日産・西川社長辞任決まる いかにも日本的な辞任劇…
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「報道部畑中デスクの独り言」(第149回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、西川広人社長の辞任が発表された日産の記者会見について---
「取締役会は代表執行役CEO職から9月16日付で辞任することを要請し、西川広人氏はこれを了承いたしました」
まさに、風雲急を告げる辞任劇。9月9日夜、日産自動車の取締役会後の記者会見で、木村康取締役会議長の一言に記者は息をのみました。
会見ではまず、カルロス・ゴーン前会長をめぐる一連の問題についての内部調査結果を発表。ひと呼吸置いて、木村議長が「西川CEOの辞任について」…進退問題が取締役会で議題になることは予想されていましたが、場内は何とも言えない不穏な空気に包まれ、西川社長の辞任発表と相成ったのでした。
記者会見は当初、午後8時に設定されていましたが、始まったのはその52分後。関係者によると、取締役会は午後3時に始まり、約3時間半を要したということです。慎重か紛糾か…会議が一筋縄で行かなかったことがうかがえます。
会見は前半、木村議長や豊田正和指名委員会委員長ら4人が会見。終了後に“第2部”として、西川社長本人が現れるという流れになりました。
「昨今の状況からすると、即座の辞任が適切だということで辞任をお願いした」
木村議長は辞任のタイミングについて、このように述べました。西川社長が認めた約5000万円もの不正報酬については「違法性はない」としながら、この問題が早期辞任の引き金になったことをうかがわせるものでした。
一方の西川社長は淡々とした表情ながら、「負の部分を全部取り去ることができず、道半ばでバトンタッチする」「やや早いタイミング」と無念さをにじませていました。まさに、追い詰められた形での早期辞任になったと言えます。
2つの会見では、「ひと区切り」「節目」という言葉が何度も出て来ました。あくまでも普段から(「近時」という表現をしていました)辞意を漏らしていた西川社長に対して取締役会がこの日、辞任を要請し、本人から了承を得たという形になっていますが、「事実上の解任」とも解釈できるものです。
1つ気になったのは、木村議長が「取締役会全員の一致」とした上で、「ガバナンス(統治能力)を効かせるのを“ど真ん中”で考えている。ギリギリの納得感を得ていただけるのではないか」と、いささか歯切れの悪いコメントに終始したこと。このあたりの表現は、いかにも「玉虫色」と感じるのは私だけではないと思います。
ゴーン前会長の功罪が相半ばしていることは、これまでもお伝えした通りですが、少なくともこれまでの「しがらみ」を断ち切り、奇跡のV字回復を成し遂げたのは事実です。今回の辞任劇を見て、日本的な「忖度」と「しがらみ」を感じるのは私だけではないでしょう。ゴーン体制以前の混迷時代を彷彿とさせるものがあります。
権限の一極集中を抑え、ガバナンスを強化。経営陣が緊張感をもって任にあたるよう、社外取締役を増やし、指名委員会等設置会社に移行したはずですが、こうしたやりとりを聞くと、はたしてうまく機能するのだろうかという懸念さえ感じます。
後任はあくまでも「代行」という形がとられ(代行は山内康裕COO)、10月末までに正式な後継を決めるということになりました。正式な後継者が不在の宙ぶらりんの状態…区切りという言葉を強調するのは、実態にはほど遠いことの裏返しと言えるでしょう。
指名委員会は後継候補を現在、10名あまりに絞っているのだそうです。外国人、女性、ルノー出身者と様々、「多様な人材」と豊田委員長は話しますが、誰がその任に当たるのか。いずれにしても後任は「火中の栗」を拾うことになるのは間違いありません。
特にこの時期は、東京モーターショーの開催期間に重なります。日産のブースに登壇するのは誰なのか。思えば2年前のモーターショーでは、検査不正問題の影響で、西川社長は当時、日本自動車工業会会長でありながらスピーチを見送りました(ダニエレ・スキラッチ副社長(当時)が登壇)。
ブースではスッキリと後継が決まり、“新生日産”をアピールすることができるのか…とにかくショーの熱気に水を差すことがないよう祈るばかりです。
会見は合計約1時間半、例によって深夜10時を回っての終了となりました。取締役会議長らの会見では冒頭、ゴーン前会長の不正についての社内調査結果が報告され、推定される会社への被害総額は約350億円とされました。
西川社長はゴーン前会長らに対し、「会社をこういう形にして迷惑、心配をかけたことを本当に悔いてもらいたい。謝罪を1回も聞いたことがない」…珍しく強い語気による意志を示して会見を締めました。
今後、会社側がどのように損害賠償請求を起こして行くのか、それも今後の大きな焦点になります。(了)