トルコ軍シリア侵攻を拡大~背景にある3つの問題
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月11日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。トルコ軍がシリアへの侵攻を拡大したニュースについて解説した。
トルコ軍がシリアへの侵攻を拡大
シリア北部で9日夜に始まったトルコの地上作戦で、エルドアン大統領は10日、首都アンカラで演説し、敵対するクルド人勢力のテロリスト109人を殺害したと主張した。主要メディアなどによると、トルコ軍は10日までに181の施設を攻撃、シリア北部の要衝テルアビヤド近郊の村々を制圧、侵攻範囲を広げている。
飯田)トルコ国防省によりますと、殺害した戦闘員らは174人に達したと報じられています。IS有志国の緊急会合を、フランスのルドリアン外相が要請したというニュースも入って来ています。
宮家)複雑な問題なので整理しますと、まずトルコにとってクルド人というのは国内問題であり、しかも分離、独立しようとしているテロリストなわけです。そこで何とか掃討作戦をやりたいのだけれど、トルコ国内のクルド人はシリアに逃げていて、シリアにもクルド人地域があり、彼らが一緒になって常にトルコ国内にちょっかいを出している。当然、トルコとしてはシリアのクルド人を目の敵にしているのです。
今回の3つのポイント
宮家)今回のポイントは3つあると思います。第一はトルコ自身の問題です。トルコはEUに入れないから、中東の方向に方針を変更せざるを得ない、そこで自国を守り、自分の影響力を拡大するためにも、シリアに侵攻してクルド人勢力を殺害した、ということが第1点。第2点は、これでまたシリア北部が混乱して、大量の難民が出ることです。当然難民はヨーロッパに行くことになる。だからフランスの外相は、話し合いで何とかこの侵攻をやめさせたいのです。これはトルコだけではなくて、欧州全体の問題になり得るからです。
シリアという同盟国を捨てたアメリカの信用
宮家)3つ目の最も大事なことは、ワシントンのクレディビリティです。アメリカはISをシリアで掃討したわけだけれど、それはシリアのクルド人の支援がなかったら絶対にできなかったことです。逆にシリアのクルド人にとって、アメリカは同盟国で、一緒に戦ってやっとのことでISを一網打尽にした。そして、これからようやく自分たちの自治ができると思っていたのです。ところがトランプさんは、エルドアンさんに譲歩してトルコの軍事作戦を認めた。つまり、アメリカは一緒に戦った同盟国を「見捨てた」ということです。それは単にトルコ、シリア系クルドの問題ではなくて、世界中に影響します。例えば韓国。韓国はアメリカと同盟を結んでいるけれど、シリアのクルドが捨てられるなら、韓国だっていつ捨てられるかわからない。アメリカの信用は失墜したという議論が、いまアメリカ国内で言われているのです。その意味でこの問題は、トルコ一国の問題、欧州全体の問題であると同時に、世界全体の、「アメリカの同盟国はアメリカを信頼してもいいのか」という問題にも通ずる、とても大きな問題なのです。
飯田)日本だって、アメリカの同盟国の1つですよね。
宮家)まだ日本は中国の問題があって、米海軍がいて、沖縄がありますから良いのです。しかし韓国は状況が違います。ですから、韓国の人はよくよく考えた方がいいと思います。いつかシリアのクルド人のようになる可能性はあるのだから。
EUへ入れてもらえなかったトルコ
飯田)中東の話に戻りますけれど、トルコという国はどうなのですか? 帝国の話になると、オスマントルコ以来となりますか?
宮家)そういうことになりますね。帝国はもちろん、いま作ることはできないのですけれど、彼らとしてはそういう意識もあると思います。その点は中国もロシアもそうだし、ある意味でイランのペルシャ帝国もそうです。ああいう帝国主義的なものを志向するということは、決して健全ではないです。ただ、トルコは絶対にEUに入れてもらえないのだから、かわいそうなのですよね。トルコの人たちはみんな、自分たちをヨーロッパ人だと思っているのですが、ヨーロッパ人だけが、トルコ人をヨーロッパ人だと思っていないのですよ。
飯田)そのために社会の改革もして、何とか入れてくれとやったのだけれど。
宮家)それが裏目に出てしまった、世俗主義化してもEUに入れないのだから、イスラムの考え方が戻るのは当然なのです。やはり世俗主義だけでは、トルコを統治できないということなのでしょう。
飯田)それからクルドの人たちというのは、トルコの山岳の方にもいるし、シリアにもいます。
宮家)イラクにも、イランにもいますね。
飯田浩司のOK! Cozy up!
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