アメリカがICBMの発射実験をする2つの目的

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月7日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。アメリカが行ったICBMの発射実験のニュースについて解説した。飯田浩司が休みのため新行市佳が進行を務めた。

アメリカがICBMの発射実験

アメリカ空軍は5日、西部カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行ったと発表した。声明で、「発射実験は安全かつ効果的な核抑止力を維持するための貴重なデータを提供し、ICBMの正確性と信頼性確認に寄与する」と述べている。

新行)このタイミングでこの時期に、ICBMの発射実験ということですが。

老朽化対策の確認としての発射実験

宮家)ICBMは、これから北朝鮮が作ろうとしているものですですよね。だったら、「アメリカがなぜ発射実験?」と思いますよね。しかし、よく考えてみると、米ソがICBMを何千発も作ったのは冷戦時代の60年代~70年代です。それをいま少しずつ減らしているのですが、全体としては老朽化しているわけです。下手したら50年以上前のミサイルである可能性もあります。何かあって「撃つぞ」と撃ったら、効果がなかったということでは困るではないですか。核抑止力を維持するためには、やはりちゃんと点検しておいて、いつでも発射できるようにしていなくてはいけない。部品についても1つ1つ点検して、必要に応じてより性能のいいものに換えるということです。ここにあるように、「ICBMの正確性と信頼性確認に寄与する」、つまり、きちんと撃てるか確認しておきたいということだと思います。つまり、老朽化対策です。

アメリカがICBMの発射実験をする2つの目的

会談前、握手するロシアのプーチン大統領(右)と安倍首相=2019年9月5日、ロシア・ウラジオストク(共同) 写真提供:共同通信社

もう1つの目的はロシアに対抗する最新性能のICBMの開発

宮家)それからもう1つ、アメリカとロシアはいずれも1000発以上のICBMを持っていますが、中国はたしか200も行っていないと思います。ですので、アメリカの対象は当然ロシアなのですが、いま、そのロシアが新しいミサイルを開発しようとしています。しかも、それが普通の弾道ミサイルではなくて、複雑な軌道のもののようなのです。

新行)軌道が読みづらいということですか?

宮家)そういうことです。そうすると迎撃システム、ミサイル防衛システムで撃ち落とせない可能性があります。それもあってアメリカは、いまは既存のICBMの老朽化対策として部品を変えているだけなのかもしれないけれど、次にアメリカがICBM近代化をやるとしたら、ロシアと同じように複雑な飛び方をする長距離ミサイルの開発です。ロシアにはいまのところミサイル防衛システムはありませんが。その意味では、いずれロシアとアメリカの間で新たに軍拡競争が始まる可能性があるのです。

新行)メールもいただいています。八王子市にお住まいの39歳男性、“けんすけ”さんからです。「ICBMの実験をしたようですが、それだけではなく小型核弾頭を実戦配備したニュースが新聞に載っていました。アメリカを偉大にするということの一環でしょう。これで核なき世界がまた遠のいたと思います。他の国が反発するのは必至で、軍拡競争が激しくなると思うと怖いですね」といただきました。

アメリカがICBMの発射実験をする2つの目的

北朝鮮の労働新聞が2017年3月19日掲載した、東倉里の「西海衛星発射場」で行われた高出力ロケットエンジンの地上燃焼実験の写真(コリアメディア提供・共同) 写真提供:共同通信社

核に対しての抑止力に日本はどのように向き合えばいいのか

宮家)本当にそうですね。ただ現実はもっと厳しくて、先ほど老朽化の話をしたけれど、ICBMは50年~60年経っているものがある。そして、核兵器は1940年代の技術です。1945年に日本に落とされたわけですからね。つまり北朝鮮がそれを手に入れるのは簡単で、それほど難しい技術ではないということです。だから我々が、もちろん被爆国として言わなくてはいけないこともあるし、核なき世界が理想であることは間違いない。けれども、実際に起きていることは逆のことなのです。こういうことはベストではないのだけれども、向こうが核を持っているときに、日本が核を持つかどうかは別として、どこかの国が「そんなことをしたら同じように報復をするぞ、だから絶対に核兵器は使うなよ」という抑止力としての核兵器は、やはり必要なのだと言う人もいる。そのなかで、この矛盾をどのように両立させるかということは、日本の外交の難しいところなのだけれど、「核がなければすべてがよくなる」という話でもない。やはり軍拡はこれからも続くという前提で、いかにそのなかで国際情勢を安定させるかということを考えなくてはいけない時代に来てしまっているのだと思います。

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