緊急事態宣言発令~新型コロナ・あの三連休の“気の緩み”と報道メディアのスタンス

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「報道部畑中デスクの独り言」(第183回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、新型コロナウイルス感染症に関する“報道”について---

緊急事態宣言発令~新型コロナ・あの三連休の“気の緩み”と報道メディアのスタンス

緊急事態宣言を発令し会見で国民に協力を呼びかける安倍晋三首相=2020年4月7日午後、首相官邸  写真提供:産経新聞社

新型コロナウイルスの感染拡大は続き、政府はついに4月7日、東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・兵庫・福岡の大都市圏七都府県に緊急事態宣言を発令しました。この日は諮問委員会の意見聴取、国会への事前報告、対策本部会合での総理大臣の発令表明、そして記者会見と、所定の手続きが進められました。私もこの日、永田町を中心に慌ただしい1日を過ごしました。

国会では議院運営委員会が開かれました。議院運営委員会のメンバーは25名で、普段は議長サロンといった場所でこじんまりと開かれますが、今回は通常50名のメンバーが集う予算委員会の一室。広いスペースで議員はひと席ひと席空けた状態で座るという異例づくめの審議となりました。もちろん「コロナ対策」の一環ですが、議事が進むにあたり、粛々とした中にも、大きな決断が迫る張り詰めた緊張感がありました。

午後7時過ぎには安倍総理大臣の記者会見。これも普段行われている官邸会見室から一回り大きい大ホールに会場を移して開かれました。官邸会見室は通常、政府関係者を含め120以上の席がありますが、今回はわずか30席ほどに絞られ、その他の記者は官邸会見室に流れる音声をモニターするなどして取材に臨みました。

髪をオールバックに整え直しての安倍総理の会見。医療関係者への感謝から始まり、「医療現場を守るため、あらゆる手を尽くす」と発言、医療崩壊を防ぐ狙いを象徴するものとなりました。また、現在のペースで感染拡大が続けば、感染者が2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えると危機感を示し、「この緊急事態を1カ月で終了するために、人の接触を7割から8割削減することが前提」と述べました。一方、経済状況については「戦後最大の危機に直面している」と述べ、事業規模108兆円の経済対策を実施すると強調しました。ほぼ国家予算1年分、GDP=国内総生産の2割に相当する金額です。

緊急事態宣言……ここまでに至った原因はいくつか考えられますが、中でも指摘されているのが「気の緩み」、とりわけ3月20日から22日の三連休の過ごし方に思い当たらないわけにはいきません。

緊急事態宣言発令~新型コロナ・あの三連休の“気の緩み”と報道メディアのスタンス

加藤勝信厚生労働相と西村康稔国務大臣らが出席し行われた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議=2020年3月19日午後、東京都千代田区

3月19日、新型コロナウイルスに関する専門家会議が開かれました。3月2日の小中学校・高校の一斉休校要請から約3週間、当時、国民にいわゆる「自粛疲れ」があったことは否めません。そんな世の中の空気もあり、学校再開やイベント自粛の緩和がいつになるかが関心の的となっていました。

内容は始まる前から少しずつ明らかになっていました。その要旨は「大規模なイベントの開催に慎重な対応を求める一方で、感染が確認されていない地域では学校での活動を行ってもよいという新たな見解をまとめた」というもの。“新見解”には爆発的感染拡大を意味する「オーバーシュート」という言葉が使われ、引き続きの警戒を呼びかけましたが、一方でこれを受けて、政府は小中学校や高校などに要請している一斉休校について、一部解除する方向で検討に入りました。

専門家会議の記者会見に参加したニッポン放送の宮崎裕子記者によると、会場ではとても「緩和」のようなポジティブな雰囲気は感じられなかったといいます。中でも印象に残っているのが専門家会議のメンバーの1人、北海道大学大学院の西浦博教授の言葉です。

