株主は「支援者」か?「支配者」か?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第110回)ではニッポン放送報道部畑中デスクが、世間を賑わせている日産自動車やフランス・ルノーの後任会長について解説する。

フランスの自動車大手ルノーの新会長に指名されたジャンドミニク・スナール氏(左)と新最高経営責任者(CEO)に指名されたティエリー・ボロレ氏(フランス・パリ近郊)=2019年1月24日 写真提供:時事通信

今週も日産自動車とフランス・ルノーの間で大きな動きがありました。ルノーが取締役会を開き、これまで会長兼CEO(最高経営責任者)に職をとどめていたカルロス・ゴーン被告の辞任を了承したのです。ゴーン被告に対するフランス国内の批判の高まりや、日本での勾留が長期化することから後任選びを急いだもので、事実上の解任となります。

ルノーの後任の会長には、タイヤ大手ミシュランのジャンドミニク・スナールCEOを選出。次期CEOは会長とは分け、ルノーのナンバー2、ティエリー・ボロレCOO(最高執行責任者)が昇格します。

横浜市の日産本社

これを受け、日産も西川廣人社長が記者会見。今回のルノーの新体制について「大きな一歩」と歓迎の意向を示した上で、4月中旬に臨時株主総会を開催する検討に入りました。ただ、総会の議題はゴーン被告らの取締役解任とルノーからの新たな取締役を選任することに限定しており、焦点である日産の新たな会長、あるいは新体制が決まるのはガバナンス委員会の結論の後、早くとも6月の定例株主総会になりそうです。

ステージは大きく変わりましたが、両社の“神経戦”はまだまだ続きそうです。
日産とルノーの問題に限りませんが、このような企業の主導権に関するニュースに接すると、頭をよぎるのが株主は「支援者」なのか?「支配者」なのか? という思いです。

2019年最初の取引、大発会(東京証券取引所 1月4日撮影)

そもそも株自体はどうして生まれたのか。社会科の授業の知識レベルですが、紐解きますと400年以上前にさかのぼります。東南アジアはエスニック料理という香辛料=スパイスを使った辛い料理が多いことで有名ですが、17世紀初頭、ヨーロッパではこの香辛料を販売してビジネスにする動きがありました。ヨーロッパで必ずしも辛い料理が人気だったわけではありませんが、各国が陸続きで当時は冷蔵庫もなかった時代、海から遠くなればなるほど、肉や魚が腐りやすく、保存料としての香辛料が必要だったのです。

その香辛料を東南アジアから運ぶためには船が必要になりますが、おいそれと買える代物ではありません。そこで人々がお金を出し合って船を買うことを考えました。金を出し合う人たち=出資者の集まりは「東インド会社」と名づけられました。なかでもオランダがつくった東インド会社が、世界で初めての株式会社と言われています。

大発会、晴れ着姿の女性が集まり華やかな雰囲気だったが…

よく「会社は誰のもの?」という議論がありますが、こういう理屈でいえば会社は「出資者=株主のもの」です。そして「株主」はお金を出したことを証明する「株券」を保有します。そして株主は香辛料貿易で得た利益の一部還元を受ける…これが「配当」で、いわゆる「インカム・ゲイン」に分類されます。このときの株主の思いは「支援者」と言っていいでしょう。

一方で会社が儲かると、ほかにも株券が欲しいという人が現れます。それで株券の値段=「株価」も上がって行きます。いつしか値上がりしたところで株を売り、その差額で儲けようという動きが出て来ます。いわゆる「キャピタル・ゲイン」ですが、これは時に投機ブームを生み、株価急騰と暴落の混乱をもたらします。最も有名なのが18世紀に起きた「南海泡沫事件」と言われています。

現代も株式市場で株価の変化に一喜一憂するという面では、こうした懸念と背中合わせの世の中と言えましょう。さらに株を多く持つことによって、経営への介入を目論む人も出て来ます。こういうときの株主の感覚はまさに「支配者」、株の持つ力は時に悲劇(見方によっては喜劇)を生み出します。

取引開始直後、いきなりの日経平均株価2万円割れで場内はざわついた

日産とルノーが待つものは悲劇なのか喜劇なのか…日産の株式を約43%握るルノー、そのルノーの株式を15%保有するフランス政府、マクロン大統領はかねてから「両者の関係がほどけたり弱まったりすることは受け入れられない」と話します。また、ここに来てルメール経済・財務相がメディアに登場する機会が増えて来たのも気になります。

新体制発足後、「資本構成の問題は議論の俎上(そじょう)に載せたくない」と明言しましたが、これまでのフランス政府の言動を見ると、「経営統合」の影がちらつきます。ルノーのCEOになるスナール氏はゴーン被告とは対照的な「対話重視」の評判がある一方で、マクロン大統領と近いとも言われます。

これに対し、日産の西川社長は「ルノーを大株主として尊重するのは当然」としながら、「出資したから何か仕事が進むわけではない。お互いの立場を対等に認めながらシナジー(相乗効果)を出すことで価値を生んでいる」と現場の重要性を訴えます。ルノーとの経営統合については「いま議論する時期ではない」と予防線を張りますが、まずは取締役に迎え入れてスナール氏=ルノーの“腹の内”を見極めるということかもしれません。

日産のエンブレムの由来は「至誠天日を貫く」=「誠実を尽くせばその思いは天に通じる」…さて日産・ルノーの思いは?

一方で、会見では「できるだけ早く果たすべき責任を果たし、会社を軌道に乗せてバトンタッチをしたい」…区切りがついた時点での辞任を示唆する発言もありました。

日産が破たんの危機に瀕した1999年、6,430億円の出資をルノーから受けました。そのころ、居酒屋で日産について世間話をしていた常連客の言葉が記憶に残っています。

「日産を応援するなら、日産の車ではなく株を買う」

株主資本主義のなか、甘い考えなのかもしれませんが、やはり株主の原点は「支援者」という姿勢だと思います。あれから20年、ルノー、フランス政府は「支援者」なのか?「支配者」なのか…それが明確になるにはまだ時間がかかりそうです。(了)

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