タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

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「報道部畑中デスクの独り言」(第112回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、トヨタ自動車から改良版が発表された「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」について解説する。

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

トヨタが2017年秋に発売したタクシー専用車「JPN TAXI」(東京・江東区 MEGA WEB)

トヨタ自動車から今週、タクシー専用車の“改良版”が発表されました。「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」と名付けられたこの車両、一昨年2017年の秋に行われたセレモニー「出発式」は、トヨタ関係者に加えてタクシー業界、石井啓一国土交通大臣も参加するほどの力の入ったものでした。これまでに全国で1万台あまりの車両が販売され、街の景色にもなじみ始めたように思います。

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

2017年の”出発式”では大臣も出席(ステージ中央は豊田章男社長)

「車いすの乗降改善対応」…今回の改良点です。「JPN TAXI」については以前放送でも取り上げましたが、特徴は「掃除しやすいシート表皮」「天井にもエアコン送風口」など、タクシーならではの工夫が随所にみられました。そして「車いすも丸ごと入れることができる」という点は障害者から朗報とされてきました。

しかし、実際には乗降のためのスロープの設置方法などが複雑で、運転手にとって使いにくいだけでなく、その設置の面倒さから障害者が乗車拒否にあうケースが相次ぎ、署名活動に発展したと言います。「乗ろうと思えばできるが…」というレベルだったようです。発売から1年あまり…こうした声を受けて、作業を簡略化する改良が施されたというわけです。

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

今月行われた”改良版”の説明会(2019年2月4日 東京・文京区 トヨタ東京本社)写真右はチーフエンジニアの粥川宏氏

発表当日は改良前と改良後の車両の実演も行われました。実演者は現役のタクシー運転手。さすがプロで、手慣れた感じでしたが、それでも収納袋に入ったスロープを取り出し、折り畳みの状態を広げ、細かいピンでつなぎ…という作業は、はたから見ても煩雑…なるほどこれは大変だと感じます。現行版は乗客にシートベルトも装着して、作業を完了するまでに6~10分かかったといいます。

一方、改良版では収納袋をなくし、折り畳みを「3つ折り」から「2つ折り」にするなど、よりシンプルに、また、やり方を忘れても大丈夫なように手順を記したラベルが張り付けられていました。これにより作業は3分程度に短縮できるということです。見ていても、なるほど作業時間はグッと短くなっていました。

この改良版の発売は3月から。また現行車両については改良版には及びませんが、2月から、改善した部品の交換を無償で行うということです。

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

乗降作業の実演も行われた

「今回の改良で63工程から24工程にした」(チーフエンジニア 粥川宏氏)

いかにもトヨタらしい表現です。取材で感じたのは、まさに「カイゼン」の精神…トヨタは生産現場だけでなく、様々な分野で作業工程を1つ1つ分解して「秒単位」で分析し、時間の短縮=効率化のために様々な策を講じる…今回の改良版はまさに“乗降工程”の短縮であり、真骨頂である「カイゼン」がユーザーにも「見える化」された形です。

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

改良前の車両のスロープ 3つ折り2枚の板をピンでとめる

一方、今回の説明会では記者から「従前から言っていたことが起きた。なぜデビュー前からつぶさなかったのか」という厳しい声も出ました。粥川氏は「従来の考え方がまだ残っていた。真摯に反省している」と語ります。

思えば、かつてのトヨタは「石橋を叩いて渡る」と言われ、それが長所でもあり、短所でもありました。つまり、先行を徹底研究してネガ(欠点)をつぶし、商品性を高める。確信が持てるまでは冒険はしないが、1度決めたら決してあきらめない…いまでも一部車種にそうした流れがあり、市場をリードしているケースもあります(先行他社にとっては恨めしい限りですが、それがトヨタの底力でもあります)。それだけに、今回の事態はいわば“熟成不足”であり、「らしくない」状況と言えるかもしれません。

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

乗客にシートベルトを装着 作業完了には6~10分かかっていた

「(仕事は)もう、走りながら…ですね」…トヨタの関係者から最近聞く言葉です。豊田章男社長も昨年の経済界新年パーティで「スピード」をキーワードに掲げていました。1997年デビューの初代プリウスのころから、トヨタには先駆者としての役割も増えて来ました。ましてや「100年に一度の変革期」、生き残りを目指し、大きく変わろうとしているなか、今回の事態はその証左であり、過渡期の出来事と言えるかもしれません。

しかし、そのスピードのあまり、ユーザー不在の“しわ寄せ”が来るのでは本末転倒。「体質カイゼン」に努めながら、「良き伝統」は守るべし…今後の課題であり、その厳しさは当のトヨタが最も感じているのではないでしょうか。

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

改良後の車両は折り畳みも2つ折りに簡略化される

そして、カイゼンに終わりはありません。「スロープ設置などは手作業だが、電動にはならないのか」…こんな質問をぶつけましたが、そこはコストとのバランス、「お金が許せば自動化したい。まだまだやることはある」と話します。

発売時の出発式では、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には東京都内で約3万台走るタクシーの3分の1を「JPN TAXI」にすることを目指すとしていました。新たなタクシーの形により、「今まで乗れなかった人が乗れるようになった」(粥川氏)のは事実。今後、さらなる進化を求めて…注目するのはタクシー業界や障害者の方々だけではないと思います。(了)

タクシー専用車“改良版”にみたトヨタの真骨頂と課題

乗客が乗ったところ 改良版は作業時間は3分程度に短縮された

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