「いまこのままの状況で、せっかくの希望の光が見えたところなんですけれども、感染者はこれまでの中国とは比べ物にならないレベルで日本にやってきます。これだけはどうしても止めることができませんので。このまま丸腰で受けると、大規模流行が起こります。あまり残されている時間はないんですけれども、以上のことを基に、皆さんでここから一度、経済活動を元に戻すのか、一度みんな向き合って考えてもらいたい。憂慮すべき状態です」

西浦氏の言葉からは鬼気迫るものを感じたと言います。ニッポン放送では翌20日朝のニュースで、「大規模なイベント慎重な対応」「一斉休校について一部解除の方向で政府検討」と報じる一方、西浦氏の発言も伝えました。

緊急事態宣言発令~新型コロナ・あの三連休の“気の緩み”と報道メディアのスタンス

専門家会議の内容を報じる20日付の新聞各紙の見出しです。各紙はほぼ一面トップ、もしくはそれに準ずる扱いになりました。

・大イベントなお慎重「持ちこたえているが一部で感染拡大」爆発的拡大への懸念も(朝日)
・都市部 患者急増「警戒」不在地域は自粛解除容認(毎日)
・新型コロナ 爆発的患者増を警戒 都市部高リスク 大規模催し 慎重に判断(読売)
・感染ない地域 休校解除も 大都市 爆発的拡大を警戒(日経)
・新見解 コロナ休校一部解除容認 大規模イベント「慎重に」爆発的感染拡大懸念」(産経)
・休校解除 地域ごと容認 大規模イベント「慎重に」新見解」(東京)

「警戒」か「解除」か……見出しの順序において各紙の判断は微妙に分かれましたが、テレビでは「なぜ、緩和の条件を具体的に示さないのか?」といった、緩和を前提にしたかのような報道もありました。しかし、西浦氏の発言のような危機意識の前では示せるわけはないのです。

20日の日中はどのようなニュースが報じられたのか?私はこの日、ニュースデスクでしたが、報じたのは以下のようなものでした。

「五輪の聖火到着式」「五輪の延期判断時期尚早」「新型コロナ、アメリカが渡航警戒レベルを4に引き上げ」「地下鉄サリン事件25年」……このほか、新型コロナウイルスに関しては「全世界で死者1万人という大学の集計」「兵庫、新潟、広島で新たな感染者」などのニュースを報じました。

これらのニュースが重要なのは確かです。しかし、専門家会議で現場の記者が感じた危機感が引き継がれていたかと言えば、反省の余地があるのが正直なところです。特に聖火の到着式は、オリンピックの「予定通り」の開催を前提とした動きだっただけに、楽観的な印象を強くしていたと言えます。

さらに21日、つまり三連休中日の朝刊各紙の一面トップは以下のようなものでした。

・一斉休校要請 延長せず 政府 再開の指針 来週公表(朝日)
・一斉休校 新学期の解除 政府方針 判断地域ごと(毎日)
・一斉休校 延長せず 政府 新学期に再開へ(読売)
・米、NYなど3州外出制限「700万人経済圏」に影響(日経)
・学校 新学期から再開へ 政府、来週に方針公表(産経)
・移住相談偽装 首都圏でも(東京)

どうでしょうか? 明らかに「一息ついた」という流れだったのではないでしょうか?

いまは何より感染爆発の防止に全力を尽くさなくてはならないことは言うまでもありません。また、東京都などの外出自粛要請、その後の緊急事態宣言が現状にどのような影響を与えるのか、結論はまだまだ先になるでしょう。

ただ、現在の事態に至った三連休後の感染拡大は、果たして「結果論」として片づけられるのか、専門家が訴えた危機感は真摯に共有できていたのか、そして、気の緩みに私どもメディアが加担していなかったと言い切れるのか……

いまは後世に語り継がれるであろう歴史の真っただ中にあります。そこには数多の教訓も生まれることでしょう。先の三連休のメディアを含めた対応は間違いなくその一つになると思います。そして、将来、恥じることなく歴史の証言台に立つには、これからの行動がカギを握ります。(了)

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