日産、ゴーン体制後も道険し そして…質問者としての反省
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「報道部畑中デスクの独り言」(第130回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、5月14日に行われた日産自動車の決算会見について解説する。
自動車メーカーの決算、今週は前会長・カルロス・ゴーン被告の逮捕以降、渦中にある日産自動車の発表がありました。先週のトヨタ自動車とは違い、大変に厳しい結果でした。
「昨年の事件で、事業面で集中できなかった期間がある。現場、従業員、お客様、取引先に不安を与えて大変申し訳ないと思っている」
決算会見の席上、西川広人社長が改めておわびしました。2019年3月期決算は売上高が11兆5742億円で、前年に比べて3.2%減、本業のもうけを示す営業利益は3182億円で44.6%減、純利益に至っては3191億円で57.3%減と、半分以下となりました。北米と欧州市場の不振が響いたということです。
「クルマの“年齢”が平均的に上がってしまった。新興国向けの拡大投資のために、2013年~14年ごろ、新車の投資を抑制し、投入をずらした。その反動が出ている」
西川社長はこのように分析しました。北米市場はインセンティブと呼ばれる販売奨励金の増加が、収益を圧迫しているのは確かです。日産はゴーン体制以前も何度か経験していますが、インセンティブは「禁断の実」のようなもので、1度始めてしまうと、消耗戦へと進んでしまいます。しかし、そうなる原因を突き詰めて行けば、結局は商品力の低下に行き着きます。
国内市場で改良を怠り、“放置同然”の車種の多さについては以前、小欄でも指摘しましたが、北米市場でも同様のことが起きているようです。選択と集中は確かに大切ですが、クルマづくりの本分を忘れたつけが回って来たと言えます。ある意味、不振の原因は明白です。
今後の対策として、2022年までに全世界で20以上の新型車の投入が明らかにされました。EV=電気自動車にシリーズハイブリッドの「℮パワー」を含めた“電動化”は2022年度には日欧で半分以上(全世界で3割程度)、運転支援技術の「プロパイロット」は2022年度に年間100万台まで拡大する計画です。大いに期待したいところですが、一方でリストラ策として4800人の人員削減も示されました。
「生産体制の“外科手術”は足早に。成長は慌てず着実に。いまが底ということで、今後2年、長くても3年で元の日産に戻す」(西川社長)
「元の日産」とは、どの時期の日産を指すのでしょうか。ゴーン体制の際の「日産リバイバルプラン」では、村山工場の閉鎖など、多くの痛みが伴いました。一方、それ以前も座間工場の閉鎖などがありましたが、理念なきリストラは「貧すれば鈍する」とばかりに日産を倒産寸前の状態に追いやりました。今回のリストラは果たして理念のあるものなのか…気になるところです。
焦点となっているルノーとの経営統合問題について西川社長は、「(ルノーの)スナール会長は経営統合でいいんじゃないかという意見を持っていることは私も承知している」とした上で、「いまはその議論をする時期ではない」と述べました。さらに「外形的統合は価値を生み出す力を棄損するリスクがある。ネガティブなインパクトが大きい」と、自らは否定的な見解を示しています。
進退については「しかるべきタイミングに後継者にバトンタッチする」と述べました。いずれもこれまでの主張を繰り返したもので、いわば「先送り」、火種は残ったままと言えます。
この決算会見、実は私にとって“反省”のひとときでもありました。
「西川社長のクルマへの情熱、愛情、西川社長にとって日産車とは何なのか…組織改革の機会なので語っていただきたい」
私は会見の最後にあえてこんな質問をしました。これまでの小欄でもお伝えしましたが、自動車会社というものは、どんな改革が行われようが、クルマへの情熱や愛情があってこそ成立するものだと思います。しかるに一連の事件における西川社長の言動からは、クルマに対する愛情や、クルマを通して社会をどのように豊かにして行くのか…そんな“熱”のようなものがあまり感じられなかったため、ご自身の言葉で語ってほしい…そんな思いがありました。回答は次のようなものでした。
「日産のDNAは先進的な技術を詰め込んだ形で、クルマとしてのパフォーマンスの高いものを出し続ける会社、そういうパワーを持ち続けることが非常に大事なことと思っている。移動空間として価値あるものとして日産車を認めていただきたい。だんだん技術が画一化してクルマがコモディティ化する部分もあるだろうが、日産らしさを出して、クルマづくりをできる力をずっと持ち続けていきたい」
その上で、今後、投入する予定のクロスオーバータイプのEVをアピールしました。
記者会見をインターネットなどでご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、どうお感じになりましたでしょうか。「やっぱりそう来たか…聞きたいことはそうではないんですが」…私は正直、途中で頭を抱えてしまいました。これが西川社長のキャラクターかもしれませんが、同じ質問をトヨタ自動車の豊田章男社長や、スズキの鈴木修会長にぶつけたら、どんな答えが返って来るだろう…そんなことも考えます。
西川社長のコメントは、どこか一歩引いたところがあり(経営者としては大事なことかもしれませんが)、心に響くものがないのです。一方で結果的に知りたいことを引き出すことができず、貴重な時間を“宣伝”に割かれてしまったことは、質問者として“敗北”と感じます。(了)