ニッポン放送「ザ・フォーカス」(11月21日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。23日のGSOMIAについて解説した。
GSOMIAとホワイト国からの除外は全く関係のない問題
日本と韓国の高官がGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の失効を避けるための方策について議論していると、韓国の新聞・東亜日報が伝えた。協定の失効期限は23日土曜日の午前0時だが、双方の立場の違いは残ったままと見られ、失効を回避できるかは不透明。(※編集部注:22日、韓国政府が、日本政府に協定を終了するとした通告を停止する方針を伝えてきた)
森田耕次解説委員)韓国大統領府は21日、NSC(国家安全保障会議)の常任委員会を開催したことを明らかにしました。日本と韓国のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の失効期限が23日午前0時に迫っていることを念頭に、「韓国と日本の間の懸案の解決に向けて、関係国と緊密な協議を続けていく」と発表しました。また、韓国大統領府は両国間の懸案によって生じる可能性がある「多様な状況への備えも協議した」と明らかにし、GSOMIAが失効した場合の対応も検討していることを仄めかしました。一方、菅官房長官は21日夕方の記者会見で、GSOMIAについて次のように述べています。
菅官房長官)我が国としては、韓国側に賢明な対応を強く求めていく。こうした立場に変わりはありません。
森田)韓国の新聞・東亜日報によりますと、日本と韓国の高官が接触してGSOMIAの失効を避けるための方策について議論しているということですが、韓国紙は「日本の態度は変わっていない」としています。文在寅大統領も19日のテレビ番組で「最後の瞬間までGSOMIA破棄を避けるため努力する」とは言いつつも、「日本の輸出管理見直しの撤回が必要だ」との主張を繰り返しています。
佐藤)こんなもの、率直に申し上げて韓国の独り相撲ですからね。日本は何も条件をつけていないのだから、もしGSOMIAを失効させたくなければ韓国が「失効させません」と言った瞬間に決まるわけです。それとまったく関係ないところであるホワイト国からの除外を取り上げていますが、それは不拡散の問題、きちんと輸出管理ができていないという問題で、GSOMIAとは関係ありません。関係ないところをリンケージさせて、「撤回すれば我々の方も信頼関係を回復されるからGSOMIAは失効しない」というのは完全な独り相撲です。菅さんはかなり優しい言い方をしていますが、日本政府関係者や外交専門家は「あっそう」という感じで見ていると思います。
森田)アメリカは韓国にGSOMIAを維持しろ、とかなり強く要求していましたね。
佐藤)要求しても聞く耳を持たないし、そもそも防衛費の負担をめぐってトランプ政権も金を出せということを言ってくるのですが、同盟国でしょう。決裂するなんて、普通はない話ですよ。アメリカの方が席を立って出たそうですが、席を立つというのは相当の事情がないと蹴飛ばせないわけで、韓国はかなり頭にきています。重要なのは次のことです。GSOMIAが失効したら、日本がホワイト国から戻さなかったからだということになるでしょう。そうすると、徴用工問題で接収しているじゃないですか。これを現金化する話になるのです。
森田)日本の企業を、ですか。
GSOMIA失効後、中国に引き寄せられる韓国
佐藤)次の局面ではどうなるかというと、韓国って利子率が1.3%くらいあるじゃないですか。実は日本のメガバンクはけっこう韓国に短期資金を融資しているのですよ。国民感情としてそういう韓国に対してお金を貸していていいのか。日本政府としては如何なものか、と言うでしょう。銀行はそういったものに敏感ですから、引き上げるということになります。そうしたら、韓国の金融は大パニックになります。その先は誰がお金を貸してくれると思いますか? アメリカは貸してくれないでしょう。他に貸してくれそうなところはありますか?
森田)中国ですか。
佐藤)そうです。そうすると、ますます中国に引き寄せられるのです。
森田)どんどん中国寄りになっていくということですね。
佐藤)こういうのが水面下の動きですよね。それで中国、北朝鮮、韓国が協力して、日本はけしからんという風になってきたら、38度線にある緊張が対馬海峡にまで下がってくることになります。
失効しても日本へのダメージはない
森田)軍事的にはGSOMIAが失効しても、日本はアメリカとのミサイル防衛の運用は構築していますから、そこに直接的な影響はないのでしょうけれども、北朝鮮軍の動向は韓国の方がよく握っています。北朝鮮の性能の分析も韓国の方が優れているのではないか、ということが言われます。
佐藤)この前の話ですが、北朝鮮が短距離ミサイルを撃ったときには日本の方が早く察知できましたからね。だからあまり心配しなくていいと思います。心配しなくていいと言っていると、韓国の責任が薄れてきてしまいます。これは大変なことです。「日韓の連携ができないと、本当に大変なのですよ」というようなことを言って、韓国を悪者にする雰囲気を醸し出していますよね。誰に醸し出しているのかというと、トランプ大統領ですよ。トランプ大統領はどちらが悪いのかということに関心を持っています。いまのところ、韓国の方が悪い子でしょう。その辺の演出を日本政府もしているということで、なかなかに役者だなと思っています。
森田)GSOMIAの失効は、実際の影響よりも政治的なダメージが大きいということですね。
佐藤)ですから、日本へのダメージはないです。ただ、これがきっかけになって接収している資産の現金化ということになると、もう一段階悪いフェーズに入っていく可能性があります。
北東アジアに介入したいロシア
森田)ロシアが韓国を味方につけようとする動きはあるのでしょうか。
佐藤)味方につけようとは思っていないのですが、中国、北朝鮮、韓国が連携したら、そのゲームに入れないのは面白くないので近寄っていくでしょう。ロシアは韓国よりも北朝鮮を狙っていると思います。
森田)北朝鮮のチェ・ソンヒ第1外務次官がロシアを訪れていて、20日にモスクワでラブロフ外相と会談しているのです。恐らく朝鮮半島情勢、北東アジア情勢について協議したのでしょう。アメリカへの牽制もあるのではないかという報道もあります。
佐藤)私はそれよりもお金の話だと思います。北朝鮮がなぜ核開発できるかというと、ウランが出てくるからなのですよ。それと同じようにレアメタルなどの鉱物資源がたくさんあるのです。ところが、自分たちで掘ることができないのです。
森田)掘る技術がないのですね。
佐藤)掘ればすぐにお金になるのです。ロシアには技術がある。だから、穴を掘ってお金儲けをしようという話だと思います。レアメタルはすぐにお金になりますから、お金儲けをしたいということをお互いに考えていて、大きな戦略的なものよりも短期的な利益の話だと思います。
森田)ロシアはお金狙いですか。
佐藤)いま、朝鮮半島の切り身を中国、韓国、北朝鮮で分けているのですよ。その切り身を俺にもよこせ、とロシアが入って来て、少し多く切る。中国や韓国から少し多く切ったら北朝鮮に分けるから、美味そうな話になってきたら俺にも食わせろ、という話ですよね。
森田)そうやってロシアは食い込んできているのですね。
佐藤)ですから、非常に下品な話だと思います。
ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。