ゴーン容疑者逮捕から1カ月 連日にぎわす日産の動き

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「報道部畑中デスクの独り言」(第104回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、連日行われる日産の会見のようすや、経営体制などについて解説する。

ゴーン容疑者逮捕から1カ月 連日にぎわす日産の動き

横浜の日産本社 周辺はクリスマスのイルミネーションも(12月17日撮影)

日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者の逮捕から1カ月、日産に関するニュースは連日、放送や紙面をにぎわせています。今月も日産ではこれまでに2回の記者会見がありました。

つい最近行われたのは17日、取締役会後の西川広人社長の記者会見。「ブリーフィング」と銘打ったそれは、取締役会についての説明という位置づけで約30分にわたって行われました。当初は新しい会長候補が社外取締役によって選定される予定でしたが、「継続協議」とされ、新たに「ガバナンス改善のための特別委員会」(以下 ガバナンス委員会)なる組織が新設されました。

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西川広人社長 取締役会後「ブリーフィング」という形で取材対応した

メンバーは件の社外取締役3人に、元裁判官で慶応義塾大学客員教授の西岡清一郎氏、経団連名誉会長で東レ特別顧問の榊原定征氏、J.フロントリテイリングの佐藤りえ子氏、公認会計士の内藤文雄氏の4人を加えた7名。ガバナンス(企業統治)に関する提言を行います。

「(ガバナンス委員会の議論は)急ぐが、キチンと議論していく。来年3月末をめどに提言を。(会長選びも)プロセスは慎重に。急かすつもりはない。ガバナンス委員会の議論を踏まえて。3月末までに決まらなくてもいい」

西川社長はこのように述べました。新会長の選出については、社外取締役3人のなかにルノー出身の1人が含まれているだけに、なかなか決まらないだろうということは想像できましたが、結局、ガバナンス委員会という“クッション”を置いて新会長の選出は4月以降に先送りされた形です。

また、「ルノー側が臨時株主総会を早期に開くよう求めた」という報道については、西川社長は明言を避けた上で、「ガバナンス委員会の提言を受けた改善案を提示するタイミングで総会を開くのがベスト」と述べました。

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ギャラリーでは歴代GT-Rが 1973年のC110型 通称「ケンメリ」 販売台数わずか197台(12月7日撮影)

関係者によると、日産では現状、株主総会を臨時に開くことは予定として挙がっていないとのこと。「(提言を受けて)4月以降になれば、通常の時期と変わらない」とも話します。ルノーの求めを事実上拒否するもので、そう考えると、今回のガバナンス委員会の立ち上げさえも、三社連合、とりわけ日産とルノーの主導権争いの一環に見えて来ます。

「パートナー、ルノーのご意見は十分に聞きながら進めたい。ただし、最終的に日産のガバナンスの責任を持つのはわれわれ。われわれが納得のいく形で決めるべきであろう」
「ガバナンスの見直しは日産の将来にとって重大な問題。将来を確実に良いものにしていくためには非常にいいチャンスだと思っている」

相変わらずのポーカーフェイスの西川社長でしたが、そこには日産の自主性確保に対する強いこだわりを感じます。

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1999年発売のR34型GT-R(12月17日撮影)

一方、日産は13日に11車種、およそ15万台のリコール実施を国土交通省に届け出ました。一連の検査不正に伴うリコールの対象は130万台近く、日産の年間国内販売台数の約2倍です。このリコールは前週明らかになった検査不正の疑惑によるもので、これに先立つ7日に記者会見が開かれました。

このとき、西川社長はおろか、前回9月の検査不正発覚で会見した山内康裕CCOの姿もありませんでした。会見に臨んだのは国内の生産事業を統括する本田聖二常務ら2人。「私が日本生産事業全般の責任を負っている」というのがその理由でした。

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検査不正で2人の常務が謝罪(12月7日撮影)

明らかになった不正は6項目の検査。駐車ブレーキの検査でブレーキペダルを使用したり、スピードメーターの検査で決められていた時間、速度を維持していなかったことなどが社内の調査で発覚しました。会見をした本田氏は不正の舞台の1つとなった、追浜工場の工場長を歴任した人物。その後、関連会社の変速機メーカー「ジヤトコ」の副社長を務めていましたが、昨年の一連の不正を受け、日産本体に復帰。生産現場の立て直しを任されました。

今回の不正は、昨年からの不正を受けた洗い直しの過程で明らかになったものとされ、そういう意味ではこれまでの“延長線上”と言えます。しかし、9月には山内CCOは「うみを出し切った」と明言していて、私もその言葉が頭に残っていました。改めて「うみは出し切ったのか?」と尋ねました。

「うみを出し切ったかという質問は最もつらいところ。私はうみは出し切ったと思っている」…本田氏は苦渋の表情で語りました。かつて工場長を務めた追浜工場については、「マザー工場の役割を持ち、少し背伸びをして、コストに偏ったところがあったかもしれない」と述べました。

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現行のGT-Rはスカイラインから独立 写真は誕生50年を記念した「イタルデザイン」(12月7日撮影)

また、検査機器については40年前の古いものが使われていて、使い勝手が悪かったと言います。
「海外展開に目が向いていた。日本が最も設備的にも古くなっている。日本の生産事業を大切にするということで日本生産事業本部を設立した。もっと日本に投資しなければいけない」…そこにはゴーン体制以降、顕著だった「コスト偏重」の弊害がにじんでいました。そして、たまった「うみ」を取り除くために現場が必死にもがいている姿が見えます。

リコールの会見に社長が姿を見せなかったことについて、「当事者意識がない」というような厳しい論調も多かったのですが、私は工場長の経験した立場の発言を聞いたことで、日産の内部で何が起きているのかがより鮮明になったような気もしています。皮肉かもしれませんが、それならばいっそ、今後は工場長やエンジニアたちもお出ましになって、本音を建設的に話してもらうのがより日産らしいのではないかと思ってしまいます。

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取締役会ブリーフィング、検査不正会見ともに本社8階で行われた

2つの会見はいずれも横浜の日産本社8階、同じ場所で行われたのですが、雰囲気はかなり違うものでした。会見者のキャラクターの違いもありますが、経営と現場との乖離を象徴しているようにも感じました。

ゴーン容疑者への捜査、三社連合の新たなアライアンス(提携関係)の構築、いずれもまだまだ時間がかかりそうですが、忘れてはいけないのは、こうしたなかでもライバル他社は「100年に1度の大変革」に向けて、着実に歩を進めているということです。そして自動車会社は自動車という商品を売るのが最大の仕事。経営陣が権力闘争にかまけ、現場がモノづくりの精神を忘れて、変革への対応やCMコピーのような「ワクワク」するクルマづくりが蚊帳の外に置かれてしまえば、それはいつか来た道、再びの凋落が待っていることでしょう。(了)

ゴーン容疑者逮捕から1カ月 連日にぎわす日産の動き

新たな体制にはしばらく時間がかかりそうだ

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