「全方位外交」のトヨタ、「一点突破」の日産、そのDNAはいまも
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「報道部畑中デスクの独り言」(第132回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、トヨタ・日産両社の技術開発に対する特性について解説する。
かつて、国内自動車業界の両雄だったトヨタ自動車と日産自動車、特に1970年後半から80年代初めにかけて、両社はこんな対照的なスタンスを見せていました。それはFF(フロントエンジン・フロントドライブ=前輪駆動)車の商品戦略についてです。
いまでこそコンパクトカーの分野でFFは普通になりましたが、当時はまだ少数派でした。FFはエンジンや駆動系が車両の前部に集中するために、省スペースにつながり、広い室内が実現できます。一方、駆動輪が操舵輪を兼ねるため、操縦性に特有のクセがありました(近年は技術が進歩し、問題のないレベルまで改善されています)。
これに対し、FR(フロントエンジン・リアドライブ=後輪駆動)はエンジンと駆動系をつなぐプロペラシャフトが室内スペースを圧迫しますが、両者が前後に分散されるため、重量バランスがよく、操縦性はFFに勝るとされていました。
当時のFF車はホンダのシビックやアコード、SUBARU(当時、富士重工業)のレオーネなどが目立つ程度でした。こうしたなか、日産は70年代初頭という大手としては比較的早い時期に、チェリーという初のFF乗用車を世に問います。旧プリンス自動車の技術陣が手がけたと言われ、その後、パルサーと名を変え、しばらく日産唯一のFFという存在でした。
業界を驚かせたのは、1977年に石原俊氏が社長に就任した後。世界の潮流に合わせて、「ブルーバード以下の車種をすべてFFにする」とぶち上げたのです。実際に1981年にはバイオレット、オースター、スタンザの3つの姉妹車をFF化、「世界戦略車」と称して鳴り物入りで登場。同じ年、最量販車種のサニーも5代目のフルモデルチェンジでFFとなりました。
さらに、これらのメカニズムを活用したプレーリーを1982年に発売。これは日本でいまや1つのジャンルとして定着しているミニバンのはしりと言われています。そして、1983年には主力車種のブルーバードも7代目でFF化。日産のFF化計画はひとまずの完成をみます(乗用車仕様のみ)。
一方のトヨタはどうだったでしょうか。量販車としての初のFF車は1978年のコルサ、ターセルでした。詳しい解説は省きますが、横置きエンジンのFF車が主流だったなか、この車はエンジンを縦置きにしていました。ホイールベースを当時の水準では長い2500㎜とし、車内の広さをアピールしましたが、細長いスタイルは“ダックスフント”のような印象でした。その後のトヨタのFF化戦略はまさに「石橋を叩いて渡る」そのもの、慎重に慎重を重ねます。
主力車種のサニー、ブルーバードでさえ、あっさりFF化した日産に対し、トヨタは当時の主力車種のカローラ、コロナで、それぞれ1つの車種のなかにFRとFFを混在させる体制をとりました。ユーザーや生産体制などに配慮してFRも残し、徐々にFFに慣れてもらう戦略をとったと思われます。しかし、FF・FR両方のラインを維持するのは、技術的な課題とともに、相当の余裕がないとできないことだと思います。
結果どうなったか…日産のFF車は拙速のあまり、全体に熟成不足が指摘され、特に前述の3つの姉妹車は販売不振、バイオレットは発売からわずか1年で廃止されました。しかし、9年後、衣替えした初代プリメーラが起死回生、欧州でも評価される名車となります。
一方、トヨタは徐々にFF化に移行するなか、特にカローラはベストセラーの座を維持し続けました。FRとして残したクーペが「ハチロクレビン(型式がAE86型のため)」と呼ばれ、名車として後世に語り継がれるというおまけまでつきました。ちなみに、SUBARUと共同開発したスポーツカー「トヨタ・86」の車名はこのハチロクレビンからとったものです。
「全方位外交」のトヨタ、「一点突破」の日産…両社を見るとそんなスタンスが見えて来ます。現在に照らすと…CASEというキーワードに代表される自動車産業の変革のなか、両社は対応を急ピッチで進めています。
しかし、そのアプローチを見ると、ハイブリッドカーを中心に、燃料電池自動車、全固体電池の開発など幅広い環境対応を見せ、一方で高性能エンジンによるスポーツカーの復活、プラットフォームをめぐる異業種との連携にも余念がないトヨタ。かたや、「ニッサン・インテリジェント・モビリティ」と称する電動化(電気自動車と℮パワー)と自動運転技術に注力する日産…そのDNAはいまだ健在のようです。
今後、どちらのスタンスが実を結ぶのかはわかりませんが、同じ自動車会社でこれだけアプローチが違うのは大変に興味深く感じます。また、それが多くの自動車ファンを熱くさせた一面であったことも疑いないところです。(了)