渦中の日産が久々に放った新型車は?
公開: 更新:
「報道部畑中デスクの独り言」(第124回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、日産の新型車について解説する。
「“技術の日産”の原点に戻ってほしい」
「輝いていた時代がよみがえってほしい」
「普通の庶民が乗れるワクワクするようなクルマを」
「日産の役員・社員に言いたい。“自分が買いたいクルマがいま日産にあるのか”」
今月8日、臨時株主総会に出席した株主から聞いた言葉です。
カルロス・ゴーン前会長の逮捕以降、日産自動車をめぐる一連の混迷はいまもって進行中ですが、一方で自動車会社はクルマをつくってナンボの世界。プロダクトとしての日産についてもお伝えしたいと思います。
先月、日産と三菱自動車が共同開発する新型軽自動車が発表されました。ゴーン前会長逮捕後では初めて、特に日産にとって全面改良を伴う新型車は約1年半ぶりになります。3月28日、日産は横浜の本社で「デイズ」を、三菱自動車は東京都内のホテルで「ekワゴン」「ekX(クロス)」をそれぞれ発表しました。
「技術の日産が魂を込めた。日産が軽自動車をすごくした。軽自動車は日本にしか存在しないカテゴリー、単に小さいから、小回りがいいからというだけの存在ではなくなった」
デイズの発表会で日産の星野朝子専務は胸を張りました。
展示車両に乗り込みましたが、第一印象は一クラス上といいますか…軽自動車では初とみられる9インチの大画面モニター、革巻きのステアリング、エアコンのタッチパネルの質感など、登録車(軽自動車以外)と何ら変わらない(ややもするとそれ以上)雰囲気です。ステアリングには「プロパイロット」と呼ばれる自動運転技術に関するスイッチが配置されていて、軽自動車でありながらハイテク感も十分。今回は日産側が開発を主導し、三菱自動車側は生産を担当(岡山県の水島製作所で生産)。日産の担当者は「日産が軽をつくるから、登録車がベースになった」と話していました。確かにスタイルを見ても軽自動車の雰囲気は皆無。担当者はさらに「ミニ・セレナに見えませんか?」と話します。なるほど、そうして見ると一クラス上と感じるのも合点がいきます。後席の足元も相当広く、「4人乗りの“セレナ”」と言っていいかもしれません。
軽自動車の開発は本当に難しいと思います。厳しいコストの制約の中で、「安かろう悪かろう」にならないよう、品質をどう確保していくのか、独特のノウハウが求められます。一方で、登録車に近づけばいいかというとそうではなく、コストもかさみます。また、背伸びをし過ぎると逆に「貧乏臭く感じる」と言われます。いわゆる街乗り用途に徹した「潔い簡便さ」が軽自動車の魅力でもあるのですが、新型車はそれとは一線を画してきた感があります。
これまでのデイズ、ekワゴンは正直、上位のスズキ・ダイハツ・ホンダの上位三社のシェアの「おこぼれ」で何とか生きているという印象でした。以前、旧型デイズを運転したことがありますが、エンジンパワーが厳しく、その乗り味はライバルに比べていま一つだったことを思い出します。かつての燃費不正問題もライバルを気にするあまり、「背伸びし過ぎた」のだと思います。
新型車のエンジンは何とルノーのエンジンを基本に、サイズダウンしたもの。担当者は「敢えて燃費は追わなかった」と話します(カタログ上の燃費はJC08モードでリッター22.8~29.8km)。また、星野専務は「プレミアムな軽ではない」としていますが、自動運転技術などを詰め込んだ上質な雰囲気。肩身の狭かった軽市場でようやく「居場所」を見つけたのかもしれません。あまり論理的な言い方ではないのですが、クルマというものは人間と同じでオーラというものがあると私は思います。スペックやデータとは別に、「何か欲しい気にさせる」オーラを感じさせるクルマ…それはエンジニアなど作り手の情熱からにじみ出るものだと思いますが、今回の新型車はその資質は十分とみました。
日産の開発、三菱自動車の生産、ルノーのエンジン技術…いま流行りの言い方で言えば広い意味での「水平分業」とも言えます。三菱自動車の益子修会長は「アライアンスのモデルケース」と力を込めました。軽自動車は日本独自の規格ですので、当然「国内専用車」。日産の国内軽視のイメージを払しょくできるかどうかも注目されます。
一連の問題を受けて星野専務は「社内が一丸となって一つ一つきれいにしている。コンプライアンスにすごく厳しいビシっとした会社に変わりつつある」と話します。これまでほぼ20年の周期で経営の混乱を起こしてきた日産。しかし、収束後に数多の名車、ヒット車を生み出してきたのもまた歴史が証明しています。昭和20年代後半の「日産争議」の数年後にベストセラーとなったブルーバード。昭和50年代中盤、石原俊社長(当時)就任後、ターボ仕様に代表される怒涛の新車攻勢。労使の対立に終止符が打たれた昭和末期から平成初期にかけては、バブル景気の後押しもあり、初代プリメーラ、R32型スカイラインGT-R、社会現象にもなった初代シーマなどを投入。そして、ゴーン体制前期のフェアレディZ、GT-Rの復活…経営の混乱はまだ収束したとは言えませんが、ユーザーの視点から見ると、今後の日産車には期待できるかもしれません。新型車はその口火を切ることになるのでしょうか。ただ裏を返せば、好不調の波を繰り返しているとも言えるわけで、その勢いをいかに持続させるかが日産の“永遠の課題”なのだと思います。(了)