海外ではマスクする人はいない!?

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は「マスクの印象」についてです。

海外ではマスクする人はいない!?

ニッポン放送「メディアリテラシー」

「きゃあ、柿崎さん“も”何でマスクしてるの~?」

手を振りながらこちらに駆け寄って来る女性2人。都内の山手線の駅前で待ち合わせした後輩たちに、開口一番言われた言葉です。1年ぶりなのに、何か他の言葉はなかったのかと思うほどの意外なひとこと。「急に寒くなったのでインフルエンザになったらいやだなと思って…」と答えた私でしたが、彼女たちの関心はまったく違うものでした。

 

【マスクをしてもよい例外】

1月7日の朝日新聞に“「接客時のマスク着用は禁止」 あり? なし?”という記事が掲載されました。マスクの着用を禁止する! とは、花粉症の私には聞き捨てなりません。

記事の内容は流通大手のスーパーが全国の傘下の小売りに対して、去年(2019年)12月に接客時のマスク着用を原則として禁じる通達を出したことに始まります。グループ傘下で働く女性が「マスクは外してね」と同僚に注意され、女性は気管支が弱く毎日マスクで売り場に立っていたため、「禁止ばかりが徹底されるのは困惑する」というものでした。

そもそも“接客時のマスク着用は円滑なコミュニケーションの妨げとなる”、“体調不良に見える”との理由で禁止されていましたが、“お客様はマスクで予防するのになぜ禁止されるのか、インフルエンザの季節におかしいのではないか?”との意見があるというのです。

この流通グループでは、“マスクを着用してもよい例外”として統一ルールがあり、風邪やアレルギー、その他の理由で上司に申し出がある場合は認められるようです。若い世代では、自分の表情を隠すためにマスクを日常的につける人が増えていて、「特に悪い印象はない」ということもあり、お店ごとに柔軟に対応してほしいとルールを運用しているようです。

それにしても、窮屈な世の中になったものだと感じます。「マスクをつけてもよい例外」とは、日本語の用法の面からもおかしな表現です。「~してはいけない例外」ならわかりますが、「~してもよい例外」というのは、いかにも日本的だなという印象を持ちました。

日本的と言えば、1年を通してマスクを常に着用するのは、外の人には奇異に映るようです。冒頭の後輩の話にもどります。私はなぜ「柿崎さん“も”マスクしてるの~?」と言われたのでしょうか?

彼女たちはこう答えました。「だって、日本に来たらみんなマスクをしてるんだもの…」

海外ではマスクする人はいない!?

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【マスク着用は常識なのか?】

後輩の1人は外資系の企業に勤めていましたが、同僚の男性と結婚し、その男性の転勤に伴ってニューヨークに渡りました。小学生の娘と3人暮らしの一方で、メトロポリタン美術館の公式ガイドをしていて、今回は年末のお休みで日本に帰っていました。

もう1人の後輩も、お正月を日本で過ごそうとスコットランドから帰省中でした。彼女はお寺の娘ですが、スコットランド人と結婚し、自然豊かなエジンバラの大学で日本語を教える傍ら、盲導犬を育てることに夢中とのこと。

ふたりとも日本に帰って来たら「どこに行ってもみんなマスクをつけていて、異様な雰囲気だ」と言い、そこに、私までマスクをして現れたので大うけだったと言うのです。それほど外国ではマスクを着用する習慣がないとのことでした。

文化の違いと言えばそれまでですが、日本は他人への気遣いから、くしゃみや咳が出るならマスクをしているべきで、最近では電車内でゴホゴホせき込むと露骨に嫌な顔をされます。また自分に自信がないなど、恥ずかしさからマスクをつける人も増加していて、むしろマスク姿はふつうというイメージが出来上がっています。

しかし、私自身は相手の表情がわからない上に、ファッションとしてもイメージダウンのような気がしていて、着用にはあまり積極的ではありません。一方、これからの時期は花粉症で困っている人にとってマスクはありがたいもの。マスクのある、なしでは症状が変わりますので、外すことは考えられないでしょう。

結局、価値観の違いから議論は平行線になってしまうのでしょうが、ひとつの判断材料として、グローバルに活躍する私の後輩たちの目には、多くの人のマスク着用はとても不思議に見えるということでした。みなさんはどう感じるでしょうか?

海外ではマスクする人はいない!?

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【コミュニケーションにおける原則】

コミュニケーションの原則として、相手の反応に合わせて行動するというポイントがあります。自分の言いたいことは伝わっているのか、もう少しかみ砕いた方がいいのかなど、相手の反応を見て話を展開しないと独りよがりになります。

反応をうかがう意味で、相手の表情をみるのは大原則と言っていいでしょう。それはマスクをしていると難しいですね。それゆえコラムのなかでは、「風邪気味なのでマスクで失礼します」と一言添えれば済むことでは、との意見もありました。私も話すときはマスクをあごまで下げていることが多いです。

いずれにしても「規則」や「ルール」としてしまうと、急にハードルが高くなってしまいますので、自分のことだけではなく、相手のことを第一に考えたいものです。

海外ではマスクする人はいない!?

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【習うより慣れろ】

ところで、英語を流ちょうに話す後輩たちは、こんなことも言っていました。「日本と最も違うのは、スーパーでおしゃべりすること。スーパーに行ってレジを通るときが関門なんです」と。

声を発しなくても、レジの金額をみれば買い物はできます。さらに、キャッシュレスが進み「カードで…」や「スイカで」しか言葉を交わすことはなくなっています。しかし海外では、そこにいわゆる雑談の能力が必要だと言うのです。

「ハーイ! きょうは天気がいいけど、どこかに行くの?」「気持ちいいわよね、子供たちと動物園に」「それは素敵ね、よい1日を!」なんていう会話が日常であるのです。他愛のないことを気軽に、自由に話せる能力は、学んで身につけるものではありませんので、確かに関門です。

これに対して彼女たちは「習慣化することで慣れました」と言っていました。最初の1歩は大変ですが、『習うより慣れろ』…知らない人と話すことは、慣れだと思えば怖くないかもしれません。

今回、一時帰国していた後輩たちには、おしゃべりのなかで多くのことを教えてもらいました。

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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