装置が備わる

「客観的に(運転手自身の)運転姿勢やクセ、危険個所を振り返ることができる」(京王自動車 石井正己常務)

「精度が高い。前方不注意、急加速など、客観的に誰が見てもわかるよう動画で振り返りが効率的になった」(日立物流 舘内直部長)

実験に参加したタクシー事業者と物流業者も、現場の評判は上々だったと言います。

交通死亡事故ゼロに向けた様々なアプローチ

発表会では実演も行われた 車外カメラで車両などを認識する(日付・時刻・車両の位置、速度の情報も)

サービスにかかる費用は、装置の購入費が1台当たり5万円、これに月に数千円程度の利用料が加わります。当面、商用車向けとしてタクシー業界や運送業界などに提供しますが、将来はレンタカーや自家用車にも展開して行きたいとしています。また、DeNAの中島専務は「将来、高齢者の免許返納のタイミングをレコメンド(推奨)することが実現するかもしれない」と話します。さらに、自動運転実現に不可欠な高精度地図にも貢献できると期待されています。

高齢者による交通事故、集団行動中の保育園児ら幼い命が失われる悲惨な事故が後を絶ちません。今回の取り組みは事故を直接防止するものではありませんが、自らの運転を“動かぬ証拠”として改めて見つめ直すことで安全運転につながるわけですから、「交通死亡事故ゼロ」に向けたアプローチと言っていいと思います。

交通死亡事故ゼロに向けた様々なアプローチ

スマホには危険運転の地点・状況が通知されるほか、目標設定などもできるという

一方、こうしたシステムをDeNAというIT関連企業が開発しているということは、次世代自動車の開発に向けた主導権争いが激しくなっていることの証左でもあると言えます。「ライバルも競争のルールも変わり、生死をかけた闘い」と常日頃から話すのはトヨタ自動車の豊田章男社長。デモ車両にはカメラを搭載した装置がフロントガラスに取り付けられていましたが、クルマは今後、様々な目的を持つカメラでいっぱいになりそうです。だんだん煩雑になって行く様子は主導権争いをめぐる“過渡期”と思わせます。

しかし、こうした取り組みの積み重ねが「事故ゼロ」への目標に一歩一歩近づいているのは間違いないと思います。であれば、こうした状況もある意味、健全な競争と言えるでしょう。(了)

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