「三社連合」共同会見 どこか釈然としない“脱ゴーン体制“
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「報道部畑中デスクの独り言」(第118回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、3月12日に行われた日産・ルノー・三菱自動車の共同会見について解説する。
「きょうは特別な日、アライアンス(提携)の新たなスタートです」
保釈された日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告の動きが注目されるなか、日産は3月12日、横浜市の本社で取締役会を開きました。そして午後4時半過ぎには日産の西川広人社長、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレCEO、そして三菱自動車の益子修会長が記者会見しました。
会見という形で三社のトップが一堂に会するのは初めて。海外メディアも含めて注目度は非常に高く、ざっと200人ほどの報道陣が詰めかけました。会見音声の分配は日産で用意された設備では足りず、報道各社で補器類を融通し、予定よりやや遅れてのスタートとなりました。
会見では2枚のプレスリリース(報道向け資料)が配られ、冒頭お伝えしたルノーのスナール会長の報告で始まりました。その内容は新たな意思決定機関「アライアンスオペレーティングボード」が設立されるというもの。統括会社「ルノー日産BV」「日産三菱BV」に代わる運営組織となります。
統括会社は本来、提携効果を最大限に発揮するという目的で設立されましたが、結果、ゴーン被告に権限が集中して合意形成のプロセスが形骸化しただけでなく、統括会社そのものが「不正の温床」とされて来ました。新たな機関により、上記4人のトップをメンバーとする「合議制」で意思決定する体制に移行するということです。
「組織を簡略化する。お互いが責任を持つ」(スナール会長)
「WINWINWIN(ウィンウィンウィン)の関係。イコールパートナーシップのボードである」(西川社長)
両者は権限が集中しない体制になることを強調します。また、日産にとって懸念材料である会長ポストについて、スナール会長は「日産の会長になろうとは思っていない。取締役会の副議長の候補には適している」と発言。日産の自主性を尊重する姿勢に西川社長は「ありがたいこと」と話しました。西川社長は今回の新体制を「大きなステップ」と評価、その表情はこれまでと変わって明るく、記者から「こんなニコニコした顔は久しぶり」と言われ、白い歯を見せる一幕もありました。
いよいよ動き出した“脱ゴーン体制”。いいことづくめのようですが、合議制ということはリーダーの不在や、意思決定の停滞という弊害につながる可能性も否定できません。ゴーン被告の弁護人である弘中惇一郎弁護士によると、ゴーン被告は「リーダーシップを発揮できる人がおらず、今後の日産が心配だ」という趣旨の発言を弁護団会議でしたということです。ゴーン被告の発言がどこまで説得力があるかはともかく、一般論としてこうした懸念は多くの人が共有することではないかと思います。
スナール会長は「アライアンスボードが将来的に問題をもつとは思っていない。完璧に機能すると考えている」と胸を張りますが、各社で意見が割れたときはどうなるのか…特に日産は「会社のDNA」と言っても過言ではないほど、リーダー不在、あるいは乱立による“権力闘争”を重ねて来ました。その歴史を断ち切ることができるのか…会見ではこうした疑念は晴れませんでした。
さらに質問が集中したのは、資本関係の見直しや経営統合の可能性についてでした。スナール会長は「これはきょうのポイントではない。本件は株式の持ち合いや資本構成には全く関係ない。まずは早く効率性を上げ、オペレーションを推進すること。将来はどれだけこのアライアンスが進められるかにかかっている」と述べました。
しかし、関係ないというのはあくまでも「本件」=意思決定機関に関することであり、将来の可能性についての言及ではありません。他方、不正の温床とされた統括会社は「予備」として残すとしています。「アライアンスは統括会社の影響は受けない」…西川社長は強調しますが、ルノー側がいまは矛を収めているものの、将来への統合の道を残しているようにも感じられます。さらにRAMAと呼ばれるアライアンスの基本合意書の修正について、スナール会長は「考えていない」と明言しました。
約1時間にわたる会見でしたが、トップ4人が晴れやかな表情だった一方、われわれ報道陣にとっては何か釈然としないものが残ったというのが正直なところです。もっともこのような“つかず離れず”のモヤモヤした関係が、実はアライアンスの“アライアンスたる”所以かもしれません。
会見では「今後どのようにして三社で魅力ある車をつくって行くか」という質問もありました。西川社長の回答は「アライアンスによって、ビジネスのプラットフォームを共通化できる。それを使って得意分野で成長して行く。うまくやれば非常に大きな強みになる」というものでした。「合理化」の理念は伝わって来るものの、クルマに対する愛情や、クルマを通して社会をどのように豊かにして行くのか…そんな“熱”のようなものが希薄に感じられるのは残念なところです。
「もっといいクルマをつくろうよ」「数ある工業製品でクルマは“愛”がつく」と発言したのはトヨタ自動車の豊田章男社長ですが、「クルマは愛だ」というコピーは日産が“先輩格”のはず(歴代スカイラインのキャッチコピー)。こちらのDNAは健在と信じたいのですが…。
会見の翌日は奇しくも春闘の集中回答日、日産は組合側が要求した3,000円のベア=ベースアップに対し、昨年に続く「満額回答」でした。さらに一部の役員人事も発表、この週は三社連合にとって一段とあわただしい一週間となりました。
役員人事にはゴーン被告に近いとされた人事統括のアルン・バジャージュ専務の退任も含まれています。今回の人事で「ゴーン色一掃」となるかは不明ですが、一連の動きは貴重な人材を大切にし、魅力あるクルマ作りに資するものであってほしいと切に願います。(了)